百花繚乱 -終章- 15
「おっきくなったわね~あんた。あたしが実家にいた頃はこんなにちっさかったのに。 あ、そうそう!女の子みたいだったから、あたしの服着せて遊んだりして」
「お、おばちゃんなに古い話してんの! あ、痛ッ」
「おばちゃんちゃうッ。おねーさんっていえ!!」
雄也の横顔を張り倒して、凜がきつい目でにらむ。となりで雄五郎はさっきから絶句したまま動かない。
雄也を睨んでいた凜が急に、あらっといって、しげしげとその顔を見た。たじろぎながら雄也が小声でたずねる。
「な、なんやのおば…いや、ねえちゃん」
「……あんた、マスカラまだとれてないわよ、ホラ」
「え、ほんまに!?」
おもわずそう口走ってしまった雄也の顔に黒い筋が降りた。
「あははは、カマかけただけだったんだけど、ほんとにそうだったんだ?おもしろーい!」
けらけら笑い出した凜に逆ぎれして雄也がわめく。
「なんやのそれ! しらん、わしはなんもしらんで!」
「あらあら、じゃ、前に撮ったあんたが女の子になった写真、本家におくっちゃおっかな?」
「きたないで、おばちゃん! うぉッ」
凜がすばやくかがんで放った拳が腹に埋まり、雄也がうめく。
「今度おばちゃんっていったら血が出るまで殴るわよ」
そういって自分を見下ろす凜の冷たい目を見た雄也が、あっと何かに気づいた顔つきになると、指差していった。
「あ、わかったで!あんたも紅椿とグルやろ?ほんでわしをはめよおもて、こんなわけのわからん絵図かいたんや。ひきょうやであんた!」
「うっさい、このガキ!そんなつまんない仕掛けつくるほどあたしは暇じゃない。偶然よ、全部ぐーぜん」
ぷいっと横を向いて凜はそういったが、すぐまた雄也の方に向き直ると、今度は真剣な顔つきになって低い声を出した。
「とにかく。あんたが描いたセコい絵図は全部お見通しなの。だから、ここは引いてちょうだい。できないってんのならあたしも本気でいくよ。どうする?」
凜の本気。考えただけで雄也の額に冷や汗が吹き出てくる。
実家である本家直系の組と彼女は絶縁しているとはいえ、親子なのだ。
いざとなるとどんな無茶でも押し通してしまう凜が実家を動かし、自分が紅椿に仕掛けたことを本部で暴露されてはまずかった。
無言のにらみ合いの末、がくりと首を垂れたのは雄也の方だった。