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虎人少年 外伝〜それから
作:tensuke



8.改革の時


8.改革の時

四菱財閥の関連企業は 保険会社から商社 造船 銀行まで
ありとあらゆる業種に係わり その負債の多くは銀行が抱えているようであった
しかし グループ企業の悲しさかそれを業績のよい業種で補わなくてはならない
その為の努力と改革に現社長は身体の不調を訴えながらも懸命に取り組んできた
そして ついにはその身体は悲鳴をあげ 取り返しのつかない状態にまでなってしまっていた

虎人は秘書の佐藤から 四菱財閥の同族達についてもレクチャーを受けた
総本家である四菱と その分家である6つもの同族たちが各企業の役員に名を連ねている
代替わりが進む分家たちは若い当主になってからは グループ企業への就職を嫌い
四菱を離れて暮らすものも少なくなかった
現代の四菱グループは もはや財閥とは名ばかりの
純粋なる企業グループのそれに近い内情なのだった
それ故に 抱えた負債は四菱に忠誠を誓うような社員たちばかりではなく
何万という一般社員の生活そのものにかかわる一大事なのであった

虎人は持ち前の好奇心と知識を総動員して 必死で佐藤の講義に取り組んだ
そして その真摯な取り組みと姿勢は多くの役員たちの心を打つモノだった
全くの素人 しかも19歳の若僧 そう冷たく何ができるものかと
遠巻きにしていた人々が 虎人の真面目な性格と年齢に似合わぬ豊富な知識と
多方面に渡る才能に魅入られていった

虎人もまた そういった人々の期待に添えるようにと寝食を忘れて勉強に打ち込んだ
そして 商社の扱う一つの商品に目をつけた
それは 扱いも小さく 販売ルートもまだ確立されていないような
フランスのミネラルウォーターであった

虎人は佐藤に この商品を 俳優 結城聡史をイメージキャラクターとして
大々的に売り出す事を提案したのだった
虎人は自ら事務所とマネージャーへ連絡をとり
頭を下げに何度も出向き 頼み込んだ
そして 2週間後 関連の広告代理店の社員を伴い
虎人はようやく了承を得た結城の事務所を訪ねたのだった

事務所に聡史の姿はなかった
久しぶりに会うマネージャーに虎人はすっかり着慣れたスーツ姿で
名刺を渡し深々と頭を下げた

「その節は 大変なご迷惑とご心配をお掛けいたしました
その上 このような無理なお願いをご了承頂きまして 本当に感謝致しております」
いっぱしのビジネスマンに見える虎人の美丈夫ぶりを眺め
マネージャーは目を細めて微笑んだ
「虎人クン 立派なものじゃないの おじいさまの会社を手伝ってるんだってね
大したものだよ その若さで 僕らで力になれるなら喜んで協力させてもらうよ
まぁ・・・正直いって聡史はあんまりいい顔してなかったんだけどね」
そういって 微笑みは苦笑に変わった

「・・・結城さん・・・まだ 怒ってますか?」
「いや 彼だって大人だしね 虎人クンの事情だってよく判ってる
だから怒ってるなんて事はないよ ただ」
「・・・ただ?」
「寂しいんだと思うよ」
そう言ってマネージャーはまた柔らかく笑った
「・・・寂しい・・・・」
虎人はにわかにはその言葉が信じられず 思わず口のなかで反芻した

結局 その日の打合せに聡史が現れる事はなく
虎人は聡史に会う事ができないままに また多忙なビジネスマンとしての
日々に忙殺されていった

虎人の企画した ミネラルウォーターの販売は 人気俳優 結城聡史の起用が
大きくセールスに貢献し その売り上げを順調に伸ばしていった
街中に貼られた聡史のポスターは 貼られるそばから盗まれ
コンビニエンスストアでのミネラルウォーターの売り上げも
四菱商社が輸入元のそのボトルが一番の売れ筋となっていった

虎人は他にも若い人達に人気が出そうな珍しい菓子の輸入を開始させたり
オートバイに乗る若者に積極的に保険とバイク用のエアージャケットという
エアーバッグ変わりになるジャケットをセットにした商品などを企画し
その全てがそれなりの成績を残していった

そうした虎人の努力と活動は社内でも徐々に評価され
佐藤も鼻が高いですと嬉しそうに虎人に微笑んだ
無我夢中の毎日だった
それでも
毎晩 床につくと目を閉じる瞬間に思い浮かぶのは
結城聡史 その人の顔だった

こうして 虎人は四菱に身を置いて はや半年を過ごそうとしていた












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