百花繚乱 -終章- 12
薙ぎ、払い、飛ばす。
凜花が小束を使うたびに鬼小島の男たちは倒れるが、刃を当てない攻撃にまたすぐに立ち上がって向かってくる。
『やっぱり峰打ちじゃおさえきれない』
闘いながら凜花がじれた時、身体の奥にあの熱い火が灯った。
一つになれた。そのことで消えたとおもっていた、血を求める危険な疼きを今また感じて、凜花は脂汗を流しながらうめいた。
『おねがい!いまは出ないでっ』
そう願いながら必死で抑え込もうとするが、一度灯った火は恐ろしい勢いで理性を焼き、身体を支配しようとする。
こいつらは最悪の敵だ。だから殺してもかまわない、刺してもだいじょうぶ……
さぁ、やろうよ!そしてきもちよくなろう、あの時みたいに……
そう甘い疼きが語りかけ、凜花はもうエクスタシーを求める気分に耐えきれなくなった。
外に向けていた刃を、手が自然と撫で斬るために内に返しはじめる。
『もうダメ!』
あきらめ、目を閉じてしまった時、シンの声が頭の中でスパークした。
「凜花さん、ダメだ! それだけはやっちゃいけない!!」
はっと凜花が我にかえる。
その瞬間、動きを止めていた凜花を見逃さず、後ろにいた男がツインテールをつかんだ。
そして引き寄せようとする。
『ウィッグがとれたら正体がバレる!』
凜花は身体を縮めて、その恐怖の瞬間を想像した。
もうダメだ、そう観念した刹那、頭の上を風が駆け抜けた。
「うおぉぉッ!?」
黒い尻尾をつかんでいた手が離れ、男が吠えながら顔をおおって崩れ落ちる。
同時に飛んできて男を倒した木刀が、乾いた音を立てて路上に転がった。飛んできた先を追った凜花の目が、腰にしがみついて止めようする男を引きずりながら、自分に向かってくる者の姿をとらえる。
「シン……」
目を見開きつぶやく凜花に向かってシンが叫ぶ。
「凜花さんッ!」
『こたえなきゃ……あの時いってくれたシンになにかいわなくっちゃ』
けれども今、シンに答える言葉などもってはいない。
生死を問われるのと同じ苦悩に陥った時、しがみついた男を引き剥がし、シンが叫ぶ。
「好きだ! 兄貴も凜花さんもッ」
その言葉に、凜花の身体が撃たれたように震える。
そんな彼女をシンの声が包み込む。