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雄也 -接触- 3


トレーラーを走らせていた牛島は、注意して見ていたサイドミラーの中に、自分をつけるシーマを見つけた。

現在地はちょうど繁華街の手前のT字路。左に折れれば大学へ、右に行けばそのままぐるりと中心地を回ってまたここに戻ってくる環状線だ。

牛島は大きく右にハンドルを切った。 そしてケータイを取り出すと玲にコールする。

もう隠れ家に到着していた玲がワンコールで出た。彼女が何か言う前に先にしゃべりだす。


「つけられてる。だからこのまま大学にはいけねえ。 あの人に・・・・・・凛花さんに伝えてくれねえか? 車はアーケードの北と南の間の道で乗り捨てる。だからなんとかしてそれ拾ってくれって」

「待ってよっ。 どういう意味よそれ!」

「くわしく話してるヒマねえんだ。もうすぐそこについちまう。 とにかくこの車だけは必要なんだろ? あとはまかせるわ、じゃあな」

まだ何か玲がいっているのが聞こえたが、牛島はそのまま電話を切った。

そしてケータイのバッテリーをはずして窓から投げ捨て、本体を二つに折って床に投げると足で踏みつけて砕いた。


「これであいつらにさらわれても、みんなに繋がるもんはねえよな」

ちらっと粉々になったケータイの残骸を見て苦笑する。

「痛ってえだろうなー、こんな風にバラバラにされるとよ」

だが惚れた弱みだ、しかたがない。


通り過ぎる街の明かりに浮かんだ横顔に、少しのあいだ怯えが走ったが、すぐにまたいつもの不敵な面構えに戻り、ハンドルから両手を離すと、強く頬を叩いて気合をいれた。









ケータイを握って動かない玲を見て、綾乃が話しかける。

「玲ちゃんどうしたの? なんかあった?」

「ウッシーが・・・・・車が・・・・・・」

うまく事態を説明できない玲を優しくさとしながら、綾乃は牛島がいったことを聞き出すと、すぐに着物の袂から自分の携帯を取り出してどこかにかけはじめた。


「部長ですか?ご無沙汰してます。・・・・はい。いえ、急ぎでお願いしたいことがありまして・・・・・・ アーケードの北口と南口の間にトレーラーが路上駐車されてるんですが、事情があって、申し訳ありませんが何も言わずにそれ、所轄で押えてもらえませんか? はい、理由は後で私が・・・・・・ ありがとうございます!この埋め合わせは必ず。ではお願いします。失礼します」

切った携帯をまたしまうと、綾乃は普段は出さぬはっきりとした声で玲に告げる。


「トレーラーは警察に押えてもらうわ。これであいつらは手を出せない。 玲ちゃんはすぐに洋ちゃんに連絡しなさい。後はあの人にまかせるのよ。大丈夫。きっとなんとかしてくれる」

しっかりとした口調と洋一への揺るがない信頼を含んだまなざしに、玲が我に帰る。


次に綾乃は侘びを口にしようとするレイラを見て眼で押える。

『わかってる。けど今は言わないで。 そういうのは全部おわった後で・・・・・・ね?』

正確に綾乃の思いを受け取ったレイラがうつむいて唇を噛み締めた。

美貌だけでなく、こういうことをさりげなく出来るところに皆惹かれて、自然と一目置かれていることに、実は綾乃自身は気が付いていない。


----- ボーッとしてる場合じゃない!

女帝によっていつもの自分に戻った玲は、洋一に連絡した。











視界の端にアーケードの両端が見えた時、牛島はタクシーが並ぶ路肩に無理やりトレーラーを割り込ませると、外に飛び降りた。

後ろにシーマが止まり、男たちが出てくるのを見て覚悟を決める。


----- ここで暴れてポリにつかまえてもらえば、車はなんとか守れるだろ

そう考えた時、もう誰かが通報したのか、意外に早くパトカーのサイレンが聞こえてきて、にやっと笑った。


だが甘かった。

興奮していた牛島は、シーマから降りてこちらへとやってくる男たちとは別の男が、後ろから近づいてきていたのに気が付かなかった。


バチッ


小さな蒼白い火花が自分の首筋で弾け、それがスタンガンだとわかった時、あっけなく巨体が膝から崩れ落ちる。


「いや、こいつ酔っ払ってまんねや。 すんまへんな、えらい騒がしてもォて」

力の抜けた自分をすばやく支え、笑いながら周りの野次馬達にそういって連れてゆこうとする男の顔を見ようとした時、牛島の意識が落ちた。




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