乙女ゲームに転生したモブはヒロインの味方です
突然だが、俺には前世の記憶がある。
…ちょっと待とうか、そこの人。俺は正常です。病院は結構です。
…いや、中二病でも無いからな。ごめん、痛い子見る目で見ないで。本当にマジキツイんで。
とにかく、俺には前世の記憶がある。
と、言っても世界を救った勇者だったとか異世界の王子だったとかは全然なく、ただの日本人男子高校生だった。
普通に高校入って、友達とバカやってた、本当に普通の男子高校生。
ただ、うち貧乏だったから勉強はすごく頑張ってた。
そのかいあって、国立大学に無事合格し、あとちょっとで高校卒業、ってところで事故にあい人生終了。
彼女いない歴=年齢という虚しい人生だった。
まあ、それは置いといて、実はこの世界、乙女ゲームの世界なんだ。
うん、待とっか。そうだな、なんか最近流行ってるらしいね、乙女ゲーム転生。
大丈夫、痛い妄想でも、小説に影響されて変なこと言ってる訳でも無い。
いや、男子高校生で乙女ゲームやってたのって、冷たい視線向けんの止めて。
やってたのは、妹!! 妹です。
うん、話を元に戻そう。気がついたのは、幼稚園のとき、幼なじみのフルネーム初めて漢字で見たときだった。
前世の記憶が戻った瞬間ぶっ倒れて周りに迷惑かけたのも、いい思い出である。
だがな、俺にはこの世界が乙女ゲームだとしても何の関係も無い。
だって、俺普通のフツメンだし。いわゆる、モブ、モブ。
幼なじみのような顔面偏差値&チートな性能持ってません。
まあ、幸い俺は前世の記憶のおかげ勉強は、バッチリだし、勉強はトップクラスを目指させて頂こうではないか。
ついでに、前世から憧れてた空手や柔道もやりたい。
強い男カッコイイ。
前世、貧乏だったからそんなこと言い出せなかったんだよな。
乙女ゲームのストーリーが始まるのは高校生からだし。
きっとその頃には、幼なじみとの縁も切れていることだろう。
家が近いって言ったって、幼なじみの家は超大富豪。俺の家は平均よりはチョイいいめの平凡な家庭。
まあ、そんなこんなで乙女ゲームのキラキラストーリーには関わらず、人生満喫させて頂こうではないか。
と、思っていたのに。
「正彦、行くぞ。」
はい、ただ今高校生でございます。
乙女ゲーム攻略対象者である幼なじみに起こされて、学校に向かっております。
ええ、もちろん、同じ高校でございますよ。
チクショウ。
なんでこんなことになったかと言うと、幼なじみはチートな天才だった。
まあ、乙女ゲームのお約束だよな。
なんでもそつなくやれ過ぎて学校で超浮いていた。
何でも、小学校と中学校は公立って言うのが、家の教育方針らしい。
まあ、将来は孤高の生徒会長様になるんだから、それも自然なのかもしれないけど…。
うん、まあ、ほっとけなかった。
だって、幼なじみだし。結構、いい奴だし。
俺も俺で、記憶チートのおかげで勉強方面ではなんとかついていけたし。
そんな感じでいっしょにいて、たまに俺の友達も混じっていっしょに遊んでってしてたら、それなりに馴染めて楽しそうだった。
んで、高校受験、幼なじみの入る超金持ち校にいっしょに受験させられた。
何でも、俺といっしょに高校通いたかったとか。
高校は別れて、今度こそ彼女を!って夢が儚く崩れさった瞬間である。
幼なじみといっしょにいると女の子みんな幼なじみに行っちゃうんだよ。
時には、俺をだしにして近づこうとする奴もいるし。
彼女なんて、この状況じゃ無理無理。
前世からあわせて彼女いない歴を更新中である。
うん、超せつねー。あ、目から心の汗が。
学校についたら幼なじみのファンクラブが門の前で待っていた。
幼なじみに「貴成様ーー!!」と黄色い声を飛ばしまくっている。
うん、俺の存在なんて無視だね。別にいいけど、面倒くさいし。
女嫌いの幼なじみはまるで無視なのによくやるわ。
