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あなたの能力はゴミです 作者:tene

プロローグ

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プロローグ ~新生! 最弱の魔王~

 目の前の椅子に一人の”生徒”が座ると、頭上に魔法の文字が映し出される。

 体力  F
 力   E
 技術  F
 堅さ  G
 魔力量 E
 操魔力 E
 抗魔力 F
 素早さ G
 評価  あなたの力は生命の源を犯す

 総合評価 E



 それを見て一斉に生徒たちがどよめく。
「スゲェ、E三つもあるぜ!?」
「総合Eだって!」
「生命の源を犯すって何だ!?」

 それを、若い教員のような人物が、パンパンと手を叩き制する。
「そうですね。彼は素晴らしい才能があると思います。とても優秀だわ。特に戦闘面が優れているみたいね。それから能力についてですが、これは彼に【毒】の素質があることを示しています。一週間キッチリ授業を受けてもらえば、彼は立派な”魔王”の素質があると言えるわ」
 そう言われると、魔王候補生は恥ずかしそうに壇上を後にした。

「総合ランクEか……」
 俺は遠くに小さく見える、窓の外を眺めた。雨が降っている。
 その程度のステートより、外の天気の方が面白かった。



 少し話を戻そう。
 俺たちは、つい先ほど”生まれた”。大体、一時間ほど前だろうか。突然生を受けた、そのことには多少の戸惑いこそあったが、その時にはもうある程度の状況は把握していた。
 ああ、俺たちはこれから”魔王”になるのだ、と。

 毎年一月一日になると、こうやって世界各地にあるスクールに、俺たちのような新人魔王が湧き出るように生まれてくる。こんな生物は、世界にほかに居ない。それだけを考えても、自分たちが特別な存在なのだとわかる。
 そうして生まれてきた新人の魔王は、そのままスクールで、才能の測定と1週間ほどの講義を受けることで、魔王として広い世界に旅立ってゆくのだ。


 あまり妙だとは思わなかった。
 生まれてから今までの時間、約一時間と少々、俺は自分のありったけの記憶の引き出しをのぞいてみた。そこには俺たちが生きていくのには十分すぎるほどの知識が入っている。
 俺たちがなぜ生まれたか、なんてことは分からなかった。
 しかし、俺の知識によると、なぜこの世界が始まったのかについてさえ、同じように解明できていないということだ。案外、俺たちと同じように降ってわいたように、突然今の形で降ってきたのではないだろうか、そんなことを考えてしまう。
 そう、俺がここにいることに疑問を持つこと、それはなぜこの世界が始まったのかを考えることと同じくらい、どうでもいい話なんだ。

 大切なのは、俺はすでにここに居て、これから一週間後にはここを追い出されるという事実だった。


 そんなことをぼんやり考えていると、教室が湧いた。
 どうやら、総合評価Cなどというとんでもない新人が居たようだ。


 総合評価Cというのが、どれだけの事だというのか?
 この世界では、すべての強さはA~Jの十段階で評価される。
 そして、それらが一ランク上がるたびに、その強さはおおよそ十倍(・・)になる。

 たとえば、蟻。彼らの強さは当然Jランク。
 対して、人類の【ヒューマン】種、いわゆる普通の人間。この赤ん坊が、Iランクで生まれてくる。それが成人して、せいぜいHランクに行くか行かないか。それが普通だ。
 で、先ほどの一番最初の生徒。彼の筋力は、Eランク。EからHまではE、F、G、Hと、ランクが三つも離れている。三ランク違えば、その力の差はおよそ千倍。彼一人がいれば、並みの人間が千人押しかけてきても押し負けることは無いと言えば、その恐ろしさが伝わるだろうか。
 言葉で”Eランク”などと聞くと何とも情けない響きだが、さらっととんでもない情報が表示されていたわけだ。

 そしてこの基本能力という奴は、魔王の場合、めったなことで増減をしない。もともとFの上位の才能の奴がぎりぎりでEランクに届く、というようなことはあるが、それ以上の成長となるとほぼ絶望的だ。だからこそ、もって生まれた評価にみんな熱くなっているのだ。

