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あなたの能力はゴミです 作者:tene

第二章 炎魔王編

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第三十話・魔王の最期

 リリィちゃんが、叫んだ。泣きながら。
 俺がいかる理由は、それだけで十分だ。

 あの透かした野郎を、まずは一発ブン殴る!



 ドォォォォン!!!



 俺が、ただ真っ直ぐ進み、愚直に放った右ストレート。それに炎魔王は反応すらできずに、直撃する。
 炎魔王は血反吐を吐きながら、驚愕する。
「ば、バカな、一体その力、どこから……!?」
 そう言って震えていたらしい。だけど、俺の耳には届かない。

 俺の頭にあるのは、とにかく叩く。叩いて、叩いて、叩いて、叩き潰すことだけだ。
 炎魔王をブッ飛ばす。今そのために、俺は居る!!

「うあああああああああ!!!」
 言葉がでない。ただ、声だけが出た。

 何をどう繰り出したのか、なんて覚えていない。
 とにかく、何度も何度も手を、足を出した。実体が無いみたいに、軽く、速く、正確に動く。集中云々なんて気にするまでも無い。そもそもそれが俺の体だったかの如く、いや、それ以上の反応で炎魔王を捉えた。
 気が付けば俺に飛ばされ、炎魔王は宙を舞っている。



「認めん、認めんぞ……! 俺は天才だ、天才の俺が、ゴミの貴様なんぞに!!」

 炎魔王が両手を重ね、今までで最大の熱線を放つ。
 ピアは俺と全く同じ思考で、右手をブレードに変えてくれる。俺たちにはもう避けるなんて選択肢はない。ただ正面から切って落とす。ブレードはいつもより長く大きく、ほのかに赤色を帯びた刀身は金属のそれとも違っている。
 俺はその右手で、魔王の光線を迎え撃った。


 シュパァァァァ

 振り上げる刃は光線を真っ二つに逸らす。生じた風圧は刃となって光線を遡り、炎魔王の右手が宙に舞った。
「クソォォォ!」
 たまらず火炎同化して身を隠そうとする炎魔王。
 しかし、俺が左手をバスター化する方が早かった。


 チャージが速くなったのか。連射が重くなったのか。
 チャージショット並みの重さのショットを、連射で叩き込む。炎魔王は火炎同化するタイミングもない。水弾の弾ける爆煙の中に、炎魔王の断末魔だけが聞こえた気がした。





「やった……んだよな?」
 戦いの終わりを意識すると、ふいにズキィっと強烈な頭痛が俺を襲った。
(マスタ! 合体、限界。分離する)

 俺の脳から、何かが抜けていく感覚だけが残り、ピアと尻神様がいつもの形に戻っていく。
 ピアと分離したら、もう体がガクガクになっていた。立っているのが精いっぱいだ。オシリスの魔王入門も攻撃跡がついてボロボロになっているし、ピアは魔力が切れかかって、下半身が軟体化したままだ。
「二人とも……ありがとう」
「ん。やったね、マスタ」
「……ああ!」

 そして俺は、リリィちゃんにも声をかける。 

「リリィちゃん、見てたか? 炎魔王、ブッ飛ばしたぞ……!!」
「出来るなら最初っからやりなさいよ、バカ魔王」
 いつも通りの憎まれ口。でも、その頬には涙が流れた。そして聞き間違いだろうか、彼女の声で、こんな言葉が聞こえた。
「……ありがと」
 と。




 ピィィィ。

 光が地面に刺さる。どこを通って? 俺の体だ! 俺の右肩を通って、熱線・・が突き刺さった。痛みが遅れて走る。

 ばかな、そんなばかな!
 これは炎魔王の攻撃。それじゃ、奴は、奴は……!

 俺たちが振り向くと、半身しかない不完全な状態のバルログが、そこに立っていた。
 なんてアホみたいな生命力だ。なんでもアリかよこんちくちょう……!

「い、今のハ……危ナかった。アハハハ。足元ニ、ケ、ルベロスの死体が無けれバ、死、死んデいたゾ……!」

 !? 喋り方がおかしい?
 明らかにダメージは入っている。同化できていたようにも見えなかった。つまり、俺の攻撃は当たったってことだ。耐えたのか、それとも一度吹き飛んでから再生したのか。
 よく見ると、足元に空の薬瓶が転がっていた。何かの薬!? 回復薬か!

「炎……同化……俺ハ天才、俺ガ最強ダ……!!!」

 炎魔王はその腕を、転がっている他の死体に伸ばす。炎は次々と飛び火し、戦場中に広がっていく。炎魔王はその炎を吸収して、徐々に徐々にその体を大きく膨らませてゆく!!

