至純にして散る
この小説も、私のサイトで掲載されているものを加筆修正したものです。
この小説において、坂本は攘夷組の中でも年上という設定になっています。
※この小説を読む前に、私の以前執筆した小説、「高杉誕生日小説〜過去より届いた手紙〜」をお読みになると、より面白く読めると思います。
しかし、読まなくても全然話はわかります。
やけに、肌寒い。
「……。」
(久々に帰って来たら…こうも寒うなっとったとは)
坂本は地球にいた。
ここは江戸から遠く離れた田舎、萩の町。
地球での、久々の休暇だった。
「やっぱ田舎はええのう」
(ここは好きじゃ)
1年程昔、攘夷戦争の為にここに来た坂本は、鬼のように強いある3人に出会った。
(…奴ら…今どこにいるんかの…)
彼らの行方は分かっていない。
まだ攘夷戦争を続けているのは確かだろうが、恐らく戦地を転々と移動しており、大体の検討しかつかなかった。
『頭』
「!」
突然襖の向こうから聞こえた声。
女にしては低めの声である。
坂本は直ぐに誰か察した。
「陸奥か。…何じゃ、入ってええぞ。」
『…失礼するぜよ。』
そうして襖が開けられると、いつもとは違い浴衣姿の陸奥がいた。
陸奥の手には、紙袋が提げられている。
「これ、この旅館の女将が菓子をくれたき、頭も一緒にどうじゃ。」
陸奥は無愛想に、手に提げた紙袋をずい、と突き出す。
「アッハッハ!どうしたんじゃ、おんしがわしと一緒にお茶なんぞまっこと珍しいのぅ。」
「阿呆か。甘いもんはあんまり食わんき、1人で食べきれんだけじゃ。」
陸奥は襖を閉め、坂本の前に胡座をかいて座った。
陸奥が床の上に菓子の紙袋を置くと、坂本はすぐに中身を確認する。
「おぉ!水羊羹じゃなかか!美味そうじゃのー」
坂本は早速食べ始めた。
「…いただきます。」
陸奥もそれに続く。
「んー!こりゃ美味いのー!さすがは萩の旅館じゃ。…やっぱり萩はええのぅ。」
坂本はこの萩の町の雰囲気が好きだった。
「頭、この萩という町、確かここでも攘夷戦争が行われていたじゃろう。」
陸奥はふと思い出したように言う。
「おう。よう知っとるの。ここに戦をしに来た時に、銀時とヅラと高杉に出会ったんじゃ。」
坂本は懐かしむように外を眺めた。
「今も…その仲間は戦っとるんがか…」
「…あぁ。今も、どっかで刀振り回してるんじゃろうな…」
傷だらけになりながら、
仲間を失いながら―…
それでも戦っていたのは、
やはり目的があったから。
こんな日本国ではいけない。
ただ、昔のような
活気のある侍の国に戻したかった。
「でもな」
「?」
「わしは、国を変えたい気持ちより、戦いをしたくないっちゅう気持ちの方が勝ってしもうたんじゃ。」
「………。」
「ワシと奴らでは攘夷戦争に参加する理由の次元が違うた。」
坂本は静かに笑う。
「…次元?」
陸奥はいつもの無表情を貫きながらも、坂本の話を聞いていた。
「奴らはの、日本国を変えるなぞぼんやりした目的で攘夷戦争をしているんじゃないき。」
「じゃあ何故…」
「恨み」
「え」
「奴らを動かしとったのは、恨みと、憎しみじゃ。」
「……。」
無表情だった陸奥の表情が少し崩れる。
「奴らは日本国が変わるまで死なん。…だから、心配なぞしたことはないぜよ。」
「…そうなのか」
坂本の言っている事は陸奥がちゃんと理解できる事ではなかった。
坂本もそれをわかっていて抽象的に話をしたのだろう。
(よくわからんが…深追いせん方がいい事はわしにもわかる)
「…この戦争が…どう終わろうが奴らは絶対に死なん。」
「……。」
陸奥でも知っている事実があった。
―攘夷戦争はもういつ終わってもおかしくない所まできている。
…もちろん、幕府・天人連合軍の勝利で、だ。
『頭』
「「!」」
突然、男の声が襖越しに聞こえた。
「なんじゃ。」
快援隊の者だ。
何か船にトラブルでもあったのだろうか。
『あの…先ほど、ある情報が入りまして…』
「情報…?」
どうやら、船のトラブルではないらしい。
「それは今言わんといかんことか?…頭は休養中じゃとおんしも分かっておるじゃろう。」
陸奥は働き詰めだった坂本を気遣った。
『も、申し訳ありません…。しかし…用件の内容は…非常に重いものですき…』
男は気が弱いのか、声が段々小さくなる。
「分かった。入っていいき、情報とやらを教えてくれんか。」
坂本は穏和な声色で、入るよう促す。
『では…失礼します…』
スーッと襖が開けられ、そこには総髪に細身の男がいた。
…気のせいだろうか。…少し、青ざめているように見えた。
「……用件を、言うてみぃ。」
非常に重い内容だとこの男は言った。
もちろん、良い情報ではないのだろう。
「はい…。非常に申し上げにくいんですが……頭、失礼ながら…心して聞いてほしいですきに…。」
(そこまで酷い情報なんか…?)
