百花繚乱 -終章- 5
白かったトレーラーのボディが薄皮がむけるように剥がれ落ち、ふたりが後ろに駆け終えた時、さっきとはまったくちがう車体があらわれた。
REIRA
蛍光色の流れる書体でそう書かれた文字の下、星空をバックにしたレイラの顔がでかでかと描かれたトレーラーを見て、周りを行く人と車が動きを止める。
一瞬でツアーに使うラッピングトレーラーと化した車を唖然と見ている人々の前で、その車体が縦に割れだし、側面が芝居の幕のように上にあがりはじめる。
その中からあらわれたステージと、マイクを握って中央に立つ人物を見て、みんなが息をのんだ。
カッとステージ上に取り付けられたライトが一斉にまばゆく輝き、街をおおった青紫の黄昏を追い払う。
歩道で見ていた若者がステージを指差してさけんだ。
「あ、本物のレイラだ!!」
その声で止まっていた人々が動き出し、わっとトレーラーのまわりに集まってきた。
レイラは群集を一度見回したあと、上を見上げて祈るようにキツく目を閉じた。
が、すぐに大きく瞼をひらくと、後ろのバンドを振り返った。メンバーの目を見て、また前を向いた。
カッカッカッ
ドラムが乾いたカウントを刻んだ後、激しいビートが大音量でスピーカーから流れ出す。
なんの前触れも無く、ライブが始まった。