「ピア! リリィちゃんを連れて逃げろ!!」
「でも、マスタ」
「いいから行け!!」

 俺の切迫した言葉に、ピアはリリィちゃんの手を引き走り出す。二人は上手く走れていないが、ここでじっとしてるよりマシだろう。俺も、時間稼ぎくらいにはなってやる……!

 炎魔王はあたりの死体も、残っていた火炎鳥も取り込んで、高さ10mほどの炎の巨人へと成長していた。もはやバルログの面影はない。そしておそらく、理性さえも。

「寒イ、寒イイイ。エサヲ……もっと燃料エサヲォォォォォォ」


「くそっタレ!」
 俺はそばに落ちていた剣を魔剣化して飛ばしてみたが、焼け石に水。炎の巨人は口から溶岩を垂らしながら、その手を俺に伸ばす!! つかまれる!

 パパパン!

 小さな水弾が、その腕に当たる。
 ピアだ! 逃げろって言ったのに、俺を助けるために……

 でもこれで、巨人はピアたちの方を敵と認識してしまう。
「やめろぉぉぉぉ!」

 俺の叫びは届かない。
 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!!



 胸のざらりとした感覚が、いつの間にか強くなっている。
 魔王の下へ向かわなければと感じさせたあの感覚。
 そしてそれは今、はっきりと言葉になった。

(手こずってるみたいだな)

 頭の中に声が響く。
 誰だ?

(俺はオマエだ)

 分かり切ってる。侵略者インベーダーだろう。
 今忙しいんだ。後にしてくれ。

ならば楽に倒してやろうと教えてやりたかったんだが、オジャマだったようだな)

 何?
 倒せるのか。
 お前なら、この状況を打破できるって言うのか。

(おいおい、いいのかよ。俺は呼び出してはならない「侵略者インベーダー」なんだろう)

 うるせえ。
 関係ねぇ。他に手が無いんだ。
 お前だって分かってるんだろ。分かっていて、カマかけてんだろ。
 俺の気持ちなんかもう決まってるんだよ。助けるんだ。ピアを。リリィちゃんを。
 それ以外、どうだっていい。

(管理者様を敵に回すかも知れないぜ。それに、オマエ・・・二度と表に戻って来れなくなるぜ……ククク)



 うるせぇぇぇぇ!!!

「関係ねぇって言ってんだろ! お前もオレなら手を貸しやがれ侵略者インベーダー野郎!!!」



 瞬間俺の体から赤黒い光が放たれ、頭上に迫っていた巨人の足を消し飛ばした。



 ◆

 片足を失った巨人が轟音を上げて倒れこむ。崩れ落ちる巨体が風を生む。アタシとスライムはお互いを庇いあうように身を寄せた。辺りには砂埃が立ち込める。
 その煙の上にゆっくりと浮かび上がる影。それはラスティの物だった。

 けれど、どこか違う。
 体は赤黒い光に包まれ、ぞっとするような力が渦巻いているのが分かる。こんな禍々しさ、いつものアイツからは想像がつかない。あれは本当にラスティなの?

 ラスティはゆっくりとこちらを振り向き、言った。

「人形とスライムか。下らん手下を作ると思っていたが、貴様らのお蔭でが出てくる事ができた。感謝するぜ」
 その男・・・は、嫌な笑みを浮かべながらそう言った。



 男の背後には、炎の巨人が上半身を持ち上げ、襲い掛かろうとしている。
 男は何という気も無く、つぶやく。
「まだいたのか。中途な力の天才気取りが。いい加減しつこいんだよ」

 男は、何倍もの巨体を誇る巨人を、ただの一撃蹴り飛ばす。そして指を鳴らすと、男の背後に、炎の巨人よりもさらに一回り大きい、ワイン色の巨人が現れた。

「死体から集めた血液だよ。オマエが無駄に軍勢を増やしたおかげで、そこらじゅうにゴロゴロ死体が転がってたよ」

 血の巨人は、その体でゆっくりと抱き付くように、炎の巨人にのしかかる。二つの巨人は黒い煙を上げながら融合し、徐々に鎮火されてゆく。


「サムイ……テンサイ……オ……レハ……」
「勘違いした弱者が一番哀れだぜ。サヨナラ」

 最後に血の巨人が倒れこむと、パアンと弾けるように散った。
 もう炎魔王はいない。残ったのは、生臭い巨大な水たまりだけだ。



 折角、折角炎魔王を倒した。そのはずなのに。
 まったく喜べないのはどうしてだろう。

「アハハ、アハハハハ、アハハハハハハハハ!」
 その原因を作った男だけが、不気味な笑い声を響かせていた。
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