百花繚乱 -終章- 4
週末。 その日、よく晴れた日差しに誘われて、たくさんの人が街を行き交っていた。
夕方になってもその数は減らず、様々な者たちをまじえて逆に溢れはじめ、街はいま一番活気づきだしている。
街をにぎやかにしているのは何も人ばかりではなく、繁華街を取り巻くここ環状線には車が行き交い、混雑していた。
その車の海の中に、一台の大型トレーラーがいた。
白一色に塗られたボディはまるで鴨の群れに紛れ込んだ白鳥に見え、道を行く車や人の中には、おやっと違和感を覚える者もいたが、それも一時のこと。
会社名もなにも書かれていないそのトレーラーは、渋滞した環状線をゆっくりと進んでゆく。
アーケード北口を通り過ぎ、右手に中央公園の森を見ながら、つきあたりを左折する。
やがて太陽がビルのあいだに沈み、夜に変わる寸前の色、青紫が街を染め上げる頃。かがやき出した色とりどりのネオンサインを白い車体に映しながら、トレーラーは私駅前までやってきた。
タクシーと一般車しかいない通りに浮かぶその巨体はあきらかに場違いで、歩道を歩く人の目を引きはじめた。
人々からの視線を無視するかのように、トレーラーは右にウインカーをつけると、傲然と駅のロータリーに乗り入れた。
長距離バスが止まるレーンにトレーラーは滑り込むと止まった。
道をはさんだ向かいに止まり、客待ちしていたタクシーの乗務員がシートから身体を起こし、なんだ?といった顔で、横付けにされた車体を見上げた。
やがてトレーラーのナビシートから少女がふたり降りてきて、白鯨をおもわせる横長いボディのすぐそばに立った。
そしてふたりのうち、デニムのスカートを履いた少女が、運転席のすぐ後ろにある小さな梯子を登りだした。
タクシー乗務員は道に残ったメイド服の少女に気をとられていたが、梯子を上がった少女がトレーラーの屋根にすくっと立ち、腰に手を当てて周りを見回したのをみて、さすがにおかしいと感じて、仁王立ちしている彼女の顔に目を向ける。
その視線に気づいたようにデニムの少女はニヤリと笑うと、屋根からボディに飛び移り、かがんで端に手をかけた。それが合図なのか、メイド少女も彼女のすぐ下にいくと、同じようにボディの端に手をかける。
周りから注目されたのを確認して、ふたりは一斉に後ろへと走った。