そう、女嫌いの幼なじみは女子なんてまるで無視なのだ。
“ヒロイン”以外は。
「おはようございます。赤羽君。」
かわいらしい声が響く。振り返ると声の通りに超かわいい美少女が立っていた。
妹の話だと、平凡な女の子らしいけどそこはまあ、お約束ってやつだ。
そして、このヒロイン、性格も割といいのだ。
「篠山君、おはよう。」
ほら、この通り幼なじみといっしょにいると、ほぼ完璧にスルーされる俺にもちゃんとあいさつしてくれる。
「おー、おはよう。桜宮。」
「きょ、今日も良かったら生徒会の仕事手伝うから。」
幼なじみといるからか、真っ赤になりながら言ってくる。
実は俺も生徒会だったりする。
役職は庶務な。ご想像の通りに幼なじみに引き込まれましたよ。ええ。
テンプレ通り攻略対象者は生徒会役員なので、必然的にヒロインとも関わりがあるって訳だ。
「ああ、おはよう。今日もお願いする。桜宮。」
幼なじみの返答で嬉しそうに微笑んでいるのがとてもかわいらしい。
幼なじみもとても微笑ましそうに見ている。
カップル間近ってところかな。
そう、俺はこのヒロインを応援している。
女嫌いの幼なじみに幸せになってほしいってのも、あるけどヒロインいい子だったんだよな。
生徒会の仕事手伝う時も、攻略対象とチャラチャラしないで本当にしっかり手伝ってくれる。
入学したばかりの頃は、勉強もそれほど出来る方ではなく、料理も下手だったが、今はしっかり勉強し俺たちと同じSクラスにいる。
料理も上手くなったようで、よく生徒会に持ってくる差し入れもとても上手い。
転生ビッチな電波少女だったら本当にマジ勘弁って感じだけど、ちゃんと努力して攻略対象者たちに近づく姿勢は立派だと思う。
そのかいあってか、一時的はあった生徒会役員のファンクラブからの嫌がらせとかも無く、認められているらしい。
ときどき、頑張ってと声をかけられているのを見かける。
本当にすごいな、と考えていると
「今日も差し入れ持ってきたから。黒糖クッキー。前、篠山君好きだって言ってたでしょ。」
桜宮が声をかけてきた。
「お、やった。サンキュー。にしても、よく覚えてたな。」
「別に、たまたまよ。生徒会みんなのやつだからね!」
「そんな、心配しなくっても一人で全部食べたりしないって。お前の料理美味しいもんな。一人で全部食べたら恨まれるわ。」
「誉めたって何もでないわよ。」
「まあ、俺で散々毒味してくれたしな、去年。」
それは、とか言いながら真っ赤になって黙り込んでしまった。
まあ、幼なじみの前で言われて恥ずかしいのは分かるが。
「ああ、そういえば、桜宮。昨日の書類のことだが…」
「あ、提出先わかりました?」
「ああ、教頭に出せばいいらしい。」
「わかりました。ありがとうございます。」
幼なじみに話しかけられ、パッと仕事モードな感じでハキハキとしゃべる。
仕事としての切り替えなのか生徒会役員としゃべる時は基本敬語だ。
切り替えがハッキリしているのはいいのだが、同級生なんだし普通にしゃべればいいものを。
三人で教室に向かっていると後ろから
「篠やん、赤っち、桜ちゃん、オッハヨー」
軽い感じの声が聞こえてきた。
振り返ると想像の通り、チャラ男が立っていた。
テンプレ生徒会チャラ男会計である。
「はよ、相変わらずチャラいな。」
「おはようございます。黄原君。」
俺と桜宮はあいさつを返す。
ちなみに、幼なじみチラッと視線向けただけでガン無視な。
もうちょっと社交性身につけろよ、未来の社長さん。
「何?赤っち無視? ひどくない?」
「そーだぞ。いくらこいつがどうでもよくても一応返事くらい返さなきゃ。」
「篠やんの方がひどい! 何!? フォローする振りして追い討ち!?」
「そうですよ。いくら朝からこのテンションでイラッとしても、返事は返してあげないとかわいそうですよ。」
「桜ちゃん! 俺、返事が返ってこなかったことより、今の状況の方がかわいそう!」
