2.寂しがり屋
貼り紙には入部希望者募集と悩みを魔法で解決してくれると書いてあった。
気休め程度にはなるかもしれないと相談にやってきたのだが・・・
「ほんとに大丈夫かな・・・」
永瀬亜矢は一瞬相談する事をやめようか迷ったけど、
思い切ってドアをノックした。
「コンコン」
中でバタバタとする音が聞こえてくる。
勢いよくドアが開いて男の子がでてきた。
「魔法部へようこそ!」
「あの、悩み事の相談をしたくてきたんですが・・・」
「あっそうですか・・・どうぞ」
少し残念そうな顔をしたけどすぐ笑顔で中へ案内してくれた。
部活説明会の次の日だし入部希望者だと思ったのかな、
そんな事を思いながら亜矢は部室に入っていった。
*
「ではお話ししてもらえますか?」
緊張した面持で樹清は言う。久しぶりの仕事という事もある、
けどそれとは別に今日部活が終わったあと部室に入り込んだ人の事を調べようと思っていた。早めに取り掛からないと手がかりが消えてしまうからだ。
仕事をうけてしまうと調べる時間が少なくなると樹清は悩んでいた。
そんな思いをよそに、亜矢は話しを始めた。
「・・・・夜寝ると声が聞こえるんです」
「声?どんな感じですか?」
「"渡せっ渡せっ"って、それで家族に聞いたんですが、そんな声聞こえないって、
警察も取り合ってくれませんでした」
「そうですか・・・それでうちに・・・」
樹清は助けたいと思った。誰も助けてくれず、一人怖い思いをして、
魔法部に頼ってきている。
ここで突き放してしまったら、亜矢はまた一人になってしまう。
「・・・それでは・・調査してみます」
亜矢はぱぁっと笑顔になった。
「ありがとうございます!!」
頭を深々とさげながら亜矢はお礼を言う。
「いやいいですよ、とりあえず詳しい話を聞かせてください」
わかりました、と亜矢はわかる事全てを話し始めた。
*
「それじゃあ、また明日」
樹清は女の子達を見送った。
亜矢が女の子だから男である樹清が家に泊まるわけにいかない、
と魔法部の女の子メンバーに夜の見張りを頼んだのだ。
「本格的に亜矢さんの依頼に取り掛かる前に調べれる事だけ調べないと」
まずドアノブについていた魔力をもう一度分析する。
「もうほとんど詳しい事は判らないな、部室の中も見てみるか」
部室の中に入り感知魔法の感度をあげる。
部屋では魔法を使っていないのか、何も残っていない。
「どういう事だろう、魔法まで使って入り込んだのに何もしないで帰っていった?」
どういうことかまったく判らないと樹清は悩む。
「学校内も見て回ってみようかな」
樹清は感知魔法の感度をあげたまま校内を歩き回る。
特に学校の出入り口を重点的に確認するがそこにも魔力は残っていなかった。
「校内に入るとき魔法を使わず入れたという事は内部の人・・・・・生徒かな?」
いろいろな可能性を考えてみるが手がかりが少なすぎる。
「もっと手がかりを探してみるか・・・」
また樹清は歩き始めた。
今度は窓を重点的に確認する。
「窓、多いな、でもそこから入ってきた可能性もあるし」
校内の半分くらいの窓をだいたい見たところで疲れが出てきた。
「もう夕方になってる、2時間くらいたってるなぁ、そりゃ疲れる」
もうちょっとがんばろと樹清は歩き始めた。
「でもほんとにこんなに何もないと、内部の人の可能性が高いな」
全ての窓を確認し終わった樹清は部室に戻り、考える。
「意味がわかんないなぁ、何がしたかったんだ・・・」
樹清はいくら考えても分からなかった。
「帰ろうかな・・・疲れたし・・」
