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虎人少年 外伝〜それから
作:tensuke



7.対面


7.対面

「会長 お連れしました」 佐藤の声に部屋の中央に置かれた大きな寝台から低い声が応える
「近くへ・・・こちらへ寄りなさい」

佐藤に促され 虎人はその低い声の持ち主の顔が見える場所まで歩み寄った
それは 大きな寝台の白い羽布団に埋もれるようにして座る小さな老人だった
「とらと・・・か」 老人は節くれた手を伸ばして虎人を招いた

「小林・・小林虎人です」 虎人はどことなく人を圧倒するこの老人に丁寧に頭を下げた
「顔を・・・顔をよく見せてごらん・・・ほぉっ・・恵の若い頃に良くにておるな 気の強そうな目じゃ」
「・・・・・・・・・・・」
「虎人・・・」
「はい」
「お前に頼みがある」
「はい」
「お前の母は私の長女だ そして長男が今死にかけている四菱の現社長だ
そして あいつは10年前に離婚していて今後を継ぐべき後継者がおらん
別れた女房はあいつの一人息子を連れて家を出た そいつは今頃25になってるだろう
だが そいつに会社を継がせるワケにはいかない なにしろ別れた女の息子だ
今となってはこの家とは無関係な人間だ
だから 今 四菱を継げるのは虎人 お前一人なんだ 頼む どうか
どうか四菱グループの何万という社員たちとその家族のために 会社を背負ってくれ」
「四菱財閥を・・・僕が?」

佐藤が静かに頷くのが見えた
虎人は混乱する頭で必死に状況をのみこもうと努力した
自分の置かれた状況を 必死に整理して考えようと試みた
しかし ことごとく失敗に終わった
そして 深く長いため息をひとつついた
その後 大きく深呼吸すると ベッドの老人に向かってよく通る声で言った

「事情は まだよく理解できません 正直 なぜ僕が とぐるぐると結論もでません
でも 正直なところ 僕は大学で経済学を学びたいと思っていました
だから 四菱のような大企業を実地に体験できるのなら 願ってもないチャンスだと感じます
是非 勉強させて頂きたいと思います
僕に 何ができるのか判りませんが お役に立てるのなら・・・喜んで お引き受けします」

老人の顔に安堵と喜びの表情が浮かび 皺の刻まれた手が 虎人の手を強く両手で握りしめた
佐藤の顔にも笑みが浮かんでいた

(ハーバードに行けなかったのだって 元を正せばお袋の勝手な陰謀のせいだったんだ
祖父の頼みをきいて悪い事があるワケがない 親孝行はする気にならないけど
敬老精神は溢れる程にもちあわせてる こんな面白い経験はなかなかできないだろうし・・・)

虎人は心の中で ひそかに湧き上がってくる興奮を宥める事に苦労していた
そして すっかり 自分の元いた世界 結城聡史や芸能界といった事たちを
きれいさっぱり思考回路の外に置き忘れていた

虎人が その事に気づいたのは
佐藤について 会社経営のなんたるか そして 四菱グループについての研修を受け
実際にその仕事に係わりはじめ 刺激的な学びの日々になれ始めた頃
そう あの突然の拉致監禁からじつに3ヶ月もの日々が過ぎ去った頃だった

「虎人様 身の回りにご不自由はありませんか?」 佐藤に聞かれ 虎人ははっと我に返った
買い与えられたスーツやワイシャツ 身の回りの品々に不足はなく 不満もなかった
屋敷には虎人の専用の部屋も与えられ 毎朝送迎の車で虎ノ門の本社へ赴く
会社にいる間は時間も忘れて 社の抱える問題点に取り組み 若さならではの
斬新な改革案を練り 合間をぬっては要人たちから四菱の歴史からその成り立ちまでをレクチャーされた

元来 学ぶ事 そして何かを創り出す事 改革してゆくこと等に深い興味を寄せ
楽しむ事を知っていた虎人は 与えられたこの環境を受け入れ 満喫していた
そして すっかりと忘れていたのだ 聡史たちの事を

(何てことだ・・・僕は今の今まで結城さんの事をほったらかしにしてしまった・・・・
あの夜 連れてこられてから そのまんま 何の連絡もしないままに 夢中で会社の事にのめり込んで・・・)

この期に及んでようやく虎人は事態の深刻さに思い当たった
慌てて聡史の携帯に電話をかけた

「もしもしっ!結城さんっ 僕です 虎人です」 
虎人の声に電話の向こうに小さな驚きの息がもれるのが聞こえた
しかし その後に届いた音声は 聡史のこれ以上ない程に不機嫌な声だった
「・・・・虎人?・・・なに 今頃」

「ゆ・・・結城さん・・・あの 僕 いろいろあって その 連絡もしないですみませんでしたっ
今 祖父の所に住まわせてもらいながら 四菱の仕事を手伝っていて・・・その・・・」
「もういいよ」
「結城さん?」
「勝手にしろよ」
そういって電話は一方的にきられてしまった
(結城さん・・・・・・)

虎人は受話器を握りしめたまま かけ直す事もできず ただ つーつーつーという音を聞いていた












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