うん、やはりからかいがいのあるやつである。
桜宮も楽しそうに黄原をいじっている。
幼なじみも軽く笑いながら見ている。
まあ、見た目はチャラいがいいやつである。
桜宮とも仲がいいようで、ときどき二人でしゃべっていたり、頭をなでられたりしているのを見かける。
逆ハーではないようだが好感度は高いらしい。
「あ、そうそう、桜ちゃん。今日差し入れあったりする?」
「あります。黒糖クッキーですよ。」
「あ、なるほど、篠やんの好物。篠やん、あい…
ビターン
桜宮のカバンが黄原の顔面に直撃した。
「ごめんなさい。手が滑りました。」
ニコニコ笑ってるけど逆に怖いな。
幼なじみは幼なじみで
「余計なこと言おうとするからだろう。阿呆。」
とか言って呆れている。
黄原もすまなさそうにごめんと謝っている。
いきなりの理不尽に見えたのは俺だけらしい。何だろう、攻略対象者とヒロインでわかりあっている感じなのだろうか。
俺の視線に気づいた桜宮が何でもないよ、と笑ってごまかして、四人で教室に向かった。
ちなみに、二年生生徒会役員はチャラ男含めて全員Sクラスである。
「よー、おはよう。宿題やったか、おめえら。」
はい、出ました。
定番系ホスト教師。ウチのクラスの担任&生徒会顧問。
見た目、つーか顔がホストっぽいけど中身は普通のいい先生である。
授業わかりやすいしな。態度はあれだが。
「で、篠山と桜宮、書類取ってきてくれ。」
「…せんせー、朝からいきなり人をこき使うのやめてくれませんかね。」
そして、人使いが荒い。
ヒロインにやたらと用事を頼むのは別にいいんだ。
イベントの場合多いしな。
ただ…!!
俺を巻き込むな!!
毎回、生徒会役員や顧問とイベント起きそうになった時、さりげなく逃げるの大変なんだぞ…。
「…はい!! わかりました、紫田先生! 行こっか、篠山君!」
桜宮はなぜだか非常に嬉しそうだ。
担任に声かけられて嬉しいのだろうか。
まあ、最終的に一人をちゃんと選ぶんだったら誰の好感度上げようと構わないがな。
ただ、我が幼なじみに頑張れと心の中で声援を送っておこう。
ところで、周りの人が担任にキラキラした視線を送っているのはなんでだろう。
幼なじみでさえ親指を立てている。
…担任にまさかのモテ期か。
「おー、頼んだわ。」
担任はなぜかニヤニヤしている。
無性に腹立ったので、軽くチョップお見舞いしてから急いで桜宮と言われた書類を取りに行く。
帰って来たら始業ギリギリだった。あのやろう。
昼休みの時間になり、幼なじみたちといっしょに屋上に向かう。
当然のごとくヒロインである桜宮もいっしょだ。
ヒロインと攻略対象者たちとモブ…。
うん、邪魔なのでタイミング見計らって逃げ出そう。
屋上のドアを開けると見知った顔が寝転がっていた。
「黒瀬、お前、またサボったのか。」
俺の声に反応して起き上がったのは不良系男子。
キラキラしい顔でもちろん攻略対象者である。
そして、本来だったら生徒会庶務だった人物。
「なんだ、篠山たちか。今何時くらい?」
「もう、昼休みだからここにいるんだろうが。」
「黒っち、相っ変わらずだね~。」
「ちゃんと授業くらい出ろ。時々、正彦がお前の捜索に駆り出されている。」
「テストは五番以内入ってるだろーが。」
「というか、失礼ですけど、どうして黒瀬君いつもそんな感じなのに成績いいんですか。」
桜宮がずるいです、と顔を軽く膨れさせている。
その愛らしい姿に攻略対象者たちが軽く見とれている。
…うん、俺帰っていいですか。
そういえば
「黒瀬、昼持ってるか。」
「持ってないけど?」
「体に悪いからちゃんと食え。間食用にパン持ってるからそれやるよ。」
「お、わりーな。ありがとさん。」
ふ、これで黒瀬の馬鹿に昼飯を食わせ、ヒロインと攻略対象者たちとのキャッキャウフフを邪魔せず去ることが出来る…!
