ポイント・オブ・ビュー 〜【組織目線】から見る組織崩壊〜(5/5)縦書き表示RDF


今まで一話完結を続けていましたが、今回は、ポルシェ事件、幽霊船事件の二つから拾っているため、二話、或いは、三話程度かかるかと思われます(^_^;)
どうか、ご了承くださいm(_ _)m
ポイント・オブ・ビュー 〜【組織目線】から見る組織崩壊〜
作:ハシルケンシロウ



5 【アーントアガサ】 《組織は潰したい。だが、あの方は見逃したい》前編


 アーントアガサは今後どう動くべきなのか、真剣に悩んでいた。組織は潰してもらいたい。だが、あの方は見逃してもらいたい。どうにもならない矛盾。
 宮野志保、工藤新一といった組織の被害者達と接していくうちに、それは次第に大きく膨れ上がる。
 そして今、彼は漸くベクトルを定めたのだ。今まで、今の今までずっと潜伏していた男の突然の動き、それは、組織にとってもあの方にとっても予想外のものだったに違いない。







 まず最初のアクション、それは、単独行動を取っているベルモットへの接触だった。もう、誰に化けているのかは察しが付いている。今までのクリスとしての彼女の動き、そして、無人の自動車事故と彼女が消えるタイミング。それを考えるともはや、一目瞭然なのである。
 悪いとは思ったが、志保には風邪をひいてもらうことにした。兎にも角にも、新出医師、否、彼に化けているベルモットに接触する口実を作らなければ始まらないのだ。
 風邪。正式名称上気道感染。感染症である以上は、必ず病源菌が存在する。それの培養に成功すれば、いつでもどこでも誰にでも、確実に風邪をひいて頂くことが出来るのだ。
 コッソリ培養していたそれを、哀の部屋に撒き散らしておく。果たして彼女は翌日から咳き込み始めた。このことによって、いつでも志保を新出医院に連れていくこととが出来る。
 だが、それで全ての策略が整った訳では無かった。なぜなら、新一が新出医師を疑っているからだ。したがって、彼の目を盗んで接触しなければならない。









 ベルモットとの最も望ましい形で接触、それは言うまでもなく、組織や新一、FBI横槍を受けずにアーントアガサとベルモットのみが会見の現場に居ることである。だが、それを望んだところでそんな贅沢は望むべくもないと言うことも覚悟はしている。せめて、組織からの横槍を阻止できる状況にもっていく事にしよう。これが今のところ自分が立て得ることの出来る最善の策であった。









 そして、策の実行。まさかここまで容態が悪化するとは思いもしなかったが、こうなってくれたほうがかえって都合がいい。急を要する状況のほうが成功率が高まってくれる。
 アーントアガサとあの方は親友だ。否、親友だった。
 彼等を別つ取っ掛かりとなったのは、言うまでもなく宮野厚司の幹部大量毒殺事件である。今彼が生きてこの世に存在していることはもはや奇跡と言える。そもそも、厚司の獲得を組織へと薦めたのは、アーントアガサなのだ。いや、それ以前に、厚司に薬の研究を手伝わせた、則ち一番始めに研究にタッチさせたのが彼だったのだ。
 アーントアガサが今生存している理由、それは言うまでもなくあの方の親友だからだ。また、彼の引き際が実に鮮やかだったことも重なった。
 彼の引きかたは、決してまっとうなものではない。気付いた時にはその場から居なくなっている、いわゆる【ドロン】とか、【フェードアウト】とか言われているものである。組織内での彼は、あの事件で毒殺されたことになっており、事の真相を知っているのはあの方だけなのだ。
 薬を平和利用することが目的であった組織が、巨悪の温床のようになってしまっている。
 自分が薬の研究をして、あの方が資金を提供する、これが組織の立ち上がっときの大まかな形だった。この組織を立ち上げた中心人物は、あの方ではなくむしろ自分だったのである。だからこそ、この諸悪の元凶を自分の手で叩き潰してしまいたいのだ。だが、巻き込んでしまったあの方は、謝罪の意味も込めてなんとか助け出したいのである。
 計画成功の鍵は、やはりどっち付かずの状態で個別に動いているベルモットだろう。彼女は、かなりの古参だ。あの方、アーントアガサ、そして、宮野夫妻に次ぐ古株である。
 だからこそ組織に対して、いや、この研究に対しての恨みが物凄いものであることであることは想像に難くない。なにせ、彼女はこの薬の最大にして最悪の作用である若返りおよび不老不死化の最初の成功例であり、被害者なのだから。
 ジンに関しても、ある意味で成功例と言えるのかもしれない。だが、彼の場合は失敗も内包していた。