坂本も陸奥も身構える。
男はゆっくりと口を開いた。
「―…攘夷戦争が…終わりました…―」
…………っ
「な……」
陸奥が小さく声を漏らす。
「………」
坂本は押し黙ったままだった。
ただ、そのサングラスの奥から垣間見える見開いた目は驚きを隠し切れていない。
「…幕府が廃刀令を強行配布したのをきっかけに攘夷軍は全面降伏。それまでにも多大な犠牲者をだし、もう攘夷軍はボロボロだったようです。」
「………」
―攘夷戦争が終わった。
自分があれだけ戦い抜いてきた戦争が、あれだけ仲間を失った戦争が、
彼らが命を懸けた戦争が、
終わった。
「幕府は攘夷軍幹部多数を捕らえたらしく、恐らくは処刑すると考えられます。
そして高杉晋助率いる鬼兵隊は壊滅、更には鬼兵隊の者も多数捕らえられた模様。」
すると、フッと頭に浮かぶ、あの勝ち誇ったような笑みと綺麗な紫色の髪。
「桂小太郎率いる攘夷軍最大の部隊も散り散りになり、壊滅。」
あの大人っぽく、上品な笑みとサラサラの長い髪。
「坂田銀時率いる強者が選び抜かれた小部隊も殆どの者が戦死、もしくは捕らえられたようです。」
人懐っこく穏やかなあの笑みと、美しい銀色の髪。
「して…奴らは…?」
震えていた、ように思う。
「…幸い捕らえられてはいないようです。しかし、三方共行方不明。生死も不明です。」
………。
自分にとって、弟のような存在の彼らが、
仲間であり親友である彼らが、
(いかほど…辛いんかの…)
生きていないのではないのか、などの心配は一切していない。
でも、だから…
だからこそ…
(惨すぎる)
「―…頭」
「何じゃ」
「もう日も傾いてきおった。わしは外すぞ。頭は…ゆっくり休むといい。」
陸奥はそばの男に目配せし、ゆっくりと坂本の部屋をあとにした。
***
「わしの覚悟は…所詮こんなもんじゃったんかの…」
声に出して後悔した。
身に、声が滲みる。
―真夜中、外では虫が鳴いている。
坂本は真っ暗な外を眺めていた。
おんしらは今、何を思って生きとるんじゃ?
きっとこんなに真っ暗い闇の中にいるんじゃろう
のう、高杉、
おまんはどんなものより仲間を大切にしちょった
辛すぎるじゃろう
鬼兵隊は捕らえられ、壊滅したと聞く
隊の長のおまんだけは生きとるんじゃから
のう、ヅラ
おまんは自分を全くかえりみんところがある
仲間の為なら自らの身なぞどうでも良いなんて平気で言いよる奴じゃ
きっと仲間の傷を癒やすのに必死で
自分が一番傷だらけなんに気付いとらんじゃろう
のう、銀時
おまんはきっと…泣いとるな
おまんは誰より命を殺めるのを嫌っとった
師の教えだと
殺める剣じゃない 護る剣を崇拝しとった
そんなおんしが殺める剣をとったんじゃ
それだけ世の中が大嫌いじゃったということか
だがずっと泣きっぱなしじゃ
前は見えんぜよ
「わしは…」
(何もできん)
彼らの気持ちがいくら解ろうと
側にいてやることはできない
「そんなの…覚悟した上で宇宙に発ったっちゅうのに」
こうなることは分かっていたはずなのに
(なんでかの)
「悔しくて、」
サングラスを外す。
「たまらんわ」
大きな瞳から流れるそれが
妙に温かいのに苛立った。
***
ここは、
…ここは…どこじゃ
あぁ、夢か
今夢をみとるんか
「もし」
?
「あなたが」
「あなたが、私の子ども達のご友人で?」
誰じゃ?
