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イレギュラーズ


またまた舞台は女装ルームへと戻る。


そこでは、着うたによって争いを防ぐという荒業を披露した玲が、あらぬ方向に燃える視線を投げながら演説をおこなっていた。


「いい?次の天女活動はすごいわよー。なんとライブの開催!」

三人の頭の上に?が浮かぶ。

綾乃にぬいぐるみのように抱えられたまま、真紀がおずおずとたずねた。


「あのぉ・・・・・・まったく意味がわかんないんですけど」

そうだそうだと残る二人もうなづく。


つい先ほどまでの争いなどけろりと忘れて、素直に話を聴き始めている洋一と綾乃を、真紀がヘンなものを見つけてしまった顔で見ている。


「えっとですねー。さっきあたしの友だちのレイラさんからテルきて・・・あ、彼女プロの歌手なんだけどね。それで・・・・・・」

「ちょっと待て!おまえ今さらっと大事なこと言わなかったか?プロの歌手ってなんだよ」


話の腰を折られた玲が、ものすごく嫌な顔をする。

だがヤクザは人の言葉尻を捉えてイチャモンをつけるのが仕事なのだ。

わからないことはそのままにしておけない。

しかしこの変わった女子高生に、そんなことは通じなかった。


「チッ、はじめは黙って聞きなさいよね!まぁいいわ。レイラさんはあたしがタウン誌の手伝い始めてすぐの頃に取材で知り合った人でね。そのときにファンになってずっと追っかけてたんだけど、一年前くらいかなぁ、プロデビューして東京にいっちゃったの。そっからは電話でたまに話すくらいだったんだけど・・・・・・すんごく歌うまくってね、マキシやアルバムでたらすぐ買って、みんなにも推してさぁ・・・・・・」

「待てコラッ!話がずれてきてっぞ。 てかレイラってあのソウルのなんとかって言われてるねーちゃん? ぐわっ!?」


おどろいて疑問をぶつけていたところに玲の蹴りが腹部にはいり、洋一は悶絶した。

どうも二度目の待ったはNGらしい。

平然とヤクザに蹴りを入れた彼女を、真紀が目を丸くして見つめている。


「聞けよ、まずはぜんぶ! そうよ、ディーバって言われてるのよ。そのレイラさんがこっちに帰って来てライブやりたいんだって」

「あらあら、でもそれっておかしいわ。だってあの子ならこの街のホールでも足りないくらいの大物じゃない。それが玲ちゃんにライブやりたいなんて、なにか事情があるんじゃない?」


綾乃にまで突っ込まれて、玲は一瞬クワッと目を剥いたが、さすがに女帝に暴力を振るうわけにもゆかず、ダルそうな口調ではなしだす。


「それをいまから言おうとしてたんです~。彼女が二ヶ月前から休養宣言してるのは知ってるわよね?病気ってことになってるけど、そうじゃないの。レイラさんほんとはロックやりたいらしいのね。こっちにいたときもロックバンドのボーカルだったの。でも彼女の声に目をつけた事務所はソウルでデビューさせた。そしてこのままその路線で売りたい。それでいざこざになって精神的にまいっちゃってダウンしたのが真相」

皆が聞き入るモードに入ったのを確認してまた語りだす。


「で、なんとか立ち直ったんだけど、まだ心は迷ってるらしいの。それで再スタートをきるためにこの街に戻って、もう一度だけロックでステージをやりたいって。でも事務所を通してそんなの実現できるわけがないから、自力で会場とか探してシークレットライブとしてやりたいんだって。それであたしのとこに連絡してきたみたい」


語り終えたあと、この部屋に不似合いな静寂が漂う。

みんなそれぞれの表情で考え込んでいる風だったが、やがてカリカリと首筋を掻きながら洋一が口を開いた。


「大体わかったけどよ。おまえ簡単に請け負ったみたいだけど、これって大ごとだぜ」

「なんでよ?あたし街の人に顔効くし、あんたもヤクザなんだからライブハウスの一つや二つ、すぐ話つけれるでしょ?」

「・・・・・・あのなぁ。それやっちまうと会場を引き受けた方が迷惑すっだろうが。絶対に事務所側から圧力かかってくっぞ。そうなっちまったらヘタすりゃ経営難だぜ?それがわかってっから、そのレイラって子も悩んでたんだろうが」


玲が言葉に詰まるのを、洋一は初めて見た。

心の中で『やった!』という快感が泡のように浮かんだが、困ってしまった顔を見てすぐに萎んでしまう。


「そりゃ俺がすごめば会場はどこでも押えれるぜ。・・・・でもそれはやりたくねぇ」

シンが聞けば「さすがです兄貴!」と、ナイアガラ瀑布のように涙するであろうセリフだ。

さっき洋一を脅したことは忘れて、玲は自分もそれはしたくないと思う。


これからも取材で御世話になるし、またいつ別の職業の者と仕事をするようになるかわからないのに、街の人に迷惑はかけられない。

妙に真剣な空気が流れ初めた時、かわいい小さな声がした。


「あのぉ・・・・・・ストリートで、ゲリラライブでやればいいんじゃ・・・・・・」

おどおどと真紀がそういった瞬間、三人の変わり者の目が一度に自分の方をむいたので、ヒッと悲鳴をあげてしまった。


「それーっ!いいアイデア! 真紀くんさっすがぁ」

「おぉ少年、頭いいなおまえ」

「すごいわ真紀ちゃん。後でご褒美あげましょうね」

綾乃に額にキスされた真紀が「あわわ」といって目を回す。

それをムッとした顔でながめる二人。


「よしっ!じゃそれでいこー!ライブのくわしい段取りはあたしがするね。で、凛花は機材の調達と場所のセッティング」

「あのぉ・・・・・・場所とかは決めないで、トレーラーかなんかあったらどこででもできて逃げやすいんじゃ」

「やっぱ真紀くん頭いいわ! じゃ凛花、そのトレーラーも用意してっ」


「ちょい待て!それってほとんど俺一人でやることになってねーか、なんか?」

「あら、あたしもお手伝いするわよ。なんといっても玲ちゃんより顔が効きますから、おほほほ」

「・・・・・・綾乃さん、あたしたちのチームに入るの?」

「あらあら、ここまで聞かせといてまだそんなこといってるの?」

またにらみ合いを始めた二人のあいだに、真紀が割ってはいる。


「とりあえずここは臨時チームってことでどうですか?  僕もレイラのファンなんです。だからできたら手助けしてあげたい。ここは一時、手を組んでもらえませんか?うぷっ!?」

話の途中で、いきなり今度は正面から胸に抱え込まれて、窒息しそうになる。


「気に入ったわこの子! わかりました。貴方の為ならこの綾乃、目をつぶって手を貸します」

「・・・・・・目をつぶるのはこっちの方だってのっ」

そっぽを向いて玲は小声でつぶやいたが、やがてあきらめたように承諾する。


「わかりました! ここにいる四人が臨時チームであることを認めます!とにかく急いだ方がいいみたいだから、各人すぐ準備に入って。あたしは今からレイラさんにこのこと伝えて話を煮詰めるね」

うなづく綾乃と真紀に微笑むと、玲はケータイを開いて電話しはじめた。


「おい!俺の話はどうなんだよ!? てか女装全然関係ねぇじゃんそれ!」

ほぼ9割方面倒な仕事を押し付けられたまま、三人に無視されて、洋一は一人ワナワナと震えるのであった。






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