4.部屋にて
4.部屋にて
その夜
自分たちのいる部屋からそう遠くもない建物の一室で
このような会話がなされているなどとは知る由もない虎人と聡史はその頃
一日の仕事を終えて 住み慣れたマンションの部屋へと戻ってきていた
「奈良とか地方のロケが多かったから この部屋でゆっくりするの久しぶりですよね」
コーヒーの入ったカップを聡史に差し出しながら虎人がぼそりと言う
「だなぁ〜 やっぱり家はいいよなぁ〜」
「ですよね 落ち着くし・・・それに・・・」
「それに?」
「二人はいいなぁ〜 とか・・・ね」
「とかね かよ なんだそりゃ(笑)」
「笑っちゃうんだ結城さんは・・・・いーですよ どーせ僕だけですよ」
「そんなことないよぉ〜 俺も虎人と二人は好きだよ 一番ゆっくりできる」
「どーだかぁー」
「何だよ からむなぁ」
「西崎さんとか」
「ああ 彼はまた少し違うなぁ
虎人が俺の世話をあれこれ焼いてくれるみたいにさ
何かしてあげたくなるっていうか そういう人だよ 西崎さんって」
「僕には何もしてやりたくないんですね」
「虎人は何でも自分でできちゃうじゃん からむなよ」
「そーですけど・・・」
珍しく少しむくれた顔で俯いた虎人が 19歳の少年らしく見えて可笑しかった
聡史はくすくすと楽しそうに笑いながら 虎人を手招きした
「こっち来てみろよ 虎人」
「なんですか・・・・」
「虎人にもちゃんとしたい事あるよ」
「へっ?」
「必殺 エロちゅぅー」
「・・・・・殴りますよ」
「可愛くねぇなぁ ちゅっ!」
「んっ!!」
聡史にいきなりその唇を塞がれて 虎人はじたばたとその腕から逃れようともがいた
「ってぇ〜いっ! やめて下さいよぉ結城さん」
「どーしてーー いーじゃんいーじゃん」
「・・・・・襲いますよ」
「うぃー♪喜んで」
「おいっ・・・ あっ!」
「え?何?」
「車に忘れ物してたんだ僕 ちょっと駐車場行って取ってきます」
「明日でいーじゃん」
「今夜 チェックしておきたいものなんですよ すぐ戻りますから」
そういって車の鍵だけを持ち虎人は部屋を出て行った
聡史が見た虎人の最後の姿だった
「小林虎人クンだね?」
低く囁くような声が耳元に響き 背中に何か尖ったものを突きつけられた
振り向く間もなく 虎人の口と鼻がしめった布で覆われた
「はい?うっ!」
闇夜に白いセダンが走り去っていった
「あれ?虎人?どこ?虎人?」
自宅マンションの駐車場から部屋へと向かうほんの数分の出来事だった
虎人がいつまでたっても戻らず心配になり
マンションの玄関先まで聡史はサンダルをつっかけて出てきた
その目前を白いセダンは走り去っていった
小林虎人を乗せて
聡史はその事実を知らない
そして そのまま 虎人は帰ってこなかった
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