その時、外からドアに魔法がかけられた。
「!、魔法!?」
樹清は急いでドアに近づく。
「ガチャッガチャッ」
「くっ、開かないっ、閉じ込められたっ」
「さすがです・・・」
ドアの向こうで魔法をかけた女の子が話しかけてきた。
「!、どういう事?!」
「ドアの反対側でしかも魔法発動時の発光もほとんど無かったはずなのに、
すぐにお気づきになられた、さすがです・・・」
「そんな事聞いてるんじゃない!!どうして閉じ込めるの?!」
「・・・今は・・私の正体をばらす訳にはいかないのです、信じてください、
私は敵じゃない・・・・それから・・・気をつけて・・・ヤツは・・・何か隠している」
「意味がわからない!ヤツって誰?!」
樹清の問いかけはむなしく響く。すでにドアの向こうには誰もいなかった。
「ガチャッ」
「開いたっ・・・・でも逃げられたか・・」
とりあえず樹清はドアノブの魔力を分析する。
「たぶん変身魔法をうまく使ったんだ、すごい」
ドアを変身させて開かなくしたようだ。
「入り込んだのは多分あの子か・・でも・・それより、ヤツって誰だ・・・」
樹清が悩んでいるうちに夕方をすぎて空が少し暗くなり始めていた。
*
魔法部の女の子メンバーは亜矢の部屋と家をだいたい調べて終わっていた。
「特に変なところは無かったわね」
「無かったねぇ〜」
香奈枝と緒恋はだいたい家の中を調べ終わって亜矢の部屋に戻るところだった。
「何が原因なんだろ〜」
「わからないわ、亜矢さん自身に何かあるかもしれないわね、
ときどき寝る時に聞こえるって言っていたし」
「そっか〜」
二人は亜矢の部屋に戻る。
「どうでしたか?」
まだ魔法が使えないからと亜矢と一緒にいた桃が二人に聞いた。
「なにも無かったわよ」
「そうですか」
「・・・ありがとうございました」
亜矢は丁寧にお礼を言う。ここまでしてくれるとは正直思っていなかった。
「いえ、困ってる人は見捨てられないだけです、
それから敬語はやめてください、亜矢さんの方が年上ですよ?」
香奈枝はずっと気になっていたのだ。
「あっ、そうだよね」
亜矢が少し恥ずかしそうにする。
恥ずかしさに耐え切れず話を変えようとした。
「ところで、香奈枝さん以外は一年生かな?」
「ちがうもんっ私もカナエと同い年っ」
頬をぷくぅとふくらませて緒恋が怒る。
それを見て緒恋以外が笑い始めた。
「むぅ〜笑い事じゃないぞっ、それに桃ちゃん!私の方がお姉さんなんだから笑うなぁ」
「わかってますよ〜、お姉ちゃんっ」
「馬鹿にしてる〜」
3人ともまだ笑っている。
「怒ったぁ、てゃ」
そう言って桃を押し倒した。
「きゃぁっ、きゃはははっ、やめてくださいっ、やめて〜」
「生意気な子はくすぐってやるっ」
「やめっ、やめてっ、やあぁ」
「あやまれっ、あやまれ〜」
「こらこら、やりすぎよ」
まだ少し笑いながら香奈枝が緒恋を止める。
「はぁ、はぁ、ありがとうございます・・」
「これにこりたら生意気しちゃダメだぞっ」
勝った、という顔で言い放った。
亜矢はまだ笑っている。
「亜矢さんも、笑いすぎですぅ〜」
不満そうな声を緒恋があげた。
「はは、ごめんね」
「もぉ〜、あ〜外暗くなっちゃってる」
外を見た緒恋がいつの間にという顔になる。
「帰らなきゃ」
「私もです」
緒恋と桃は親から泊りのお許しがでなかったのだ。
4人は部屋を出て玄関へ向かう。
「すいません、私しか残れなくて・・・」
「いいよ、家中調べてもらっただけでもすごく嬉しいんだから」
「カナエだけじゃ心配かもぉ」