「じゃー、黒瀬にパン与えてから来るから先食ってて。」
桜宮がちょっと残念そうにこちらを見ている。
まあ、黒瀬を連れて行って悪いけど、他の攻略対象者たちとの仲を深めといてください。
逆ハーにならない限り、俺はお前を応援するぞ。
屋上を出て、教室に向かっていると、黒瀬がぼそっと
「相変わらずだな。」
と呆れた感じで呟いた。
「何がだ。」
「いや、別に。
…というか、気になってたんだけどよく俺みたいなの構うよな、お前。」
「んー、見た目は不良っぽくても中身は普通だろーが、お前。それに、俺の空手の貴重な練習相手だしな。」
ニカッと笑って返してやると鼻白んだように、瞬いたあと、苦笑した。
見た目はあれだが中身は普通の男子高校生である。
精神年齢、前世を足してとうに三十路を超えている俺に何を恐がれというのか。
「そういえば、お前彼女とかいないけど、好きな子とかいねーの? 例えば、桜宮とかどう?」
話を変えるために高校生男子らしく恋バナを振ってみると、黒瀬がスッゴい微妙な顔して、
「桜宮だけは絶対ねーぞ。」
とか返してきた。おい、攻略対象者。
「え、そうなの? 可愛くていい子じゃん。」
「…まあ、男を見る目はスゲーあると思うぞ。それと、そういうこと、桜宮の前で言ってやるなよ。」
なんだか、呆れを通り越して哀れみを含んだ目で見られてる気がする。
というか、桜宮の好きなやつをなぜこいつが知っているんだろう。謎だ。
パンを与えてから急いで戻ったらヒロインたちが楽しそうに談笑していて、思わず引き返そうとしたことは余談である。
放課後、掃除当番を終えた後、急いで生徒会に向かった。
ドアを開けようとすると、内側から開けられては少し驚く。
「お久しぶりですね、篠山。」
はい、テンプレ眼鏡敬語な副会長です。
見た目はクールで腹黒そうだが、中身は普通に努力家で優秀ないいやつである。
少し病弱で授業をよく休んでしまっているのも近寄りがたい感じになってしまっているんだろうな。
よく、頑張って生徒会に来ているものである。
「久しぶり、白崎。体大丈夫か?」
「もう、4日も休みました。いい加減出てこないと仕事がたまってしまうでしょう。」
「おー、相変わらず真面目。」
「あなたも大概真面目だと思いますよ。」
「というか、ドア開けたってことはなんか用事じゃねーの?」
「いえ。ただ、こんな時間に生徒会室の前を通るのは生徒会役員だけでしょう。単なる、出迎えです。」
「あ、そっか。貴成たちは?」
「赤羽会長は黄原と桜宮さんといっしょに必要書類のコピーに行っていますよ。青木は中にいます。」
中をのぞき込むと、生徒会役員唯一の一年生、無口系書記がひたすらに作業をやっていた。
近づいてくと顔を上げる。
「よ、頑張ってんな、青木。」
「…篠山先輩。」
「ん?」
「…こんにちは。」
女の子みたいな顔で人見知りのせいで周りにからかわれ、無口になったらしいが俺らの前ではゆっくりながらも普通にしゃべる。
昔は、本当に声を聞くことがなかったからいい傾向である。
笑顔でこんにちは!と返すと、少しだけ笑った。
うん、いい感じだな。
今日の仕事をひたすらにやっているとコピー行ってたやつらが帰って来た。
すごい量である。桜宮の分が一番少ないがそれでも大変そうである。
大丈夫か、あれ。
じっと、桜宮を見てたら机に置こうと近づいて来た時に、バランス崩してこけた。
近くにいたので、咄嗟に支える。
顔を見たら真っ赤になっていた。
まあ、みんなに失敗見られて恥ずかしいよな。
「大丈夫か。足、ひねったりしてねー?」
「だ、だ、大丈夫よ。」
「お前意外とドジだよな。プリント拾うぞ。」
そう言うと真っ赤になりながら、必死にプリントを拾い始める。
周りのやつらも手伝ってくれたので意外と早く集め終わった。
にしても、あいつ、ドジだよな。
去年なんて、バレンタインチョコ、間違えて渡してきたし。
にしても、なんだか、周りの雰囲気が妙に生ぬるいのは気のせいか。
桜宮と顔があった瞬間、真っ赤になって、慌て始める。
