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月が泣いた秋
作:betymogu


いつの間にか、寝苦しい夏の熱帯夜もどこかへ行ってしまい
そよそよと、涼しい秋風が漂い始めました

何処までも、高くそびえ立っていた入道雲も
いつしかちぎれて、うろこ雲に姿を変えていました

夕立のように降り注いでいた蝉の声も
両手を一杯に広げて背伸びをしていた木々も
今は静かに口を閉ざしている

あれだけ命を謳歌していた夏の賑わいは
祭りの後の寂しさのように、ひっそりとして
鈴虫だけが、別れを惜しんで唄っている

夜空にポツンと浮かぶ月は
急に胸が締め付けられる思いがした
気が付けば、たった一人になっている
そんな孤独な闇に包まれていた

夜空には、こんなに星が浮かんでいるのに
冷たく光る、よそよそしいきらめきが
余計に月を、孤独に感じさせていた

月にはもう、プラタナスの枯葉がカサカサ転がる音が聞こえていた
目の前には、凍てつく木枯しが吹きすさんでいた
地上に転がる虫達の亡き骸も、雪に覆われ眠っていた
月にはもう直ぐそこまで来ている運命が見えていた

何も知らずに唄う虫達が、月には哀れに思えてならなかった
このわたしだっていつの日か・・・
月は無性に愛されたいと思いました
心の中から愛されたいと、叫びたい気持ちになりました

通りがかりの彗星が、泣いてる月を見て言いました
「どうして泣いているんだい?」
月は恥ずかしそうに答えました
「あの哀れな虫達を見ていたら、一人ぼっちなわたしに気が付きました」
彗星は、一旦飛ぶのを止めてこう言いました

「あの虫達は、生きる意味も死ぬ意味も知りません」
「だけど、生きる喜びだけは知っています」
「あの歌は、悲しみの唄ではありません」
「愛の唄、喜びの唄ですよ」

そして、もうひとつ月に言いました
「お月さん、あなたは一人じゃありません」
「命あるもの一人では生きていません」
「心の霧を払い除け、耳を澄まして御覧なさい」
そう言うと、彗星は再び夜空の果てへ飛んで行きました

「お月さん、泣かないで」
「笑って、笑って」
何処からともなく声が聞こえて来ました

涙で潤んだ目を拭くと、虫達が自分を見上げているのが見えました
「僕達の、行く末を案じてくれる優しいお月さん」
「僕達も、いつもあなたを見ています」
「後ろを見て下さい、お星様達もみんなあなたを見ています」
振り返ると、さっきまで冷たく輝いて見えていた星達が
にこやかに笑って見えました

「太陽に照らされて日照りになる時も、大雨で洪水になる時も」
「全ては生きるためのものなのです」
「全ての命のためなのです」
「私達だけのものではありません」

虫達がそう言うと、月が訊ねました
「あなた達は、それで悲しくはないのですか?」
すると、虫達はこう言いました
「悲しみに暮れる時もあります」
「でも、生きている者達は、命の限り生き続けます」
「与えられた命をつなぐために」
「そして、感謝をしています、宇宙の全てに」

「宇宙の全てに?」
月がこう言うと、虫達は声を揃えて言いました
「はい、宇宙の全てに!」
「私達は、全てつながっています」
「誰一人欠けても生きていけません」
「あなたもですよ、お月さん」

そう言われると、月は少し気持ちが軽くなりました
そして、自分の居場所があるように思えて来ました
「ひとりじゃない、全てはみんなつながっている」
そんな歌声が、宇宙に木霊しているように思えて来ました

季節の移ろいは、命あるもの全ての大切な幕開け
絶える事のない命のバトン
多くのものと関わりあう命
網の目のような命の連鎖の中にいる
あなたもわたしも
誰も一人じゃない
誰もが役割を持っている

寂しくて、泣きたくなった時には
今度は月が教えてくれる
あなたのいる意味を・・・
「ひとりじゃないよ」


生きる意味は分からなくとも、生きる喜びは誰でも知っている。
そして、一人じゃないことも・・・













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