百花繚乱 -終章- 8
鬼小島組の男たちが集まり、遠巻きにステージをかこむ。その後ろにボディガードを連れた雄也が姿を見せる。
「やったれ」
雄也の声に、ボディガードの一人が肩にかけていたゴルフバッグを路上に投げ出す。男たちはその中から木刀やバットなどを取り出して手にすると、次々とギャラリーを押しのけながらステージを目指して進み出す。
突然あらわれた物騒な連中を見て、みんながさっと身体を避け出した。
一人の若者が男に突き飛ばされて倒れ、起き上がろうと顔を上げて、「あっ」と短くさけんだ。
それを見て、鬼小島の男たちが怪訝な顔で、おどろいて固まった若者の視線の先を追って、ギャラリーの輪の外に目を向ける。
雄也の視界に、鮮やかな緋色の物体が飛び込んできた。
次に夕闇に栄える、燃えさかる炎に似た長襦袢を頭からかぶり、全身を隠した人物が、ゆっくりとこちらに向かってくるのがわかった。
合わさった襦袢の隙間からこぼれ見えるのは、闇を切り裂く輝きを放つ、ヴァージンスノーの白いレース地。
『なんじゃい、ありゃ……オンナか!?』
同じ疑問を頭に浮かべ、首を傾げる鬼小島の男たちの目の前までその女はやってくると、片手を襦袢の襟にかけた。
「あ、あれ!」
異変に気づいた綾乃がギャラリーをかき分け、外に出ようとしながら言った声に玲がすばやく反応して、そこにスポットライトを当てる。
光を受けてますます冴える緋色の中からのぞく眼を見た玲が、あっとさけんだ。
「リン…」
その言葉が終わらぬうちに、凜花がかぶっていた襦袢を滑り落とし、空に投げた。
羽ばたく天使の動きで、緋色が夜空を舞う下、純白の衣装をまとった凜花が姿をあらわす。
「う、ウェディングドレス!!?」
薄い斜のヴェールを顔前にたらし、足首まで覆い隠す豪奢なドレスを見た牛島が、ハンドルから手をはなしてのけぞる。
「まさかのツインテール!」
サイドで留められ、夜風になびく漆黒の二本の尻尾に、真紀がうっと息をのむ。
「銀のティアラ……」
凜花の頭上でライトの光を反射する小さな冠を指差し、唖然として玲がつぶやく。
「洋ちゃん、かわいいっ!!」
感極まって、綾乃が手を握り併せ、甲高い声をあげる。
「な、なんと可憐な!」ギャラリーの輪の外まできて、ちょうど真横から凜花を見てしまった雄五郎が、耐え切れぬ風に熱くそう漏らしてしまう。それをきいた凜が「え、そういう趣味?」と、眉をひそめて老極道を見た。