変わらない僕ら縦書き表示RDF


かなりの短文です。
登場人物の感情が交互になっています。
変わらない僕ら
作:snowman



 僕は此処から動かない。
遠い過去の想いを今もまだ切り離せずに僕は少しずつ汚れ、大人という世界に馴染んでいく。

 彼女と会わなくなって何年になるのだろう。
初恋とは言い難いほどに深く落ち逝く感情。
好きだとかそんな可愛い言葉では言い表せない。
愛だとかそんな綺麗な言葉では片付けられない。
ただ僕には彼女の存在が必要で、会えない時には頭が痛くなりそうなほど。
恋愛感情なのかも分からない。
でも僕は彼女がたとえ男として生まれてきたとしても、変わらずにこの想いになっていたのだと思う。




 彼と会わなくなってから歳月を数えるのを止めた。
私の拙い記憶からは彼の笑顔も声もボヤけ始めているというのに、彼の匂いは色褪せずに私の中に焼きついている。
最後に会ったあの日。
最初で最後の短い抱擁が私をあの日に縛り続けている。

彼とはどれくらい一緒に過ごしたのだろう。
それすら分からなくなる程に一緒に居たのだと思う。
とくに遊ぶわけでもなく隣にいた。
どちらかが本屋に行きたかったり、お腹が減れば自然と二人で出掛けた。
デートというデートをした記憶もない。
そもそも恋人だったのかも分からない。
手を繋ぐわけでもなく。腕を組むわけでもなく。
ましてやキスなどしたこともなかった。
ただいつも隣にいた。
隣にいないと不安でしょうがなかった。



 僕は彼女と過ごした中で、彼女に手を出すことが出来なかった。
手を繋ぐことさえも・・・
僕は信じられなかった。男女の関係を。
いつか壊れるものとしか思えなかった。
そんな不確かな関係になってしまうのなら、このままでいいと。
でもこのままの関係の方が、何倍も不確かで脆いのだということも分かっていた。
それでも踏み出さなかったのは、僕がとても幼く弱い人間だからなのだろう。



 もう少し私のプライドが低かったら、今ごろ彼と結婚でもしていたのだろうか。
彼が私をとても必要としていたのも、お互いが酷く想い合っていたのも分かっていたのに。
でもお互いが臆病すぎた。
彼は私を失いたくなくて。
私は彼を失いたくなくて。
最後はお互いが自ら手放した。
失うことに怯えて過ごすことが恐くて逃げた。
最後の温もりが忘れられないのはその時までは知らなかった、彼の腕の優しさを知ってしまったからだろう。



 彼女との最後の日。
僕は始めて彼女を抱きしめた。
彼女から言われた。
「一度だけ抱きしめて」
最後まで僕は自分から彼女を求めることが出来なかった。
情けなくてしょうが無かった。
抱きしめた彼女は思っていたより小さくて細くて、折ってしまわないか恐かった。
それでも柔らかく温かい存在が愛おしく涙が出た。



 最後に抱きしめてと言ったのは想いを通じ合わせたかったから。
抱擁は言葉よりも温かく包んでくれた。
十分過ぎるほど気持ちが通じた。
セックスは私にとって曝け出す行為で、彼には自分のことを曝け出すことができなかった。
私の幼稚なプライドがそうさせたけれど、その行為自体が重要だったわけではないと今になって思う。
互いが幼かったからこそ無条件にあんなにも深く落ち逝くままに想えたのだろう。
世界を知りすぎた故の臆病ではなく。
相手を想い過ぎて、小さな自分には納まりきれなかった。



 
 あの時の感情は最初で最後だった。
もうあんなに一人の人間を必要だと思うことはない。
誰に何と言われようと。
過去を振り返り過ぎだと責められようと。
今も自分は生きているけど、今自分が此処に居るのはあの瞬間があったから。
相手の姿かたちは忘れてしまっても、感情は色褪せず此処にある。
そんなままでいられるのが、なんだかとても幸せで。
想い出せばその時の感情が当時のように押し寄せて。
いつまでもこのまま。
それが不幸だなんて、誰にも言わせない。



 僕らはいつまでも此処に居て、あの時のまま。

 私たちは自分たちで時間を止め、いつまでも共にいる。

 それが二人で決めた未来。














ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK
小説家になろう