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君の目をみて いえること
作:三小屋真尋



1―3 煙の行方


 彼女と出会う数分前だ。僕はこの席で人と会っていた。

 中間テストの問題用紙のように事務的に渡されたのは『一般住宅用太陽光発電システム』と表題が印刷されたカタログと説明会の日程をクリップでとめたもので、表面的な見かけで想像するならファックスでも用が足りそうなものに思えた。

 僕の名前をどこで知ったのか「宮下洋兵さんに渡したい」とあまりに熱心だったので承諾しましたと事務員の中村さんがいっていた。
 中村久美さんは29歳で僕よりひとつ年上だけれど、3年前に旦那さんを交通事故で亡くしている。会社ではあまり話さない。だけど何かと親切にしてくれる。気が利くというのか、利かせてくれているというのか。僕を今のこの会社に紹介してくれたのが中村さんだ。だけど。僕の顔をあまり見ない。
 そういう癖なのだと思うようにしている。

 その営業マンは30歳も後半だろうか。髪を刈り上げ、浅黒く焼けた肌とガッチリとした体格だった。
 どこかのアメフトの選手に似たその大柄な男の差し出した名刺には

  SEC カーサービス
  営業  細川ほそかわ ひびき

 とあった。本業は車屋でカタログの太陽光発電システムは副業らしい。
 毎日何件かのシステム説明のノルマでも課せられていて、一件でもそれを営業したという実績が欲しい、といったところだろう。
 僕は退屈な時間を予想した。

 窮屈きゅうくつそうなネクタイの細川と名乗った男の掠れた声は妙に早口だった。
「東京よりも、ほらね、北海道のほうが、熱の伝導効率はいいんですよ。ここ、ほらね。寒い地域のほうが、ほら、熱を伝えるときのロスが少ないんですね。ここ、わかりますよね。日差しは東京のほうが強くても結局最後の数値はほぼ同じで・・・・・・」

 台本を読むような説明が続いた。2、3回。声をだして練習をしたというところだろうか。
 予想した退屈さはやはり思ったより早くやってきた。
 あまり興味はなかったけれど、関係をグラフで比較して示されると、北海道だからといって不利ではないということには少しだけ驚いた。
 何でもかんでもが北海道は東京より劣ると決めつけて結論をだそうとする自分がいつもいる。
 新鮮なものが北海道に溢れているのは、北海道が北国で産地だからで、気温が低いから傷みが遅くて、おまけに空気がほかよりもちょっぴり澄んでいるからで、北海道が頑張っているわけではない・・・・・・。
その場所にあることがそのことに関してラッキーなだけだ。
 石油産油国とおなじ。
 高い技術をもった先進国がそれに群がり、原産国はそれに甘んじる。

 ただ流されているだけだ。頑張っているわけではない。
 そんなひとり言を溜め息といっしょに吐き出した。

 細川がいった。
「吸わないの?たばこ」僕の態度に脈なしと諦めたのだろう。細川から敬語は消えていた。
「ええ。吸いません」僕は右手を煙を追い払うようにひらひらと振る。
「そう。じゃあ、そっち行ってふかしてるよ」といって胸ポケットからセブンスターを取り出して、テーブルに捨てるように置いた。
 その上に緑色の百円ライターを同じように、捨てるように、ポンと置いた。そのつもりが、勢いがまって床に落ちた。

 変な角度で床にあたり、変な方向に落ちて探すのに手間取っっているようだった。テーブルの下からライターを拾い上げた細川はもう僕の顔を見ることはなかった。
 時計を気にしながらその風貌とは似つかない身のこなしで席を立ち、そして磨き上げられた窓ガラスの向こうを見ながら、シュッと火を着けた。
 くわえ煙草の煙は毛糸のように細く立ち昇り、吐いた煙は淋しそうに別の場所を求めて消えていった。

 煙草はため息に色をつけて分かりやすくするためにある。自分が吐き出したせつなさの量を確認するためにある。
「これくらいだよ・・・・・・」と囁いて、漂って、またどこかへ消えてゆく。
 確かめているぶんだけ、目で見ようとするぶんだけ、僕よりましかもしれない・・・・・・。

 時間はあったので珈琲のおかわりでもして、もう一息ついてから会社へ帰ろうと思っていたとき、ドアが開いた。

 店に入ってきた二十代半ばほどの女性は空席を探していたようだった。そして何気なく視線が触れた。

 あ!












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