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虎人少年 外伝〜それから
作:tensuke



11.狙う者


11.狙う者

そんな虎人を見つめる目があった
それは あのライカの男ではなかった
カフェの奥まった席から虎人を見つめる年配の女性 それは かの
現社長の元婦人
思い詰めた様子で席を立つと おもむろに虎人に歩み寄ってきた

「失礼ですが」
「はい?」
「小林・・・小林虎人さんでいらっしゃいますね?」
「はい・・・そうです」
「私 山井と申します・・・元は四菱の妻でございました」
「社長の?」
「ええ・・・あの・・・少し お時間を頂けますでしょうか?」
「あ・・はい」

虎人は婦人を席にエスコートするとウェイトレスにコーヒーを二つオーダーした

「お話というのは・・・?」
「小林様に折り入ってお願いがあるのです」
「お願い・・・」
「息子を・・・息子を四菱に・・社長補佐の元の部署へ戻してやって下さい」
「ご子息・・・・」
「離婚して10年 息子は四菱に実力で入社いたしました
社長の息子と言うことは伏せての事でしたから 一切コネだったとは思いません
そして実力で社長補佐の部署にまで配属されたのに
人事部長から 離婚した女の息子に社内にいられては困ると
ただそれだけの理由で 何の説明もなく 一方的に退社を命じられました

息子は 本当に良い子なんです
父親の病気の事も知って 大変心配しております
自分にできる事があれば手伝いたいのにと・・・・・そんな息子が不憫で・・・」
婦人はハンカチで目元をそっと押さえた

「お話を・・・・詳しく 伺わせて下さい・・・」
虎人は姿勢を正して座り直した
「ご主人の・・・社長の病状はここへきて随分と落ち着かれています
主治医の先生にも 随分と明るい見通しが期待できるとおっしゃって頂いてます
会社の状態が良くなってきて 社長も心労が軽減されたのではと・・・・」
「そうですか・・・出来ることなら 主人が・・・社長が存命のうちに
息子に・・・息子に近くで仕事をさせてやりたいと・・
そう願うのは私のエゴなのでしょうか・・・・」

婦人は虎人の目をじっと見つめて訴えた
「ご子息の退職については会長や佐藤さんは・・・どのようなご対応だったのですか?」
「会長はご存じなかったと思います・・・」
「そうなんですか・・・お力になれたら・・と思います」
「よろしくお願い致します 勝手なお願いとは重々承知しております
ただ・・・どうしても 父親の存命の間に もう一度 もう一度近くに
仕えさせてやりたいのです」

婦人の涙ながらの訴えに 虎人は思案に沈んでいった

一方 西崎の部屋では

「たかおさん・・・俺 たかおさんの事本気だよ 俺だけを見てよ
振り向かない男なんかに・・・たかおさんが振り回されるのを見ていたくないよ」
「タカシ・・・・」
「俺はあの男が憎いよ 結城聡史さえいなかったら たかおさんがこんなに苦しむ事ないのに」
「タカシ・・・・お前・・・・」
「俺と暮らそうよ たかおさん 俺ならいつだってたかおさんだけを見つめてるのに 想ってるのに」

(聡史は・・・・俺にとっての聡史は そう 気障かもしれないけど
どこか 運命の女神だとか 幸福の天使みたいな そんなもんなんだよ・・・・タカシ・・・
それが本当に気まぐれに 時々俺の腕の中に飛び込んできたりするもんだから・・・
どうしても どうしても諦められないでいるんだ・・・決して俺だけのものになんかならないって判ってるのに)

西崎は大きな目に一杯の涙を溜めて 健気に詰め寄るタカシという恋人をそっと抱き寄せながら
心の中では結城聡史の名を呼んでいた
この腕に抱き締めたいのは 本当はただ一人 聡史だけなのに・・・・と

そんな西崎の心の内を知ってか気づいてか
タカシは身をよじって西崎の腕の中からのがれると 涙の乾かない瞳をきっと見開き
赤い唇をきつく噛み締めて西崎を睨んだ
「もう・・・もういいよたかおさん 俺は 俺のやり方で貴方を俺のものにしてみせるからっ!」

そう叫ぶと身を翻し タカシは西崎を残し部屋を出て行った
「タカシ・・・・」
西崎は のろのろとタカシの忘れていったジャケットを手に後を追ったが もうその姿はどこにもなかった
部屋に戻るとソファーに崩れるように座り込んだ
身体を重ね 繋いだ仲のタカシ 
どこか聡史の面影をその顔に重ねてしまう優しげな整った顔立ち
聡史よりは10センチは小柄であろうタカシの暖かい肉体が 今は恋しかった
本当の恋人というのなら・・・・タカシのような相手の事を言うのだろうか・・・ふとそんな事を想った

しかし その夜 事件は起きた
結城聡史が刺されたのだ タカシに・・・・


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