「失礼、申し遅れましたね。私はあの子達の師であった者です。」
あの子達…
「はい。あなたにはあの子達が本当にお世話になったようで。お礼を言わなければと思いましてね。」
おんし、まさか松陽先生とかいう…
「おぉ…これはこれは。ご存知でしたか」
わしの夢なんかより奴らの夢に出てやった方が奴らも喜ぶじゃろ?
生きる希望も生まれてこように…
「それはどうか分かりませんが…今はあなたの夢の中にやって来なければならない理由がありますから。」
…?
…おまんなんじゃろう?
奴らが色んなもんと闘っとる原因は
「…確かに、あの子達が苦しんでいるのは私のせいだ…。…私が弱い故にあの子達を苦しめることになってしまった。」
……
「…それにあたって…一つお願いがあります。」
…お願い?
「はい…実は…私はそのためにここに来たんですよ。」
…奴らの為になることなら
どんな願いでも聞いちゃる
「…ありがとう。勝手にあなたの夢に出てきて厚かましいかもしれませんが…すべてはあの子達のため」
「…このお願いを頼めるのは、あなたしかいない。
どうか…いつになっても、
何年経っても、
あの子達と仲良くしてあげて下さい。」
え…
「小さな頃からずっと一緒だったあの子達は…バラバラになってしまいました。
あの3人全員の事をよく知っているのは
もうあなたしかいないのです。
あの子達に何があってもあなただけは3人共と仲良くしてあげて下さい。
それだけで…救われると思うんです。」
そんなの…当たり前じゃ
わかったぜよ
約束じゃ
「―――」
***
「―……っ!」
窓の外から聞こえる、小鳥の囀り。
窓の隙間からは明るい光が射し込んでいる。
どうやら朝になったらしい。
「不思議な…夢じゃった」
どういうわけか、すべてはっきりと覚えている。
「あ」
(そういえば…今何時じゃ…?)
坂本は反射的に時計を見た。
「あ…あーぁー…」
もう針は9時をさしている。
(ちょいと寝坊してもうたのー……また陸奥にこっぴどく叱られる…)
今日はまた宇宙に戻って明日からはもう仕事が始まる予定なのだ。
(まぁ…ええか。あんまり急ぐのも性に合わんき)
坂本はふと外を眺めた。
彼らは…この景色を見て育ってきたのか…
きっと限りなく幸せだったんだろう。
…ただ、自分の想像でしかないのは確かだが。
『頭、起きたか?』
すると突然、襖の向こうから女の声が聞こえた。
「お…おぉ、陸奥か…」
寝坊をしてしまった今、坂本が一番恐れるべき人物だ。
『準備はできたんか?早く行くぜよ。』
「…?お、おう。」
いつもと違い、全く寝坊について触れない陸奥が不思議でならなかった。
(あ…まさか…)
いや…心当たりがある。
(昨日の事を…まだ気にかけてるんか…。…こりゃあ元気をださにゃいかんのう…)
「もう出れる!船は用意できたんか?」
『もちろんじゃ。そんなら行くぜよ。』
「おう!」
坂本は部屋から出て、陸奥と共に船が置いてある空港へ向かった。
***
「頭、もういつでも出発できる」
「おぉ、わかったぜよ。」
坂本は、外を眺めていた。
いつもは空を眺めるのが決まりなのだが、今日はただひたすらに陸を眺めていた。
「わしにも準備ができたき、行くか…。」
坂本は外を眺めたまま、動かない。
「…?…頭、今日は運転せんのか?」
坂本はいつも出発は自分でしたがった。
「ん…今日は外眺めとくき、そっちで出発しといてくれんか。」
「…わかったぜよ。」
陸奥は静かに去っていった。
(頭…やはり昨日から様子がおかしいのう…)
でも、心配はしていない。
(頭はそんなに柔じゃないからの)
(…というか、あんまり深く考えん性格じゃき、大丈夫じゃな。)
陸奥はため息をつき、操縦室に入った。
船が、出る。
(また、地球とはお別れじゃな…)
ここには銀時が…いや、銀時達がいる。
だからこそ自分はこうやって宇宙に発つことができる。
昨日、思い悩んでいた自分が嘘のようだった。
今、自分がやれること。
彼らが弱っている時、支えになってやること、
自分が弱っている時、彼らに寄りかかること、
そして…―
(また奴らにどこかでばったり会ったら、酒でも飲み交わすこと、かの)
いつになろうと、何があろうと、
友であり続けること。
坂本は、とうに離れてしまった萩の町を見下ろした。
(礼を言わなきゃならんのはこっちぜよ、松陽先生…)
昨日、『ありがとう』と言って自分の夢から去っていった男に向かって、笑いかけた。
end.
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