表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/82

桜花乱舞 1


そして時は凛と洋一が親子対面を果たした夜に戻る。


女装ルームを勝手に占拠して、玲・真紀・綾乃たちが、レイラのシークレットライブ開催のためのミーティングが行なっていた。


そしてなぜかその輪の中に牛島の姿があった。


シンの足どりを求めて行った警察署でこの大男に出会い、いきなり泣かれてから、玲は近くの喫茶店に飛び込んで、凛花のバニー騒動に牛島が絡んでいたことを知った。

凛花が無事だったことに感涙、そして混乱している牛島を、なだめたりすかしたりしながらも、玲はこの男が持っている情報をすべて引き出した。


その上で『こいつ使えるかも』というカンが働き、牛島をチームに誘ったのだ。

ちょろっと凛花の存在をほのめかすと、イチコロであった。

洋一と出会ってから、彼女のその手のテクニックは冴えを増していた。


玲の司会の元、会議は進んでゆく。


「音響とかPA機材なんだけど・・・・・・」

「はいはーい。 大学の連れでバンドやってる子がいるから、僕がそれやります」

手をあげてこたえた真紀の今夜の姿は、なんと紅白でおめでたい巫女さんだ。

凛コレの中にもなかった衣装を、綾乃がどこからか調達してきたらしい。たぶん本職からだろう。

そのバチ当たりな女帝が、真紀の姿にとろりとした目を向けながらいう。


「あと、衣装とかはあたしが手配します。 玲ちゃん。レイラさんにどんなのがいいか聞いておいてちょうだい」

「わかった聞いとく。 ん~あと問題なのは舞台になるトレーラーよね」

うなる玲に真紀が不思議そうな顔をする。


「あれっ。それは凛花さんが用意してくれるんじゃ?」

一人だけ事情を知っている玲は口をつぐんだ。

ほぼ抜け殻に近い姿を目にしているので、今のあの男に何かをまかせるのは無理な気がしたのだ。

巫女服姿の真紀のことをジロジロと見て『どっちなんだ?』と考えていた牛島が、おっと口をあけて玲の方を向いた。


「トレーラーなら用意できるぜ。ただ舞台とかに改造ってのはムリだけどよ」

三人に一斉に視線を向けられて、特に綾乃の妖艶な目に牛島がしどろもどろになる。


「あ、いや、仕事で大型運転してっから、知り合いとかもいるんでなんとかできるかと・・・・・」

尻すぼみに声が小さくなり、うつむきながらチラッと横目で綾乃の顔を盗むようにうかがう。


どうもこの男、お姉系の美人に弱いらしい。

まあ男なら誰でも振り返ってしまうのが綾乃なので、しかたがないことだったが。

そこで唯一、彼女の美人度をよく理解していない真紀が声をあげた。


「とりあえず話しすすめるために、牛島さんにトレーラーおさえてもらうのがいいんじゃ?」

そうね、と同時に玲と綾乃がうなづき目を合わせたが、お互いすぐに横を向いてしまう。


「でもなんで凛花さん今夜いないんですか?」

真紀がなにげなく口にした疑問に、玲が目を泳がせたのを綾乃が見咎めた。


「なに玲ちゃん。 洋ちゃんになにかあったの?」

「洋ちゃん?」

凛花の名が出て、瞳を輝かせて反応した牛島が、つづく『洋ちゃん』という単語を聞いて、片目をゆがめてたずねてきた。

あっという顔になった玲を、三人がじーっと見つめる。

しかたなく玲は牛島の疑問からこたえだした。


「あ~えっとね。がっかりしないで聞いてよ。 凛花はね、男なの」

なんとも言えない奇怪な表情で動きを止めてしまった牛島を、真紀と綾乃はおもしろそうに見た。

タイムストップな大男はほっておいて、残る二人に話し出す。


「んとね。 凛花、洋ちゃんはちょっといろいろあって・・・・・ 今はそっとしておいてあげた方がいいっていうか、近寄らない方がいいっていうか・・・・・・」

歯切れの悪い玲の口調を聞いて、ああ、っと綾乃はすっかり忘れていた彫玄のことを思い出した。


「ひょっとして、入れ墨のことかしら?」

「イレズミ!?」

意外な単語を聞いて、オウム返しにたずねかえす玲に、綾乃は真紀と調べたことを話した。


「・・・・・・でね。洋ちゃんが無理やり入れ墨させられるんじゃないかって、ちらっと思ったのあたし」

普通に物騒なことをいった綾乃に、玲と真紀がぎょっとする。


「ちょっと! 「ちらっと思ったのあたし」じゃないでしょうがっ。 それあいつにいってあんの?」

あわててそういった後、桜吹雪の入れ墨を見せつけながら「おうおう、てめえら!」と啖呵を切る、チョンマゲ姿の洋一を想像してしまって、玲は頭を強く振ってそれを追い出した。


