3.調査
少し早い歩きで樹清は家に向かっていた。
家には1冊だけ魔法について記してある本がある。
魔法の基礎と魔力についてが少しだけ書いてある本。
どうやって手に入れたのか昔の事でよくおぼえていない。
「あの本に少しでも手がかりがあればいいけど・・・」
早足で歩いていたおかげで、
普段より早く樹清は自分の住んでいる家にたどり着いた。
樹清が住んでいる家は一戸建ての普通の家で外見は和風である。
家族は事故で亡くし、一人だけで暮らしていた。
樹清は家に上がり、自分の部屋に向かう。
部屋の本棚からボロボロのノートのような物を手にとった。
「本って言うよりメモに近いなぁ」
そんな事を呟きながら本をパラパラとめくる。
「どういう調べ方したらいいだろう・・・とりあえず読み返すかぁ」
樹清は座り込み、本を読み始めた。
*
「私達はどうやってを調べようかしら」
亜矢の家のそばまでやってきた女の子メンバーは相談をしていた。
「二手に分かれるしかないんじゃないですか?
・・・私魔法使えないし」
「そうね、私と緒恋はバラバラに行った方がいいわね
・・・じゃあ桃ちゃんは私ときなさい」
「はいっ」
「それじゃぁ、がんばってぇ〜」
緒恋はひらひらと手を振りながら歩き始める。
「さぁ行きましょうか」
二人も反対方向に歩き始めた。
「ところで先輩、どうやって調べるんですか?」
「とりあえず、感知魔法でこの近くに普通じゃないところがないか探してみるわ」
「あの・・感知魔法って香奈枝先輩の性質に合ってるんですか?」
「合ってないけど使えないわけじゃないのよ、
だからとりあえず出来るようになっておいた方がいいっていう魔法は
性質関係なくやってるの」
「大変ですねぇ」
そうね、と微笑みながら感知魔法を使う。
香奈枝の体から緑色のもやの様な光が出る。
「この辺は何もなさそう・・原因がどこにあるかわかないわ」
「声ってどこから聞こえたんでしょうね・・・」
「やっぱり精神的な部分なのかしら」
亜矢の家の方を見ながら香奈枝は言った。
「樹清先輩が何か見つけてくれるかもしれないですよ」
「う〜ん」
心配そうな声を香奈枝はあげる。
実は樹清と香奈枝は小学生から同級生で、
昔魔法が書いてある本を見せてもらった事があった。
そこには基礎基本しか載っていなかった気がする。
「もしかしたら樹清が何か情報を持ってくるかもしれないわね、
・・・期待はしてないけど」
「どういうことですか?」
気にしないで、と言う香奈枝を不思議そうな顔で桃が見る。
「ここらへんには何も無いわね、少し歩いてみましょう」
普通に歩くより少しだけ遅いペースで歩き始めた。
「あの・・・いきなりですけど、今まで魔法部にどんな依頼があったんですか?」
「え?・・・依頼ねぇ、なくした物を探してほしいとか、
いなくなった猫を探してほしいとか、そんな感じの依頼しかないわねぇ、
今回のような依頼は初めてだわ、今までは探すものがなんなのかはっきりしてたから」
「じゃあ猫を探してた時はどうやって探したんですか?
ずっと同じところにはいるわけないですよね?」
「猫のときは・・・・飼い主から猫が前につけてた首輪を借りて
・・・それを手がかりに探したわ」
「動いていない物はしらみつぶしに探せばいいけど、
動いているものは手がかりがないと探し出せないですね・・・」
「動いてる・・もの・・・」
香奈枝は何かを思いついたように考え始めた。
「原因が動いてる可能性が・・・あるかもしれないわ、
・・1回緒恋と合流しましょう」
そう言いながら香奈枝は早足で亜矢の家に向かう。
香奈枝の背中を見ながら桃は何かを呟いたようだった。
*
緒恋は少し寂しそうに歩いていた。
誰もしゃべる相手が居ないとつまらない。
「はぁ〜、一人はつまんなぁい」
そう言いつつ調査はしっかりやっていた。
「あんまり感知魔法は得意じゃないんだよぉ」
緒恋の[水]の性質の魔力は感知魔法にあまり合わないのかもしれない。
それでも感知魔法を使えるようにしたのは、
樹清が出来るようになった方がいいと言ったから。
それから身体強化魔法もだ。
この2つはとりあえず基本らしい。
「3人でまとまって調べた方がいいかもぉ」
だんだん集中力が鈍ってきた。
「ポンポン」
「緒恋ちゃんっ、こんにちは」
いつのまにかうしろに亜矢が立っていた。
「あっ、亜矢さんっ」
緒恋の顔から疲れが吹っ飛ぶ。
「よかったぁ、一人でさびしかったんですぅ」
「そうなんだ、邪魔にならないかな?」
「ぜんぜんっ」
緒恋は亜矢の腕にピシッとつかまった。
「遅くなってゴメンね、ちょっと用事があって」