「え、えーとね。さ、差し入れを教室置いて来ちゃったから、と、取ってくる!!」
ダッシュで駆けて行ってしまった。
校舎は走らない、が基本だぞ。
まあ、前世で校内障害物リレーをしていた俺がいえることではないが。
周りを見るとなんだか微笑ましいというか、なんか謎な感じの視線を向けられていた。
…人をジロジロ見たらいけないんだぞ。
何?って聞いてもはぐらかされたので作業を再開する。
そしたら、珍しく、青木が声をかけてきた。
「…篠山先輩。……桜宮先輩をどう思う?」
…なんだ、この質問。
あ、あれか気になる先輩が男と事故とはいえ密着とか気になるよな。
おし、ここは俺がヒロインとお前らの恋愛を応援してるってことをしっかり伝えないとな。
「普通に、可愛くていい子だと思うぞ。」
「…! …付き合いたいとかは?」
なんか、周りのやつらが手を止めてじっと話を聞いている。
そんなに気になるかヒロインに手をだしそうな男が。
「いや、ないぞ。普通に友達だ! もしお前らと付き合ったりしたら全力で応援する!」
ガラッ
桜宮が帰って来て、ドアを開けた、状況で固まっていた。
どうしたんだろう。
「…し、篠山! 済まないが書類を取ってきてくれないか!」
「へ、その書類さっきしばらくいらないって。」
「いや、篠やん、取って来て今すぐ!」
「正彦、行ってこい!」
「篠山先輩、行って来て!」
なんか、必死な生徒会役員に背中を押され部屋を出された。
なんなんだ。
**********************
気まずい雰囲気の中、生徒会室に入り無言でソファに座った。
深くうつむいて、「あははははは」と乾いた笑い声をもらす。
なんか、周りの人たちドン引きしているが今だけはちょっと許してほしい。
私の名前は桜宮 桃。
突然ですが、前世の記憶を持っています。
そして、この世界は私がヒロインの乙女ゲームなんです。
記憶が戻ったのは、この学校に入学して生徒会役員を見たとき。
このゲームは主人公が二年生の時、トラブルに巻き込まれ、生徒会役員と接点を持ち、そして恋愛に発展していくというストーリー。
前世、はまりまくってキモイほどやりまくったから全て覚えている。
思い出した時は、思わず心の中で喜びを叫びましたよ。
だって、記憶チート! 逆ハー可能ですよ!
一年生の時から近づいて仲を深めときたいなと、思って未来の生徒会長である赤羽貴成に近づいて“篠山正彦”に出会いました。
初めは設定にない会長の幼なじみってことで警戒してたんだよね。
逆ハー邪魔されたくないし。
向こうも向こうで幼なじみに危害くわえねーだろうなって感じで見てたし。
でも、観察を始めて意外とすごい人ってことがわかった。
成績なんかは赤羽君や黒瀬君のような天才にかすんでるけどいつもなにげに五番以内入ってるし。
体育の成績もかなりいい。
まあ、赤羽君には負けるけど。
見た目はモブのクセに目はスッゴいキラキラしてて、毎日楽しそうで。
ちょっと子供っぽいって思ってたら、急に大人っぽくなって新任の先生にソツなくフォローする。
攻略対象ともなんの含みも無く近づいて、普通に友達になっちゃう。
逆ハールートのイベントぶち壊すようなことやってるのに、だんだんとそんなことどうでもよくて、篠山君を見ていたくなった。
近づいて行ってたら、調理実習で誰も食べてくれないような失敗した料理を、下手とか言いながら全部食べてくれたり、不良に絡まれたのさり気なく助けてくれたり。
優しくて、かっこよくて、いつの間にか、篠山君が誰よりも大好きになってた。
篠山君に近づきたくて、警戒する赤羽君に必死で趣味や好み聞いて、頑張って近くにいたら生徒会役員目当てと勘違いされて、ファンクラブに呼び出しくらって本当に苦労した。
篠山君と同じクラスになるために必死に勉強した。
不味い料理食べてもらわないように、頑張って料理も練習した。
途中から周りに全部バレた状態になりライバルキャラ全員に激励を送られた。
なのに…!!
なんで、本人だけ気付かないんだーーーー!!
私、結構わかりやすいよね!?
