百花繚乱 -終章- 11
しばらくして、地響きと共にダンプカーがこっちに向かってくるのが二人の目に入った。
尾形がほがらかな声で、砂塵を巻き上げながら突っ込んでくる大きな車体を指差す。
「お嬢、きましたよ、ほら」
「ち、ちょっと!きましたよじゃなくって、あれダンプじゃないかッ。どーやって止めんのよ、あんなの!」
「ははは、さすが極道の本場の大阪、やることが派手ですね」
「笑ってないでどうすんのよ、これ!?」
みるみるうちに近づいてくるダンプを差し、火女がくってかかった時、尾形の右手がいつも着ている黒ベストの後ろへとまわされ、背中に隠してあったホルスターから銃を抜き出した。
そして流れる動作でまっすぐに片手で構えると、ためらいなくトリガーを引き絞った。
普通の銃声ではない、乾いた音がかすかに二度鳴ったのが火女の耳に聞こえる。
前からくるダンプのフロントガラス一面に白いヒビがはいり、片輪を撃ち抜かれて車体が大きくそれたかとおもうと、勢いよく横転した。
細いガンスモークをあげている、銃身が短く不格好な拳銃を顔の前にもっくると、尾形は目を細め笑った。
「さすが旧KGBが暗殺用に開発した無音銃PPS……音がしません」
「あんたまだガンマニアだったの?そんな物騒なもんどっから手に入れてくんのよ、まったく!」呆れてそういった火女に、尾形の楽しげな声が返ってくる。
「ほらお嬢。あいつらまだやる気ですよ。こっちに向かってきます」
ダンプの荷台から跳ね飛ばされたというのに、もう何人かがふらつきながらも立ち上がり、こちらに歩きはじめていた。
それを見た火女の瞳が、その名どおり炎のように赤く燃え上がる。
着ていたコートを脱ぎ捨て、灘組の護り刀だった小鉄の鞘を払うと、大きく斜めに振って叫んだ。
「惚れた男の花道なんだッ。 ここから先は通さない!!」