10.素直になれる時
10.素直になれる時
(CMの撮影の時くらい 顔を出すかと思ったのに・・・来なかった・・・虎人・・・)
聡史もまた 自分の心と向き合う事ができずにいた
虎人が部屋にいた頃 聡史はよく西崎の家へ一人で遊びに行った
でかけるから晩飯いらないよぉ と言うと 虎人は笑って言った 泊まりですか?
うんと応えると決まって言った 携帯持っていって下さいねぇ〜
そんなやり取りをしてきた と話すと 西崎は心底不思議そうな顔をしたものだ
お前らの関係って一体なんなの?と
聡史は西崎のマンションを訪ねては 何だかんだと西崎の世話を焼き
料理を作り 部屋の掃除をし 甲斐甲斐しく片付けをして
作った料理を西崎が美味そうに食べるのをニコニコと眺めた
そして 西崎の気持ちを知ってか知らずか
その誘いに艶然と微笑んで身を委ねる夜もあれば
さりげなくその腕をすりぬけて帰ってゆくこともあった
そしてそういう時は決まって 今日は虎人に帰るって言ってきたから などと言った
西崎が聡史のこういった行動に頭と胸を大いに痛めている事を
聡史の本心が一体どこにあるのか悩み抜いている事に
聡史はあえて 気づこうとはしなかった
そしてまた 虎人の気持ちにも 聡史は向き合おうとはしてこなかった
何より
自分の心がどこにあるのか
聡史は確かめようとも思わなかった
それが今
虎人が部屋にいない ただそれだけがこんなにも心を乱す
そして あれ程自分から恋しく憧れていた西崎にこうして身の回りを心配され
毎日のようにあれやこれやと世話される事を
素直に喜べない自分がいる
自分の家なのに 居心地が悪い そして居場所がないように感じる
みるともなく眺めていたテレビの画面に 自分が出演したミネラルウォーターのCMが流れる
爽やかな笑顔を振りまく男が自分とは思えない
素直に自分の心と向き合うことができない
虎人に会いたい そういって悲鳴をあげている自分の心と向き合えない
虎人はどう思って過ごしているのだろうか
自分を仕事の対象に選んだ理由は何だったのか 知りたいと思った
今 虎人はどうしているのか・・・・
虎人もまた その頃 珍しく一人の時間を過ごしていた
社長室に佐藤と缶詰になって練り上げていた企画が一通りの仕上がりをみたため
遅めの昼食をとりに四菱商社の近くにあるカフェへとでかけた
ネクタイを少し緩め 運ばれた水を飲み干した
(結城さん・・・どうしてるかなぁ・・・
結局 あれから一度も会えてないし・・・声も聞いてない・・・・)
出来上がったミネラルウォーターのCMは評判も良く
コネをふるに活用しただけじゃないかと嫌味を言っていた社員たちも
今となっては虎人の手腕と企画の良さを認めていた
(どうしても・・・結城さんに出て欲しかったんだ・・・ホントは自分で話したかったな・・・)
虎人もまた気持ちを持て余していた
無我夢中だった日々を乗り越えて 少しの余裕が生まれた今
やはり気になるのは聡史の事だった
このまま 二度と出会える事なく このまま時は流れてしまうのだろうか
それは・・・・哀しすぎる
虎人は ふと席をたつと店の外へ出た
携帯を掴み ダイヤルする
「・・・はい」
「・・・あの・・・結城さん・・僕です 虎人です・・あのっ切らないでっ!」
「あ・・ああ・・切らないよ 虎人」
「よかった・・・結城さん」
「ん?」
「会いたいです」
「やぶからぼうに何だよ 撮影にもこなかったくせに」
「会いたいです」
「くすっ(笑)なんだかなぁ」
「メシ・・・ちゃんと食ってますか?」
「ああ」
「ちゃんと寝られてますか?」
「うん」
「CM・・・評判いいです ありがとうございました 引き受けてくれて・・・」
「ああ・・なぁ 虎人 どうして俺だったんだ?」
「それは・・・さわやかで瑞々しくて 若者に人気のあるキャラクターという事で・・・」
「そいつは企画のプレゼン用の文章だな ホントのところを聞かせろよ」
「・・・・僕の 水も空気もなくちゃ生きていけないものだから・・・だから」
「だから?」
「貴方がいないと生きていけない・・・・から」
「それは 俺の台詞だよな 虎人がいなくちゃ 生きていけない・・・」
「結城さん・・・」
「戻ってこいよ・・・虎人」
「・・・・・・・・・・」
「待ってるよ」
「はい」
「俺も自分の仕事にやりがい見つけて頑張るから 虎人も頑張れ」
「はい」
「頑張ってる虎人を励みに俺も頑張る だから いつか 戻ってこいよ」
「はい」
切れた電話を握りしめ 暖かいものが胸にあふれるのを噛み締めた
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