 そこにきて、いきなり総合評価Cの奴が現れた。単純戦力で十万人力だ。冗談でもなんでもなく、マジでたった一人で国と戦えるレベルなんだろう。おまけにそいつの評価は「あなたは灼熱の炎と一つになる」だそうだ。なんという優遇。なんという主人公補正。何となく顔までイケメンのような気がしてくるから腹が立つ。そいつの壇上での一言も
「うーん、こんなもんですかね」
 と笑って見せたのだ。腹が立つ。

 が、彼が「こんなもん」と言ったのにも理由があったのだ。
 単純な話、俺たちはこの鑑定式が始まる前に、先生の話によって焚き付けられていたのだ。それは
「年に一度、全世界でその年に生まれる魔王の中からたった一人、総合評価Aの魔王が必ず生まれる」
 という部分だった。

 総合評価A。人間で言えば、一千万人分の才能。いや、才能ではない。一千万人分の、またはそれ以上の実力をもって生まれてきているヤツが、この中にいるかもしれない。そして、それは自分かもしれない……! ここにいる誰もが、そんな期待に胸を膨らませているのだ。
 だからさっきの評価C君に対しては、純粋に「凄い!」と思う反面、「よし、アイツじゃなかった……!」という安堵の気持ちも入っていたのだ。



 そして、俺には予感があった。
 俺の中には、物凄い力が秘められている……!
 確証はないが、そんな気がしてならなかったのだ。

 いや、全く、何か確信があるわけじゃない。
 ただホラ……なんというか、感じるんだよ! 俺の中に眠るソウルを! 無限の可能性を!!

 間違いなく、俺は只者じゃないことが、俺にだけは分かっている……!!

 こんな幸福がほかにあるというのか。いや、ありはしない。



 だから、ほかの生徒の画面が多少高い評価を出したところで、俺は動揺したりしなかった。そして心の中では「なるほど、君は総合Dかぁ~。イヤ、本当に素晴らしい才能をお持ちですなぁ、はっはっは!」などと完全に余裕をぶっこいていた。


「はい、では次の人。ラスティさん」
 いよいよ俺の番だ。

 いや、自分が只者ではないことは分かっているが、流石に緊張するものだ。
 そうだ、俺の記憶の情報によると、こういった「学校」と呼ばれる施設では入学や卒業の際に、もっとも成績の優秀だった生徒に、代表挨拶なる挨拶をさせるらしい。
 それはそうだろう。自分の学校からランクAという最高の生徒を排出できれば、先生方も鼻が高いはず。恐らく、俺が代表挨拶をするハメになるだろう。
 しまった、こういう時は何をしゃべったらいいんだ!? 思い出せ、優秀生の頭なら素晴らしい挨拶など容易いはずだ。そう「本日はお日柄もよく……」」

 いけない。冷静になろう。
 そうだ。流石にそれはない。
 いくら俺に特別な力があると仮定しても、いきなり総合Aとかは、多分ない。それは流石に、自分に都合よく物事を考えすぎというものだ。多分俺は、総合B位が妥当だろう。それぐらいなら敬われはしても、妬まれはすまい。パーフェクトな陣取りだ。


 俺の測定が始まる。いきなり高すぎる評価は避けてくれよ!?

体力  H


 ……うん。
 なんだ、その。
 確かに高すぎる評価は避けてほしいと言った。しかし、それはあまりにも低すぎるというものではないだろうか。
 一気に俺の俺の自信が揺らぎ始める。

力   H
技術  G
堅さ  H


 ……なんだこれは!? ここここんなはずはない。
 いや、まて落ち着け。よく見ろ、ここまではすべて物理系、戦士タイプのステートじゃないか。
 そうか、俺は魔術師だ。俺はやがて大魔術師となる男に違いない。ここから先で挽回できるはず……!!