「緒恋先輩が残るより安心かもです」
小声で桃が呟いた。
幸い緒恋には聞こえていない。
玄関を出て少し話をする。
「気をつけて帰るのよ」
「わかってるよ〜、カナエもボ〜としてたらダメだぞっ」
「わかってるわよ」
香奈枝が緒恋の頭をなでる。
えへへとくすぐったそうに緒恋が微笑えんだ。
また桃が緒恋先輩の方がボ〜としてそうですと小声で言っていた。
「二人とも今日は私のためにありがとね」
亜矢が丁寧にお礼を言う。
「いえいえ〜、大丈夫で〜す」
「私は何も出来なかったですし」
「でもありがとね、それじゃあ」
笑顔で手を振る。
緒恋と桃は手を振りながら歩き始めた。
少し歩いたところで緒恋が満面の笑みを桃に送る。
「も〜も〜ちゃ〜ん♪」
笑顔が怖い。
「ど、ど、どう・・しました?」
おそるおそる聞いてみる。
「さっきは〜私が残るのは心配とかぁ〜?ボ〜としてるとかぁ〜?言ってくれちゃってっ♪」
聞こえてたようだ。
「くすぐるなんて甘いものじゃあ、わからなかったかなっ?♪」
緒恋の体が濃い青の光でうっすら包まれる。
水の性質を持つ魔力は光が濃い青色をしている。
「可愛い後輩の可愛いいたずらじゃないですかぁ」
「私もぉ可愛い後輩だからこそぉお仕置きするのっ♪」
よく見ると笑顔が少し引きつっている。
「な、なんの魔法使ってるんですか?」
「身体強化だよっ♪桃ちゃんが逃げた時のためだよっ♪」
「はは、私どうなっちゃうんですか?」
「ある部分がぁ、まっかっかになっちゃうよっ♪」
「とりあえず、逃げてみてもいいですか?」
逃げ切れるかもしれないという淡い思いをいだいて聞いてみた。
「いいよっ♪」
桃は走り出す。
魔法を使っているだけあって緒恋は早かった。
近くにあった公園の中に桃は逃げ込んで、小屋の様な遊具の中に隠れる。
「隠れてどうにかやり過ごそう」
「も〜も〜ちゃ〜ん、隠れるところ見えてたよぉ♪」
「そ、そうですかぁ、ははは・・・」
「もう逃げられないねぇ♪それにぃここなら外に聞こえないねぇ♪」
緒恋がじりじりと近づいてくる。
桃は捕まえられ緒恋のお仕置きが始まった。
*
亜矢と香奈枝は夕食を食べていた。
「すごく美味しいです」
「よかったっ」
嬉しそうにうまく作れて良かったと笑顔になる。
「ウチはね、両親とも忙しくてあんまり帰ってこないの、
だから自分で家の事やらないといけなかった、だから料理もそれなりに出来るの」
「そうなんですか・・・」
「姉妹もいないから、いつも一人・・・寂しくて変な声とか聞こえちゃったのかな・・・」
香奈枝は少し気まずそうにする。
「そうだっ香奈枝ちゃん、今日だけ私のお姉さんになってよっ」
「え?!お姉さんですか?!妹ならまだしも」
「見た目はお姉さんじゃん、妹は無理がある」
「え〜それはちょっと・・・」
「決定っお姉ちゃんっ」
「いやっだめですぅ」
「お姉ちゃん敬語やめてよぉ」
楽しそうにしながら亜矢が強引に押し付けた。
「敬語は・・・ちょっとやめれないです」
「もう〜じゃあお風呂一緒に入ろっ」
「え?え〜っ」
「だ〜めっ、入るよっ、行こっ」
「あっ、あ〜、ダメ、恥ずかしいですよっ」
「何言ってるのっ、女同士じゃん」
かなり強引に香奈枝を引っ張っていく。
そして強引に服を脱がしてお風呂に入っていった。
香奈枝は亜矢から逃げるようにお風呂を早く済ませて出て行ってしまった。
用意されていたパジャマを香奈枝は着て亜矢の部屋に戻る。
「もぅ強引なんだから」
不満を漏らしながら香奈枝は部屋を見渡した。