 体細胞の再構築。

 彼の症例は、それに失敗し、それ以外に成功したパターンなのだ。
 彼の体は二度も体細胞の再構築にしくじっている。だからこそ、あれほど組織を存続させることにこだわりを見せ、かつては平和派だった筈が人殺しもいとわない態度を示すほど豹変してしまったのである。
何とか解毒剤を完成させなければ彼の体は間違い無く近いうちに崩壊する、つまり、黒沢陣という男として死を迎えてしまうのだ。
 解毒剤の研究は主任であった志保に対する殺害命令が当たり前に発令され、そしてそれを最も必要としているジンが陣頭指揮を取っていることからも、おそらくは志保抜きでもかなり進んでいるのだろう。
 だが、杯戸シティホテルの一件で酒蔵に入ったにも関わらずジンがパイカルに目もくれなかったことから察するに、こちらほど進んではいない事も確かなようである。なんとかジンに、解毒剤の研究が自分達側のほうがかなり進んでいること、つまり、組織を存続させる意味はもうないことを知らせたいのだが、彼はほぼ間違い無く聞く耳を持ってはくれないだろう。

 彼を遠ざけるは必然、そして止む無し。

 ジンもまた、正式な組織の被害者であったのだが、アーントアガサは彼を遠ざける策を打つことに決める。









 この策を打つには、新一の命を守るための装置が必要となる。できれば彼も遠ざけたいところなのだが、おそらくは感付くだろう。状況によっては二人の対決が有り得るかもしれないが、遅かれ早かれ二人には接触してもらうように仕向けるつもりでいたこともまた事実である。
 【組織の壊滅を狙っている】その点に関しては利害の一致している二人である。しかも、片や組織内では二番目の切者、片や平成のシャーロックだ。敵対するより共闘体制を組んだほうが遥かに有益であることに気付くまでには、然程の時間も必要としないだろう。そしてそれは、彼にとってもまた望むところなのだ。
 だが、ベルモットはこれを容認できるとしても、組織が絡むと理性がアンドロメダ星雲の遥か彼方にまですっ飛んでしまう新一の事である。根気強くベルモットの人となりを理解させていく必要があるのだ。今会わせるのは、間違い無く時期早焦なのである。

 出来れば、新一も遠ざけたい。

 これを満たすことの出来る策を打たなければならない。ジンと新一を同時に引き離すことが出来る策、そのような魔法が要求されるのだ。だが、計画がなかなかうまく運ばないのが世の理というもの。失敗したことを考えた対策も必要となってくる。そのための装置なのである。
 専門は化学系だが、理工系の知識をも豊富に持ち合わせているアーントアガサのことだ。完成までには一週間とかかるまい。

 「おい大丈夫かよ?」
 新一が心配そうに志保を覗き込んでいる。いつもなら心配していても冗談半分に冷やかすような態度で接するきらいのある彼が、本当に心配そうに声をかけているのだ。それほど明らかに志保の様子は只事ではなかった。

 動くなら、今が好機だ。

 「本当は医者に診せたほうがいいんじゃが……」
 このまま放っておくのは、絶対によくない。今日は日曜日。そういう意味でも、新出医院の名が真っ先に浮かんでくるのだ。ここで、
「そうじゃ! 新出先生に頼もうか?」
 とアーントアガサが切り出したとして、なにも不自然なことはないのである。だが、新一曰く、
「ああ……、さっき電話したけど留守だったよ……。きっと例の事件の裁判が近いから忙しいんだよ……」
 とのことだった。計画は計画通りに進まない。これは予め覚悟を決めていたことである。しかも、それに対する対策まで、万全に練ってきたつもりだった。それなのに……。


 ベルモット不在。


 まさかこんな、根底から破綻することになろうとは、予想だにしなかったのである。
「そーいや杯戸町の東都デパートの中に病院があったから、そこに行ってみるか? 確か休診は木曜だったから……」
 たちまち代替え案を新一が出してきた。これに対して志保は、いいわよ無理に行かなくてもと反対してくれる。
 正直、策士アーントアガサとしても便乗して反対したいところだったが、阿笠博士という一人の世話好き爺さんがそれを許すことは出来なかった。
「まぁとにかく早めに治すに越した事はない! 風邪は万病の元というしのォ……」
 アーントアガサが賛成派に回ったことによって、一行は東都デパートに向かうことになってしまったのである。