「ううん。 でも大丈夫よ。シンちゃんついてるから」

「そのシンちゃんが行方不明なのよ!」

今度は綾乃が、えっとおどろいた。


真紀はさっきからびっくりしっぱなしで、声もなくキョロキョロと二人に交互に顔を向けている。

牛島は、ついに魂が冥界へと旅立ったらしく、微動だにしない石像と化していた。

しかたなく玲は、シンが兄であることや、洋一の異変を二人に話した。


「ちょっとまずいんじゃないですか、それって」

心配げな表情で真紀がつぶやく。

「雄さんがいるから大丈夫だとはおもうけど・・・・・・」

綾乃も綺麗な眉をひそめて、自信なげな顔だ。

まさかその雄さんが先頭切って刀を振り回して洋一を追い掛け回したとは、夢にもおもっていない。

ほっと一つため息を吐くと、伏し目がちに綾乃は言い出した。


「まあ洋ちゃんって前から思ってたんだけど、ちょっと中性的なところがあるから、あたしは女装とかそんなことになるんじゃないかって気がしてたのよねぇ」

「ちょっと待った! それってあいつが兄ちゃんのこと好きって意味?」


玲の目がギラギラと不穏な光りを帯びる。

冗談じゃない、そんなことは許せなかった。

実はシンの方がそうかもしれない、などということは頭から飛んでしまっていた。

興奮する玲を綾乃は大人の笑みで抑えると、自分の意見を語りはじめた。


「うん、あたしもそれはないとおもうわ。 だって洋ちゃんはいいかげんだから、そんな真剣できりきりした恋愛するわけないもの。 もしあるとしたら、それはシンちゃんも洋ちゃんのことが好きだった場合だけよ」


綾乃の言葉を聞いて、玲はますます不機嫌になる。


------ その場合ってのがもうおきてんのよ!

そう叫びたかったが、それだけはできなかった。

力が抜けた拍子に、喫茶店で牛島から聞いたことが頭に浮かんでしまう。


シンが凛花を抱擁の上にいっしょに逃亡したことを聞いた時は、うっと息を詰まらせてしまったが、話を聞いた後、洋一に問いただした時、なんであんな態度をとっていたか、そのわけがわかった。


-----  やっぱりそんなことがあったんだ。


事実がわかってつながっても、気分は晴れず、むしろ重くなった。

自分が見た兄の変化を話した時の、洋一の表情を思い出す。


----- あの時のあいつは、嫌がってるようには見えなかった。  ただとまどってるってかんじだった・・・・・・


どんどん自分が想像したくない方向へと兄と洋一は進んでいっている。 そんな風に思えてならなかった。


めずらしく内面へと落ちていた玲は、妙にキレ気味の妖しい声が聞こえて、はっと顔をあげた。


「まァあたしもバイみたいなものだから、人のこと言えないけどねェ。 おっほほほほほほ!」

「え!?」

さらっとものすごいことを言って笑う綾乃に、玲と真紀の食い入るような視線が刺さる。


『うわぁ・・・・やっぱそうだったんだ・・・・・・』

真紀が口を半開きにして、半ば呆然として思う。


『こ、この人。 実は一番のヘンタイだったんだ!』

夜中のキッチンで、ゴキブリを見つけてしまった気分になった玲が、目と口をおもいっきり横に引っ張ってそう考える。


そんな二人の視線など気にも留めず、またカミングアウトした風でもなく、『当然よ』とでもいったけろりとした顔で、綾乃は真紀の手をとった。

さっと引こうとしたが指を絡められてしまい、どうすることもできず、真紀はそのまま撫でられてしまう。

そんな二人に、さっきと同じ表情のまま、玲がたずねた。


「・・・・・・まさか綾乃さん。 真紀くんともう?」

「おほほ。さてどうかしらァ」

低いオクターブでいう玲に向かって、ちがうちがうと真紀が手を横に振る。

まるでそのポジションは、洋一と同じいじられ役だった。


と、その時、牛島が突如覚醒した。

ふんむぅと、ヒゲが揺れるほど強く鼻息を噴出すと、叫んだ。


「男でもいい!」


「わぁ~ここにも一人ヘンなのいるーっ!」

玲と真紀の合唱が女装ルームいっぱいに響いた。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