「どうして声が聞こえるのかしら・・・、部屋には何もないし・・・」
トントントン、と階段を駆け上がってくる音が聞こえたあと、ドアが勢いよく開いた。
「お姉ちゃん逃げちゃダメだよ〜」
「いつも・・・早いんですっ」
言い訳を言うように香奈枝は言った。
「そういう事にしておいてあげる、ふふふっ」
「ところで・・・布団はありますか?」
「ダメだよっ、今日は一緒に寝るのっ」
香奈枝はやっぱりと言う顔をする。
またもや亜矢は強引に引っ張ってベットに入る。
すでに香奈枝はあきらめて身をまかせていた。
電気を消して亜矢はぴったりくっついてくる。
「ちょっとくっつきすぎじゃあ・・・」
「いいじゃんっ、今日は姉妹でしょ・・・・でもありがとね」
その言葉を聞いて寂しかったのかなと香奈枝は思う。
ちょっとくらいお姉さんしてもいいかと、亜矢の頭をなでてやった。
「やっとお姉さんっぽくなってきたね」
「今だけですから」
二人は一晩だけ、ベットの中で姉妹になった。
*
授業が終わってすぐに樹清は部室に行っていた。
朝、香奈枝からの連絡があって、
家には何も無かった事と昨日の夜には声が聞こえなかったらしい。
「どうしよう、解決しないといけない問題が2個もある・・・」
昨日の夕方に侵入した人から接触してきた。
しかも、気をつけろと言って消えた。
亜矢さんの方も何か違う方法で調査しないといけない。
「きたよ〜」
樹清の次に来たのは緒恋だった。
「早かったね、昨日は行けなくてごめんね」
「いいよ〜いいよ〜」
次に香奈枝が来た。
「こんにちは」
「カナエさん、昨日は行けなくてごめんね」
「いいのよ」
少し遅れて桃が入ってくる。
「すいません、遅くなりました」
「大丈夫だよ、昨日まだ初日だったのに手伝わせてごめんね」
「そんないいですよ、勉強になりました」
「そう?よかった、・・・それじゃあ亜矢さんの依頼の調査方法とか話し合おうか」
そう言いながら樹清は椅子に座る。
桃は座ってからも何度も座りなおしたりして、落ち着かなかった。
「桃ちゃんどうしたの?」
香奈枝が心配そうな顔をしながら桃に聞く。
「え?!大丈夫ですっ」
なぜか桃は顔を赤らめた。
「大丈夫だよね〜」
意地悪な笑顔で緒恋が言った。
「はいっ、何にもなかったですっ」
「そう?ならいいわ」
「じゃあまず、亜矢さんの家を見てきたみんなはどう思う?」
女の子メンバーの意見を樹清が求める。
最初に緒恋が話し始めた。
「家には何もなかったよ〜、変な魔力も感じなかったし〜」
「私も変なところはなかったと思うわ、でも・・」
香奈枝は少し考える素振りを見せる。
「もしかしたら、亜矢さんの精神的な何かって可能性もある気がするわ」
「精神的な部分か・・・」
「外に何か原因があるって事はないんですか?」
「桃ちゃんは何でそう思うの?」
樹清が聞き返す。
「家に何もないなら外かなって・・・」
自信なさげに答えた。
「よしっ今度は外を調査してみよう、
精神的な部分なら調査してる姿を見ていたら安心して改善されるかもしれないし」
がんばろうっと香奈枝と緒恋も賛成する。
「外って言うのは何か確証がある訳じゃないですし」
「大丈夫、自分に自信を持って」
そういって樹清は桃の頭をなでた。
はい、と桃は元気よく返事をする。
「それじゃあ調査を開始しよう、みんなは先に行って調査を始めててね」
「せいくんはどうするの〜?」
「僕はちょっと家に戻って、亜矢さんの聞いた声について調べてからいくよ」
それじゃあはじめようと樹清たちは行動を開始した。 |