「いえっ、来てくれてよかった」
「ところで、他の人は?」
「バラバラになって調査してるんですよ」
「そうなんだ・・・一度私の家に来て休憩しない?」
待ってましたと小さくガッツポーズをする緒恋。
二人は亜矢の家の方に歩き出す。
何を思ったか緒恋は亜矢の顔をまじまじと見つめた。
香奈枝ほどではないが大人っぽい雰囲気をかもし出している。
つけたりはずしたりしているのか今日はメガネをかけていた。
わかりやすくいうと委員長という感じだ。
「え?何?」
亜矢が視線に気付く。
「亜矢さん美人だなぁって」
「そ、そんな事・・ないよっ」
否定しながら顔を少し赤らめた。
「ははっ可愛いですっ」
緒恋が嬉しそうに言う。
「もぉ、からかわないでっ・・・あれ・・香奈枝ちゃんじゃない?」
前の方から香奈枝が小走りで向かってくるのが見えた。
「どうしたんだろぉ」
「緒恋〜、ここに居たのね、探したわ」
「香奈枝ちゃん、ちょうど良かった、私の家で休憩しない?」
「あっ、はい、休憩します」
「じゃあ行こう」
4人は亜矢の家に向かう。
香奈枝と緒恋は亜矢の後ろからついていく。
「そういえば香奈枝はどうしてちょっと急いでたの〜?」
思い出したように緒恋が香奈枝に聞いた。
「ちょっと、調査方法について思いついた事があるのよ」
「なぁに?」
「私たちは勝手に声の原因が動かないものだと決め付けてたでしょ?
もしかしたら動き回るものかもって思ったの、
声って事は意思があるってことだし・・・」
「誰かがやってる可能性があるの?」
「まだわからないわ、この依頼は今までの様な簡単な物じゃない気がするの、
だからあらゆる可能性をもっと考えるべきよ」
話をしているうちに亜矢の家の前まで来ていた。
「とりあえず、休憩してから考えましょ」
「そぉだねぇ」
「さぁ、あがってあがって、ケーキが買ってあるんだ」
亜矢が嬉しそうに3人を家にあげる。
ケーキは女の子達の大好物だからか4人の足取りは軽かった。
*
少女はある家を見ていた。
樹清の事が心配で見に来ていたのだ。
彼は魔法についての知識が少なすぎる。
たぶん亜矢の依頼は解決できないだろう。
「接触したあの時、ヒントも一緒に言っておけばよかった・・・・
緊張してたから・・・」
接触した時の事を思い出し、ため息を吐きながら反省する。
「私も・・・まだまだ・・・あなたも・・・まだまだ」
そう言いつつも少女は樹清に期待をしていた。
おそらく樹清は感知魔法を常に発動し続けている。
それは結構すごい事だ。
そんな事を出来るのだから魔力の量はそれなりにあるはず。
魔力は誰でも少しだけ持っているもの。
だから誰でも魔法を使える可能性を持っていて、練習で強化できる。
つまり魔力量=練習量とも言える。
「努力をできる人は・・・のびます」
少女は少し嬉しそうにつぶやいた。
「でも・・・どうしてあんな本が?」
魔法について記録されている物は数少ないはず。
魔法の研究なんていうものをしている者がほとんどいないし、
魔法を使える者は新しい技術を見つけても自分だけの物にしてしまう。
いろいろな事情が偶然重なって魔法の難易度が高くなっていた。
そんななかで魔法についての本なんて普通、手に入らない。
「今は・・・・関係ないか」
そのうちわかる事だと気にする事をやめた。
「ヒント・・・出した方がいいかな・・・
でも自分で解決した方がためになるし・・・」
うんうんと悩んでいると、樹清が家から出てきてしまった。
「あっ」
ヒントを出す事をぐっとこらえ、樹清の背中を見送った。
*
亜矢の家で休憩をしていた女の子達はケーキを食べ終えていた。
「おいしかったわ」
そうだねと他の3人もうなずく。
「ところで香奈枝、さっきの話しどうする?」
緒恋が真面目な顔で聞いた。
「さっきの話し?」
亜矢が聞き返す。
「今まで考えていた物と違う可能性を思いついたという話しです」
「依頼の事?」
「そうです」
少しの間、沈黙が流れた。
「これからいろいろ質問したいと思います。」
香奈枝がそう言った時、呼び鈴が鳴った。
「こんにちわ〜」
「ちょうど樹清が来たみたいだわ」
そして亜矢が立ち上がり玄関に出迎えに行った。
*
魔法部のメンバーと亜矢は居間で机を囲って座っていた。
「ちょっとお茶入れてくるね」
亜矢が立ち上がり部屋の外に出て行くと香奈枝が話し始める。
「亜矢さんの言う"声"について思いついたことがあるのよ」
「何を思いついたの?」
少し真剣な顔で樹清は聞き返した。
「・・・原因が動いてる可能性があると思うのよ」
「え?でも亜矢さんの聞いた声は亜矢さんにしか聞こえてないんだよ?
