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真紀 1


はじめに彼を見つけたのは玲だった。


「あれ、あの子って凛花のお仲間じゃない?」


そういわれて人気の少ないアーケード内を見回したが、ヤクザらしい男の姿は無い。。

説明が足りなかったことに気がついた玲が、言葉を付け足す。


「仕事仲間じゃなくって、女装仲間よ」

おもわずぎょっとしてあわててもう一度前を見ると、100メートルほど先を、少しうつむきかげんに後ろ手を組んでこちらに歩いてくるメイドの姿がみえた。


「あっ、あの子こないだの・・・・・」

「え、こないだのって?」

「あたしが初めて会った女装っ子」


間違いないと思った。

現在は女装のおかげで記憶力・知性ともにメルトダウンしている洋一⇒凛花だが、あの女装っ子と出会った時はまだまともだったのだ。

それにヤクザ稼業の基本は『人の顔、そして街の地理を覚える』なので、記憶は正確と思われた。


凛花=洋一にとって『運命の人』とでも言うべき彼は、二人には気がつかない様子で、ゆっくりと小柄な身体をこちらにむけて歩いてくる。


「へぇ~あれが凛花の女装癖の師匠なんだぁ」

妙に感心した風に玲がいった時、とつぜん若い男の声がアーケード中に響いた。


「あーっ、マキマキみっけ!」

その大声に、あざ笑うような他の男たちの声がかぶさる。


そして、急に前を歩いていたメイドの彼が、つんのめって石畳の上に転んだ。

その後ろから姿を見せたのは、大学生かと思われる数人の男たちだった。


顔をしかめて起き上がろうとする女装っ子の肩を、一人の男が突き飛ばしてまた転ばせた。

そいつがニヤニヤと笑って話しかける。


「マキマキまだ女装してお出かけしてんのかよ。ほんと好きだね」

口調はゆっくりとしているが、あきらかに転がっている彼をバカにしている。

どうもこの男に突き飛ばされて転んでしまったらしい。


怒っているような怯えているような表情で、横座りのままマキマキと呼ばれた彼は、自分を突き飛ばした男を見上げていたが、

「ほーんとマキマキは変態だよなぁ、毎日こんなかっこうでお散歩してるんだからよ」

その一言でうつむいてしまう。

男たちはそんな彼を取り囲んで、中腰になって肩や顔を小突き始めた。


「ちょっと、あれ・・・」

玲が言い終わるより早く、凛花が前へと走り出た。

駆け去る瞬間にその横顔を見た玲が身をこわばらせる。


初めて見る、真剣な怒りの表情。


ヤクザ顔にも驚かなかった彼女が、その表情におびえた。


恐ろしいスピードで凛花は男たちに駆け寄ると、一番そばでかがんで女装っ子を小突いていた男の身体を、ローキックで吹っ飛ばした。


「うわぁ!」

後頭部を狙った容赦の無い蹴りに、男は一声叫んで床にのびる。

もうそれにかまわず、彼女は次の男にむかっていた。


凛花の行動にあやうさを感じた玲が叫ぶ。

「凛花! やりすぎちゃダメッ!」

だがそういった時にはすでに、あと一人を残して全員石畳に転がっていた。

彼女の左手に光る物が出現したのを見て、玲が走った。


「斬り刻んであげよっか、僕?」

ひどく冷たい声が唇からすべり出て、凛花⇒洋一はおどろいた。

----- 俺はなんでこんなに怒ってるんだ!? たかがガキのじゃれあいなのに


だがそのとまどいとは裏腹に身体は勝手に動いて、顔をゆがめて逃げ出そうとした男を足払いで転がすと、咽喉にブーツをめり込ませて締め上げていた。

怯える男を見下ろしている内に、またあの熱いものが恥骨の奥に宿り、身震いするほどの快感と共に急速に成長してゆく。

だが今夜はその成長に比例して、今までに無かった、強烈な暴力への欲求が高まってくるのを感じた。


「凛花ッ、ストーップ! そこまで!」

玲が自分の目の前でそう叫んで手を広げたので、ハッと我にかえった。

ゆっくりとブーツをどけると、転がっていた男は悲鳴をあげて逃げ出した。


「もぉ、やりすぎだって! あんたが悪役になったら記事になんないじゃんっ」

ぷりぷりと玲は怒ったが、すぐに座り込んでいた女装っ子に声をかけた。


「大丈夫? なにあいつら、知り合い?」

肩に手をかけて優しくそうたずねる玲に、恥ずかしそうに彼は顔をそむけた。


「とりあえずまたあいつらきたらいけないから、送っていってあげる。さっ、立って」

手を貸して彼を立ち上がらせた玲が、凛花を見た。

彼女は呆然とした顔で、小柄をしまうのも忘れて突っ立っている。


「ちょっと凛花、どうしたの?」

その声にはっと身を震わせると、玲の方を見た。


「なんでもない・・・・・・」


だがその表情と声に、玲は凛花の異変を感じた。


鋭いこの娘にしてはうかつだったが、これが明確に出た女装時の洋一の異変だったのだが、まだ若い玲には、その異変の意味を理解することはできなかった。






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