百花繚乱 -終章- 6
「はじまったみたいだね」
ちょうど駅前を見おろす歩道橋の上に立ち、凜が両腕を胸前で組んでいった。
「姉さん、いったいなんなんですか、これは?」
そばに立っていた雄五郎が、白絹地を鶴と菖蒲で彩った小袖姿の彼女に問いかけたが、こたえはない。
前を見おろしたまま、凜は微笑んでいたが、やがてステージがある方へとゆっくりと歩き出した。
「若ッ、やらかしよりましたで、あいつら。場所は市駅前です!」
「よっしゃ!近所に何人おる?」
「近いのは十人ですわ」「とりあえずそいつはいかせて、つぶしたれ。ほかの兵隊は?」
「三十人はあつめて待機させとりまッ」
「それもすぐ出せ。わしもいまからいく」
相手のこたえを聞かずに携帯をとじると、雄也はアーケード西口の車道に止めてあったシーマから外に出た。おそろしく目つきの悪い男が四人、その後ろに付く。
「いくで」
雄也の言葉に男たちが一斉に、はいと低い声でさけんだ。
警察に路上ライブの通報が入ったのは開始後すぐだった。
暑からパトカー三台が、けたたましいサイレンとタイヤが鳴く音をたて、飛び出していく。
が、数分もたたないうちに、暑に無線連絡が入る。
「こちら交機PC。すごい数のマル走が出て、原着できません!」
署員が連絡を聞いた途端、外からすさまじい爆音が聞こえ出した。
皆があわてて窓に駆け寄り外を見ると、化け物のようなバイクや、原型がわからなくまで改造した車が、大胆にも正門の前を封鎖してアクセルをふかしていた。
集まっている誰もが、今この瞬間が一世一代の晴れ舞台とでもいいたいのか、わけのわからないド派手な刺繍をびっしり入れた服を着て、覆面もせずにノーメイクでわめいている。