何か別の音が声みたいに聞こえてたりとかの方が・・・・」
「これは勘よ・・・確証はないけど・・・」
樹清の声を香奈枝の声がさえぎる。
そこに亜矢がお茶を持って戻ってきた。
はいどうぞとお茶を樹清に渡す。
香奈枝はもとの位置に座った亜矢に話し始めた。
「それじゃあ質問しますから答えてくださいね」
「うん」
「魔法は・・・・使えますか?」
「え?使えないよ?」
「じゃあ、家族に魔法を使える人は?」
「多分・・・誰も使えない」
「ストーカーとか誰かに付きまとわれた事は?」
「・・・・ないよ」
それから何個かの質問をしていく。
「だいたい聞きたいことは聞きました、ありがとうございます」
「いえいえ、私に出来ることは少ないしね」
ふと樹清が時計を見るともう夕方の時間帯になっていた。
「そろそろ帰ろうかな、僕も家のまわり見ていきたいし」
「樹清君もありがとね、私のためにいろいろしてくれて」
「いえそんな、たいしたことはしてないです・・・それじゃあ」
申し訳なさそうにしながら樹清は玄関に向かった。
「すいません・・・・私も帰りますね」
そう言って桃も樹清に続く。
2人は玄関を出ると少しゆっくりと歩き始めた。
「ところで香奈枝さんが聞いた話しでどういう事がわかるんですか?」
う〜ん、と少し悩んだ後質問に答える。
「亜矢さんとその家族が魔法を使えるなら暴発の可能性とか・・・・
ストーカーが魔法で嫌がらせしてる可能性とか・・・」
樹清ははっきりと断定が出来なかった。
全然わからないという状態だからだ。
「魔法って暴発するんですか?」
「・・・・わかんない、僕はそんな事一度もないし・・・」
「魔法部に入ってから一度もですか?」
「正確には魔法部に入ってからじゃないかな
・・・もっと前から魔法は練習してるし、
魔法部は僕が作った部活だから」
「え?以外に行動派ですね」
ははは、と少し苦笑しながら樹清は話を続けた。
「僕が魔法を始めたのは小1くらいの時だったから9年くらい前かな」
「おぉっ、すごいですね、そんなに長くですか」
「まぁね」
「じゃあ香奈枝さんと緒恋先輩とはどこで知り合ったんですか?」
「香奈枝さんは幼馴染だよ、物心つく前から一緒に遊んでたなぁ、
でも小学校になるまで年上だと思ってたんだよ」
ははは、と楽しそうに昔話を話す。
「香奈枝さんって昔から大人っぽい雰囲気だったんですね、
なんとなくわかりますっ」
「それから緒恋は中学の時に出会ったんだよ、
香奈枝さんがいきなり連れてきたんだ、それが最初かな」
「じゃあ緒恋先輩が一番魔法歴短いんですね」
「うん、だから魔法もほんとにちょっとしか使えないよ」
「そうなんですか?!」
「魔力操作ができるようになるまでに丸3年かかってるから」
魔法の難しさを桃は改めて実感したという顔になった。
樹清はやっぱり辞めますと言われないかとハラハラする。
せっかく入ってきた、たった1人の新入部員を失うわけにいかない。
「燃えますね!」
「え?」
「困難なほど燃えますっ!」
以外に熱血な桃に頑張ってと声をかけながら、樹清は安心した。
「心配しなくても大丈夫かな」
*
「今日は見張ってくれなくていいよ、毎日は大変だし」
「え?でも・・・」
「いいの!」
亜矢は2人の背中をぐいぐい押して玄関までつれて行く。
「はい!じゃあねっ」
かなり強引に2人は外に出されてしまった。
「・・・・しょうがないわ、帰りましょうか」
「うん、しょうがないね」
亜矢の事が心残りになりながらも歩き始める。
「でもどうしたんだろうね〜」
「きっと私たちを気遣ってくれたのよ、確かに毎日は大変だわ」
「そうだよねぇ、ところで何かわかったの?」
「・・・・・正直お手上げだわ、ぜんっぜんわからないのよ」
「せいくんもなにも分らなかったみたいだし、どうしようね〜」
少し暗くなった空を見て深く溜め息をつきながら2人は帰っていった。
*
少女は町並みが見渡せる展望台にいた。
風に髪をなびかせながら魔法部のメンバーが居る方向を見つめている。
「そろそろ・・・・事態が・・・動き始めますよ」
赤く染まっていた空が少しずつ暗くなっていった。
「頑張ってください」 |