9.遠い愛 近い恋
9.遠い愛か 近い恋か
「聡史・・・さぁとぉしっ!」
「・・・えっ?」
「えっじゃなくて ホントに大丈夫なのか?お前 顔色良くないぞ・・・」
「西崎さん・・・いつ来たの?」
「げっ・・そうくるかよ・・・オレ夕べ泊まったんですけど・・・」
「はぁ・・・そうでしたっけ」
「ったく・・・そんなに虎人坊やがいないとダメなのか?お前は」
「そぉ〜んなぁ〜んじゃ ありませんよぉ〜・・・」
「なんだかなぁ・・・その情けない顔と声・・・ファンが見たら泣くぞ」
「泣きますかね・・・・」
「泣くだろう・・・天下の美青年結城聡史のそのアホ面といったら・・」
「アホ面ねぇ・・・そのアホ面で水が売れるんですよぉ〜だ」
「ああ あのミネラルウォーターな 美味いよな」
「そぉ〜でぇすかぁ〜ねぇ・・・・」
「お前もいいとこあるじゃん 虎人坊やの顔を立ててやったんだろ?」
「そぉ〜んなぁ〜んじゃ ありませんよぉ〜・・・」
「まっ・・・いいけどな オレには関係ない」
虎人が同居していた聡史のマンションから姿を消してから半年
仕事こそきちんとこなしている聡史ではあったが
私生活では 食事もまともにはとらず 霞とタバコで生きてるのかと
マネージャーを心配させていた
そんな聡史を心配して 西崎たかおは度々食品を抱えては聡史の元を訪ねていた
昨夜も慣れない手料理を聡史に作り(そのほとんどは手をつけられる事がなかったのだが)
たまっていた洗濯物を片付け(といっても近所のクリーニング屋へ持って行っただけ)
聡がソファーで寝入ってしまえば抱き上げてベッドまで運ぶ
そんな日々をどれ程過ごしただろうか・・・
やれやれと西崎は寝不足の頭をかいた
西崎は休日だけでなく平日でも仕事の許す限り 聡史の元を訪れるようにしていた
しかし 意外にも西崎は日常生活での作業が得意ではない
基本的に自分の身の回りの事 料理なども何でもできる聡史や
見事に何でもできます な虎人に比べると 明らかにその不器用さは飛び抜けている
従って やる気なく だらだらと(珍しく)部屋でぐずぐずと何もせずにいる聡史の
世話をやこうにも 何ができるワケでもなく
ただただ 西崎は聡史がいよいよ病院へかつぎこまなくてはならないような
事態にまで身体を壊さないように 見張る事に徹していた
そして今日もまた 聡史はろくに食事もとらないままにソファーで眠ってしまった
ベッドに横たえた聡史の横に腰を下ろし その白い顔を見つめた
(無防備な寝顔でよぉ・・・抱き上げたらあんまり軽いんでびっくりしたよ・・
あどけない顔しちゃってなぁ・・・・また痩せたんじゃないか?聡史・・・・)
そっとその頬に手を触れてみる
ふっくらと柔らかそうな唇はうっすらと開き 淡い珊瑚色をしている
吸い寄せられるように 西崎はその唇に自分の唇を重ねた
しっとりとした暖かい感触に ずきんと胸が鳴った
ほのかに開かれた唇の隙間からその歯茎にそっと舌で触れる
「んんっ・・・」 聡史の唇が開いた所に舌を差し込んだ 夢中だった
聡史の舌を探し当てるとそっと吸い上げた
応えるように絡められる聡史の舌が甘かった
西崎の下腹部に全身の血が集まるような衝撃が走る
その時
「んんっ・・・と・・・らと?」
聡史の喉からかすかな囁くような声が漏れた
その名を聞いて西崎は思わず聡史に覆い被さるようにして口づけていた身体を起こした
だれかに頬を強く叩かれたような衝撃だった
「さ・・・聡史・・・」
西崎はその頭を数回横にふり 何かを断ち切るような思い詰めた顔で
ベッドのそばから離れた
リビングのソファーに頭を抱えて座り込んだ
その時 背もたれにかけていた上着のポケットで携帯が鳴った
「もしもし・・・・西崎です」
「たかおさん?タカシです あの 今 何処ですか?」
「・・・タカシ・・・・あっ・・ああ 今 友人の・・友人の所だ」
「・・・結城さんの 結城聡史の所なんでしょ?」
「えっ?」
「たかおさん・・・・俺 待ってるから・・・ずっと待ってるから」
相手が自分の名を呼ぶのを途中で電源を切った
西崎は携帯をポケットにねじ込んだ
電話の相手は西崎の今の恋人といっていい相手だ
西崎は聡史を想いながらも どうしても自分の手にはいらない聡史に胸を焦がしながらも
持て余す身体の熱を タカシというどことなく聡史に面影の似た
色の白い華奢な小柄な青年にぶつけた
タカシを抱きながら聡史の事を思った
抱き合うぬくもりが恋しかったのだ タカシにも愛情を感じている そう思っていた
しかし 虎人の失踪から 一人になった聡史をほってはおけず
いや
やはり聡史への思いを断ち切ることができず
西崎はタカシを放り出し 聡史の元へと通い詰めていたのだ
(本当に愛してる相手には・・・無茶できないっつうか・・・手が出せない
あげくに他の男の名前なんか呼ばれた日には・・・・・たまらんなぁ・・・・・)
西崎はこの夜もまた 眠れぬ時間を過ごす事になった
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