魔力量 A






 キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!???
 この体にみなぎる力。自分が只者ではないことは分かっていた。そう、このAランクは偶然じゃない、必然だ。俺はこの世界に選ばれた魔王なのだ。

「俺はこの世界の神になる!!!」

 そんなセリフが自然と口からこぼれたが、恥ずかしくもなんともなかった。そして誰も俺を笑いはしなかった。これが、Aランクの力だ!
 ピカッ! と雷が、図ったかのようなタイミングで光る。

 会場がいっきにどよめくのを感じる。なにせ、今日ここまでで現れた最高の値が、先ほどの総合評価C君の「C」。それがBを飛び越え、いきなり「A」。ヤバイ、俺への羨望の視線がやばい。なんだこの気持ち。アァ、これが、快感ッッッ!!!
 まあ、戦士としての能力が死んでいるから、総合B、しかし一切無駄なく魔術師タイプ、といったところだろうか。自分の才能が怖すぎて震える……!!

 さあ、待ちきれない、俺のそのほかの能力を教えてくれっ!


操魔力 J
抗魔力 I
素早さ H





 一気に会場の時が止まった。
 ここで「J」というランクについて、もう一度話をしておこう。
 たとえば、蟻なんかのステート、これが「J」だ。

 では、蟻に魔法が使えるか?
 答えは当然、Noだ。

 そう、操魔力「J」とは、一切魔法の適正がない・・・・・・・・・・ことを示す値だった。


 つまり、俺には魔法が使えない。
 魔法が使えなければ、魔力量(MP)がいくら高くても、意味をなさないのだ……!!!


 俺の魔力量「A」は、完全に、死んだ。
 会場が憐れみと失望に支配されてゆく。



 いやまだだ。希望を捨ててはいけない。
 もしかしたら、評価の項目で何かとてつもない能力を備えているかもしれない。ていうかもうそれしか考えられない。さすがにこのステートの死に方はあり得ない。最後の希望を、評価と総合に託す。



体力  H
力   H
技術  G
堅さ  H
魔力量 A
操魔力 J
抗魔力 I
素早さ H
評価  あなたの能力はゴミだ

総合評価 Err



 はぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????
 なんだよこれ!? なんでここにきて「ゴミ」扱いされなきゃいけないんだよ!
 しかもなんだよ総合評価エラーって!? あんまりに能力低いから気を使ってくれたんですか。余計なお世話だよ!!

 会場から憐れみの視線、そしてこらえきれず漏れてくる「プックスクス」笑いが聞こえてきて腹が立つ。壇上の教師までもが同じように口元を抑えている。
 壇を降りると、横から
「アイツ神になるとか言ってなかった? 何神? 貧乏神?」
 と嘲るような声が聞こえてくる。


 どうしてだ。どうしてこうなった。
 ではこの漲るような力は一体何だと言うんだ。
 というかよくよく自分の体を探ってみたら、もうすっかりとその予兆は消えていた。ただの緊張から来た勘違いだったのだ。俺に残ったのは絶望だけだ。



 絶望のうちに能力検査はは終わった。
 もう誰がどんな能力だったかなんて覚えていない。ただ俺が覚えている限り、総合評価はほとんどがEかFだった。Gランクすらほとんどいない。
 対する俺はどうだろう。魔力量を死にステートとすると、ほとんどがH。能力がないことを考えれば、どう贔屓目に見たって俺のランクはHだろう。他の生徒と、一ランクどころか二ランクの差があるじゃないか……

「よう」
 俺の前に男子が一人立っている。さっき見た顔だ。ああ、そうか。名前は忘れてしまったが、一番最初に能力検査を受けていた、あの生徒だ。
「お前スゲー面白かったよ。俺感動した」
 まだゲラゲラと笑いながら、俺のことをバカにしてくる。俺は絶望のどん底でこれだけイライラしているというのに、なんて無神経やつだ。
 俺は無視して、次の時間にそなえ部屋を移動することにする。
「シビレタぜ。『俺はこの世界の神になる!!!』ったははははは!!!」
「お前、人の恥を穿り返して……」
「お前名前なんだっけ? ラスティ? うわー絶対ダスティの間違いだわー」
「お前……!! お前だって、たかがEラン……」
 そこまで言いかけて俺は気づいた。