《それにしても、この病院はいったいなにを考えとるんじゃ?》
 デパートという不特定多数が集まる空間に病院。志保はただの風邪であるが、これが肺結核や、インフルエンザならどうなっていることやら……。それを考慮に入れた場合、絶対にあってはならない立地条件だと思うのだが。
 そんな心配をしながら進めていた交渉は、
「診察が立て込んでおりまして……」
 という病院側の都合で、二時間後ということに落ち着いた。
 これは思わぬ収穫である。新出医院に搬送出来る見込みが再浮上してきたのだ。取り敢えず予約してそのままデパートで時間を潰すという新一の策に乗っておく事にする。この段階で何か企んでいると露見することが一番よくないのだ。最近の彼は、アーントアガサに対してまでも疑いの目を向け始めているのである。かわしきるには、全てに従っておくしか無いのだ。
 卵粥が美味いと評判の店に行こうということに行き先を落ち着けて車を降りた三人の真正面に待ち受けていた一台のクラシックカー、ジンの愛車と同じポルシェ356Aを見た途端に志保が目の色を変えて周囲を窺い始めてしまう。その車のボディーカラーは緑、ジンのは黒で、明らかに別な車であるのにだ。その結果志保は、
「私パス……」
 の一言のもとに、車に戻ってそのまま引き込もってしまった。

 これによって卵粥を食いに行く理由は皆無となったが、結局テイクアウトしてこようということになり、目的地の変更は無し。
 このままダラダラと二時間ものチャンスを浪費するのはもったいないのだが、疑われているという立場上アーントアガサ主体で場を動かすわけには行かないのが辛いところだ。なんとか、自分主体で動ける状況が出来上がってくれること、アーントアガサはその時が来ることを心の底から祈っていた。

 そう、あとは、その時が来るだけで彼は新出医院に志保を搬入することが出来るのだ。

 そんな悶々とした空気のなかで、彼女等と遭遇したのだ。
本人達は頑として否定しているが傍目で見れば完璧に新一の恋人である毛利蘭、そして彼女の親友である鈴木園子、さらに、彼女等の英語の授業を担当しているネイティブアメリカン、ジョディ・サンテミリオンなる女性の三人だ。そういえば最近このジョディを何かに付けてよく見掛ける。サンテミリオン。組織とは無関係の筈のジョディなる女が酒の名であるセカンドネームを名乗り、やたらと蘭の近辺に出没しているのだ。不審だ。余りにも不審だ。

 しかもこの女が居るところには、だいたいベルモットもセットになっている。ターゲットが蘭なのか、ベルモットなのかにもよるが、もしかするとあれがいつぞや優作が言っていたインターポールに居る友人なのかもしれない。そうだとすれば是非とも接触して事情を説明したいところなのだが……、正体不明の今の段階ではまだまだその時期ではないのである。

 取り敢えず、放置。

 残念ながら、ジョディ・サンテミリオンに対しては、この姿勢を貫かざるを得ないだろう。
 樽雅亭の卵粥行列で遭遇したのは彼女等だけではなかった。運が良いのか悪いのか、この行列を目当てにテレビクルーが取材に来ていたのである。もしここで取材されてしまおうものなら、すぐにでもこのデパート自体から撤収しなければならなくなってしまう。つまり、足であるワーゲンのハンドルを握るアーントアガサに【主導権が回ってくるのだ】。

 そして、その瞬間はすぐにやって来たのである。
「ボウヤも卵粥を食べに【東都デパートに】来たのー?」
 素晴らしい。実に素晴らしい。このレポーターは、レポーターの鏡である。卵粥を食べに来たのか訊くだけで事足りる筈のレポートに、わざわざ視聴者の皆様のために、東都デパートという固有名詞まで出してくれている。
 言うまでもなく江戸川コナンの姿はなんのイレギュラーも無くフレームに収まっており、
「あ、う、うん……」
 と答える彼の姿は都のお茶の間にしっかりと届いたことだろう。それに続いた、いっぱい並んでるから止めるという言葉が、新一も事の重大さを把握したことを物語っていた。






 時節到来。これは、絶対に逃すことの許されない千載一遇の好機である。案の定新一は帰ると蘭に告げ、アーントアガサの手を無理に引っ張って行列を後にしている。

 さあ、新出医院へ!

 と意気込んだところに、アクシデント。
「うわあぁぁぁ……!」
 突然駐車場内に中年男性のものであると思われる悲鳴が轟き渡ったのである。



〈続く〉


お久しぶりです(^o^)/

今回は、ハカセです(^O^)
実は、組織を壊滅させるための一番重要な動きをとるのはハカセなのではないか、ハカセのアシストがなければコナンは組織を潰せないのではないかと考えていますo(^-^)o
ですが、彼は、あの方の筆頭被疑者であり、疑わしい点が非常に多いこともまた事実なんです(ToT)
そこでこじつけたのが、この設定。でもこのパターンが一番辻褄が合うような気がするんですよねー……(^_^;)

次回は、ポルシェ事件後半から、幽霊船事件前半までですo(^-^)o


ではでは(^o^)/













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