Missing 1 ◆見知らぬ面影
「―――アナタ、結婚してる」
唐突に言われて、世の独身女性のどれだけが、どういう反応をするんだろうかと、自分も驚いてはいたが、こんな妙な事も考えてしまっている。で、しかし激しい否定もしない自分に違和感が無かった。
眼を剥くようにまじまじと相手を見つめる。
「―――結婚」
「そう、結婚」
彼女は繰り返した。
「―――……そうですか……」
「びっくりはしないんだね」
こういうときは、どうしたら良いのか分からなかった。
真っ向からヒステリックに否定するのだろうか。
いや、それよりも、この場合はどう否定していいのか、方法が無い。
否定する材料が無い。
「びっくり、と言うか……」
自分は今現在、どうしようもない独身真っ盛り。
「結婚ですか……」
冷静と言うか、以外に平静な反応だったと思うのに、膝の上に置いた手が小刻みに震えている。
見知った人影が、胸裏をよぎる。
―――薄茶色の、私を真っ直ぐに見つめた優しい瞳と、瞳と同じ色の緩やかなカールの髪の男……
好きな人は、居たと思う。
小学校の学校祭で他のクラスの子たちが、星の河を挟んでお姫様星と王子様星の可愛らしい恋の舞台劇を披露していた。
嫌いな人は殆ど居ないだろう、スタンダードなハッピーエンドのお話。
担任の先生もよく吟味してのキャスティングだっただろう。主役のお姫様星と王子様星をやってる子たちが、とても輝いて見えてた。
中でも王子様星役をやっていた美少年に、私は釘付けになった。
色白な肌に赤い唇で、サラサラの茶色っぽい髪と瞳。
劇の役も相まって、とても神秘的に見えた。
物静かで、大人しい子だと、数年経ってから知った。
クラス替えで同じ学級になったのに、あんまり話をしなかった。
それ以来、私は『その面影』の虜になった。
初恋と言うのなら、それが該当するのだろう。
ずっと好きだった。
思い出と、その面影が穢れないように、ずっと大事にしていた。
恋に恋した思いは叶うことなく、手にした何よりも大切な宝物として誰も知ることの無い心の奥に仕舞いこみ、その後も好きな人はできたけれど、彼らは必ず「どこか見知った面影」を宿す容貌をしていた。
ただそれは、単に思い出に縛られたような自分の好みだと思い込んでいた……―――
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