雄也 -接触- 4
玲から話を聞いた洋一はあせりながら考えた。
----- こんな時、シンがいてくれたら・・・・・・
そんならちもないこと思っている洋一の肩をつかんで真紀が揺さぶる。
「牛島さんどうかしたんですか? つかまっちゃったの?」
ずれていた頭のカチューシャを直してやりながら「大丈夫だ」と言い聞かせると、洋一は覚悟を決めて雄五郎の番号を呼び出してコールした。
「はい、真渦です」
「雄五郎。なにも言わねえで聞いてくれ。 鬼小島の奴を探して欲しい。土地勘もないし場所も知らないだろうから、車で移動してるとおもう。黒のシーマだ。頼む」
「・・・・・・わかりました。今夜中に探し出します」
「見つけても手を出すなよ。あそこと事を構えるわけにはいかねえ。相手の思うツボだからな。わかったら俺にだけ知らせてくれ」
「わかりました。すぐ手配します」
ちゃんと理由を言わなければ動いてくれない。そうおもっていた雄五郎があっさりと承諾したのが気に掛かったが、すぐに洋一は真紀をうながしてジャガーに乗り込むと荒々しくスタートさせた。
「ど、どこいくんですか?」
広がったスカートを押え、のけぞりながら助手席のベルトを締めて真紀がたずねるのに、甲高い声で笑ってこたえる。
「相手はヤクザよ。 このままの姿じゃ前に出られないでしょ? ・・・・・・となると後はアレよ」
あっという顔をした真紀に向かって、凛花はチャームなウィンクを投げた。
おそらく雄五郎は組を総動員したのだろう。夜更けを待たず、鬼小島組の車は見つかった。
「先方の二代目が泊まっているホテルの駐車場にありました」
「すまんな、助かった」
「いえ。見張りもつけてますが動きはないようです」
「わかった。監視ははずしてくれ」
はい、と雄五郎はこたえると、後は何も言わずに電話を切った。
頼れる凛はいない。 そして絶大な信頼をおけるシンも。
----- 一人でやるしかない
いつになく真剣なものが凛花の瞳に宿る。
「真紀。あんた車の運転できる?」
「あ、はい。いちおう免許は持ってますけど・・・・・・」
尻すぼみに声を小さくさせる真紀の目を見つめると凛花はいった。
「最悪でもウッシーは逃がす。 その時、あんたに連れて逃げてほしいの。・・・・・・できる?」
きっと断られる。そう思っていた凛花に躊躇なく真紀はこたえた。
「やります」
「大丈夫? ヤバくならない保証はないのよ」
「・・・・・・でもやります。 僕だけチームでまだ何もしてない。だから・・・・・・」
真紀は自分の熱っぽい口調を裏切って、顔がこわばり血の気が引いているのを感じた。
自分でも断るべきだとわかっている。でもここはどうしても引きたくない、そう思った。
「それに僕、凛花さん信用してますから。あなたはきっとなんとかしてくれる。僕を助けてくれた時みたいに、きっと牛島さんを助けて戻ってくるって信じてますから。 だから二人が戻るまで待ってます」
きっと綾乃がこの場にいたなら、押し倒して唇を奪ったであろう台詞だった。
頼りないなりに手伝おうとする真紀の心を受け取って、凛花は小さく「ありがと」とつぶやいた。
「ウッシーがいるとこまではあたしが運転するから、そっから先は指示通りに動いて」
「わかりました!」
数十分後。着替えとメイクを終えた凛花と真紀------二人の女装子は、ホテルに向けて出発した。
ハンドルをあやつりながら凛花は考える。
雄五郎の報告によると、相手の人数は十人は下らない。
まだ何人かは街に散らばりレイラを探しているので、鬼小島の連中すべてを相手にするわけではないのが救いだが、それでもホテルの部屋に詰めているのは、二人や三人といった人数ではないだろう。
そこに一人で乗り込み、相手を押えながら牛島を確保して脱出するなどというのは映画の中だけにある話で、いくら暴力のプロの現役ヤクザだといってもまず不可能だ。
どんなに考えても、凛花の頭は同じところに行き着いてしまう。
----- 使えるか? 桜花乱舞・・・・・・
まばたきの間に多数を制圧する秘技。
あれからも毎夜かかさず修練しているが、いまだに凛のように十本はおろか六本の小柄さえうまく操れないでいる。
『だがやるしかない』
両腕に仕込んだ小柄の重みを確かめながら、凛花はきつく口元を結んで夜の街をジャガーで駆けた。