百花繚乱 -終章- 10
春山たちチームの暴走で車が動かなくなった道をあきらめ、鬼小島の別動隊を後ろに乗せたダンプカーは、駅前への近道になる中央公園の中を爆走していた。
車両通行止めの看板を跳ね飛ばし、駐車された自転車をなぎ倒しながら、ダンプは公園の南出口、駅の方へと轟音を立てて走る。
その南出口の前に立ち、火女は赤茶けた髪をかき回しながらボヤいた。
「はァ…… 振られたのもキツいけど、負けた相手が男でしかも紅椿の二代目だなんて、そんなの普通ありえないっての! しかもあたし、まだこんなおせっかいやいてるし…… これじゃまるで残念なオンナだよ」
そういって火女が舌打ちした音に、どことなく無機質な笑い声が重なる。
「ははは、お嬢は男運が悪いですからね」
となりに立つマスター、いや元灘組若頭の尾形が楽しげに笑ったのを、火女が横目で睨んだ。その視線を軽く受け流すと、尾形はちらっと火女を見た。
「これであきらめるんですか?」
聞いた火女が苦い顔で目をそらした。
灘組がなくなってしまってからもずっと彼女を見守ってきた尾形の眼は、自分の娘の心を推し量る、そんなあたたかな色をしていた。
尾形の視線に耐え切れなくなった火女が、そっぽを向いたまま髪をかきあけ、恥ずかしそうな声でこたえた。
「いいや。意外とあたしはしつこいんだ、あきらめないよ。それにツケにしてあるから取りにいかなきゃ」
火女のそっけない言い方を尾形は笑うとまた前を見た。火女も前を向くと、髪をポニーテールにくくりつけてから右手を尾形に差し出す。
「あたしの刀」
はいとこたえた尾形が、女の手には不似合いな、武骨な黒鞘の刀を手渡した。