わざわざ、生徒会役員には敬語、篠山君には普通にしゃべるとか露骨だぞ!!
極めつけは去年のバレンタイン。
明らかに本命って感じのチョコを、義理って勘違いさせないためにわざわざ生徒会役員に明らかに義理チョコを渡してから渡したさ。
そしたら、
「桜宮、チョコ間違えてない?これ、本命っぽいぞ。」
なんで間違えて渡したになるんだーーー!!
思わずその場に崩れ落ちましたよ。ええ。
鈍感にも程があるでしょーーー!?
まあ、その時から生徒会役員全員から同情をくらい、協力してくれるようになったけどね…。
現実逃避を続けて、昔を思い出してたら、そろそろと生徒会役員が声かけてきた。
「えっと、その、なんか済まん。」
「…すみません、桜宮先輩。俺が余計なこと聞いたから。」
「桜宮、そろそろ現実に戻ってきましょう。」
「桜ちゃんドンマイだって、ね?」
そちらを涙目で睨んで訴える。
「まだ、告白もしてないのに、何度私はふられなきゃなんないわけ!? もう、いい加減その手の話題を篠山君にふるなってお願いしたでしょう!?」
気まずそうに全員顔を逸らす。
「いや、まさか、またタイミングが悪いとは…」
「生徒会全員のその質問からの友達発言聞いてますからね! 二度あることは五回も十回もあるんだよ!」
切れながら怒鳴りつけると、生徒会全員が気の毒な顔をした。
というか、元々篠山君の鈍感があそこまで悪化した理由はお前らだぞ。
生徒会役員に近づくためのダシに使われまくって、結果私にもそれと同じ反応だ。
ああ、涙が止まらない。
それでも、お前らのせいだ、って言えないのはこの人たち全員篠山君のこと大好きだからなんだよな…。
はぁ、とため息つきながらとってきた差し入れを出す。
「どーぞ。篠山君の分は絶対残してくださいね。」
赤羽君がほっとした感じで近づいてきてなだめるように頭をなでた。
「ああ、もちろんだ。にしても、お前料理上手くなったよな。お前の料理、結構好きだぞ。」
ガラッ
篠山君が立っていた。
ニコッと笑って、
「忘れ物!」
ピシャ
ドアが閉まった…………。
赤羽君が必死に済まん、本当に済まないと謝っているね。
生徒会役員全員がもはや完全に泣いている私を泣きやませようとしている。
寄るな! また、誤解されるだろうが!
「…絶対、絶対、恋人同士になってみせるんだからーーー!!!」
応援なんて絶対いらないわよ!
篠山君のバカ!
鈍感ってある意味一番残酷だよね!!
軽く登場人物紹介
主人公 篠山 正彦
目立たないチート。生徒会庶務。激しく鈍感
ヒロイン 桜宮 桃
元逆ハー狙いの電波ヒロイン予備軍。
篠山にアタックしてもかけらも通じない超気の毒な人。
生徒会長 赤羽 貴成
主人公の幼なじみ。ヒロインのことは応援してるが、二人が付き合ったらいっしょに遊ぶ時間が減るな、と複雑な十七歳。
副会長 白崎 優斗
病弱で授業とかにも、あまり出れず、誤解を受けやすい。主人公が何も気にせず近づいて来たおかげで最近周りとの仲も良好。主人公の幸せのため全力でヒロインを応援したい。
会計 黄原 智之
チャラ男。やはり、誤解されやすく、男友達皆無だったが、主人公のおかげで最近できた。やはり、主人公とヒロインの仲を全力応援。
書記 青木 流星
女顔で人見知りのせいでからかわれ、無口に。主人公のおかげでちょっとずつ回復中。篠山を心から尊敬。ヒロインとの仲はやはり全力応援。
生徒会顧問&二年Sクラス担任 紫田 洋介
新任の時にミスを主人公にさらっとカバーされ、主人公のことをかなり気に入ってる。将来、いっしょに酒でも飲みに行きたい。教師の立場利用してヒロインと主人公をひっつけようと模索中。
黒瀬 啓
本来なら生徒会庶務だった人。主人公とは喧嘩友達。主人公のことはかなり気に入ってる。ヒロインとの仲は積極的に取り持とうとは思わないが、付き合ったらいいなと思っている。