 たかが、Eランク?
 そう、俺はさっきまで完全に自分がAランクの魔王だと思い込んでいた。だからこそ、
「フッ総合評価Eか、ザコめ」
 などと、本気で思っていた。

 しかし、今となってはどうだ。俺は推定Hランク。対する相手はEランク。評価値で、約千倍の強さの相手。間違ってもかなう相手じゃない。ザコなのは、俺の方なのだ。
「お前なんか、たかが、たかが……」
「ん~? 俺が何ランクだって~? いやー、そうだよなぁ。俺Eランクだもん。あっ、お前、Aランクのステート持ちじゃん。そーだよなー! 俺なんかがかなうわけないんだよねー、神タマっ」
「う、うるさぃ!」
 俺は思わず殴りかかってしまった。それも全力で。
 やってしまった、と思ったのもつかの間。相手は、俺のパンチを食らっても微動だにしていない。

 俺の拳が当たった時の感触。それはさながら、分厚いゴムを殴りつけたかのようだった。たしかヤツの堅さはGランク。Hランクの俺の力とは、たったランク一つ分の差でしかない。それなのに、まったく歯が立つ見込みがない。
 奴は俺の動揺を見てニヤリと笑う。
「おいおい……Aランク持ちだからって、暴力はいけないんじゃないかなぁ」
 そして奴は、虫でも払いのけるかのように、ほんの軽く、俺をはたく。ランク「E」の力で、堅さ「H」の俺を。
「ぐあっ!!??」

 その瞬間俺の体にものすごい衝撃が走り、景色が回る。そして次の瞬間には、俺の体は教室の壁に突き刺さっていた。


 し、死ぬ。
 こいつら、マジで化け物だと思う。流石に候補生とはいえ、魔王なだけのことはある。

 数分後、俺は女の先生に引っ張りだされることで事なきを得た。体中が死ぬほど痛かったが、俺も魔王だ。泣いてはいられない。
「キミ大丈夫だった?」
「はい、先生。大丈夫です。俺決めました。この一週間で、うんとうんと勉強をして、必ずあいつらを見返して見せます!!」

 俺は先生に、ひそかに誓いを立てる。そうだ、このままでは絶対に終われない……!!
「先生、お手数かけました。さあ、次の授業の教室へ向かいましょう」
「ああ、そのことなんだけど……」
 先生は、一息置く。そして笑顔で続ける。
「これはとても言いづらいことなんだけれど。その……あまりにも才能のない子はね、授業を受けても時間の無駄だから、ここでサヨナラすることになってるのよ。そのための能力検査でもあって……」

 先生の口から衝撃の言葉が放たれた。

「えっ、そ、それじゃあ」
「うちの学校からは、キミだけだったんだけど。キミはここで、退学でーす」



 そうして俺は、雷鳴り響く豪雨の中、野外へとしめ出された。
 先生は一応「魔王入門」という、魔王専用のスキルで、最低限のことは分かるようになっていることだけは教えてくれた。そして最後に
「じゃあね。あなたには期待しているから」
 と、ありったけの営業スマイルで言ってくれた。



 どうしてだろう。
 さっきまで、あんなに未来は輝いていたのに。
 いまはもう、何も見えなかった。

 俺には何もない。

 いや、無駄にありあまっているはずの魔力量は、体の中で常に渦を巻いている。消費する方法がないので、今のところ不快感でしかないが。
 ふと見ると、遠くに年老いた一匹の野良犬がこちらを伺っていた。長い間、まともな餌にありつけていないのだろう。あの犬は弱り切っている。
 しかしながら、あの犬は一歩一歩着実に、こちらに向かってきていた。

 俺の勘が告げた。戦えば俺は死ぬ。



 俺は足元の石を三つ四つ拾うと、全力で逃げ出した。



 ドォォォォォォガロガロガロガロ。
 雷鳴が轟く中、俺は走った。

 俺は決めた。
 俺は絶対に生き残る。
 絶対に生き残って、俺を笑った奴らを見返してやるんだ!!



 雷鳴が産声の代わりに鳴り響いた。
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