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戦闘輪舞 -バトルロンド- 2


外に出た洋一は、店の駐車所の奥の暗がりまで歩き、フェンスにもたれかかると、ブッカーズの封を切ってグビリと一口あおった。

そして酒瓶を下に置き、バッグから煙草を取り出し火をつけた。


口から吐き出された白い煙が、漂うそばからすぐ消えてゆく。

なにやら納得がいかないといった表情をしていた。

-

---- うーん・・・・ やっぱ公園とか店はつまんないなぁ

煙草を口に運びながら洋一は考える。

そして、やはり街を歩きたい、そう思った。


洋一は、盛り場のあの猥雑な空気が好きだった。


そこにはたくさんの種類の店があり、またそれ以上に様々な人々がいる。

その二つが醸し出す妙にウキウキとした、けれどもどこか少しあやうげな香りがする、夜の街が彼は好きだった。


だが、そこへこの姿でゆくことはもうできない。


そこまで思って寂しさにうつむいた時、洋一の頭の中で魔性の声がした。

----- またお酒買ってホームレスの人たちに持っていってあげようよ。それだけやって帰ればきっと大丈夫だってっ

甘い甘い誘惑の声であった。


じんわりと快感がこみ上げてきて、洋一は自分の身体を抱いた。

もうダメだった。


しばらくそうして震えていたが、やがて店へと取って返して大量の酒とツマミを買い込むと、洋一は地下街への道を颯爽と歩き始めたのだった。









地下街に天使が舞い降りた。


ふいにやってきた美しいメイドに、そこに住む人たちはおどろいたが、彼女が前に酒とあたりめを投げ込んで消え去ったチャイナの女だと気づいた辰さんが、仲間にそう説明したので、みんな警戒をといて集まってきた。


冷たい夜風に震える人々に惜しみなくアルコールを配り、嫌がることなく輪の中に入って話を聞くメイドさんに、彼らは神性を感じた。


「こないだはありがとよ、お姉ちゃん。今夜もこんなに差し入れ持ってきてくれて」

「ねえちゃん色が白くって彫が深いけどハーフかなんかか?」

「いける口だねぇ、ほらドンドン飲んでっ」

突然はじまった深夜の宴の中、人々は口々にメイドさんに話しかけ、彼女もまたそれに笑顔でこたえた。


口数が少なく、その正体もわからないけれど、事情があってここに住む自分たちにちゃんと接してくれるメイドさんに、みな好意を抱いている様子だった。

冷たい世間の風もその周りを避けてゆくような温かい宴はずっと続くかにみえたが、終わりも突然やってきた。


「おぉ-っ!今夜はメイドさんがいるよォ」

あざけるような声が宴の輪の外でした。


声のした方を見ると、5人の若者が手にバットや木刀といった物騒な物をさげて、こちらを向いてニヤニヤと笑っていた。


先頭に立っている長い金髪の男が、手のひらに特殊警棒をピタピタと叩きつけながらいった。

「かわいいねーメイドさん。俺らといっしょにこの臭いのいじめて遊ばない?」


男たちの発する負の空気におびえて、ホームレスたちは後ずさりしながら固まってゆく。

「街のおそうじ屋さんさ、俺らは。 こうやって! 汚いのを! かたづけてさ!」

シャーッと音をたてて警棒を伸ばすと、男はゆがんだ笑い声をあげながら、ダンボールハウスを一つづつ潰してゆく。


「うわぁぁぁ!」

一人のホームレスが恐怖に耐え切れなくなり逃げ出した。

木刀を持った男がすばやく走り、地上へと続く階段に逃げたその影に斬りかかる。

鈍い音がして、悲鳴が暗い闇から響いてきた。


警棒の先をメイドの顔にむけて、金髪がいう。

「それともなに? あんたも偽善者でこいつら守る方なわけ?」

男がうつむいたメイドの顔をあげようとした時、冷えた声がした。


「・・・・臭いねぇ」

「あァ? そりゃ臭いさ、ここは」

そう答えた男をあざける高い笑い声がメイドの口から飛び出す。

そしてよく光る目で男を見据えて言った。


「いくら香水振りまいて隠しても、消せないくらいバカなガキの匂いがして臭いっていってんのさ」

彼女の押し殺した声に、男たちの笑いが止まる。


メイドはゆっくりと立ち上がった。








「ハッ!おもしろいこと言うね、おねーさん。 じゃ、おじさんたちの後で遊んだげるよ。 俺、気が強い女が泣くとこ見んの好きなんだぁ」


鼻で笑いながら言った金髪の言葉に、後ろの男たちがククッと笑った時、メイドの左手に光るものが現れたかとおもうと鋭く横になぎ払われ、同時に右手が閃いた。


金髪のズボンの股間が切り裂かれ、バットを持っていた男の顔面に焼酎の瓶が突き刺さる。

次の瞬間にはもうメイドの身体は金髪の懐へと飛び込み、人差し指と中指をコの字に曲げた拳が鼻下の急所に炸裂した。


吹っ飛んで倒れた二人にかまわず、木刀男が走りこんできて、メイドの頭を狙って上段から打ち下ろす。

逆らわず、かえって進んでそれをかわして相手のみぞおちを狙う彼女に、手元に鞭のように引き寄せられた木刀が、鋭い突きとなってまた襲いかかる。


あきらかに剣の心得があり、しかも暴力に慣れた動きだ。

首だけでそれを避けて、さっとメイドは後ろへ飛んだ。


さっきまで彼女がいた空間に、チェーンが叩きつけられる。

連携のとれた動きに、残る男たちもかなりの手錬れだと思われた。


木刀が正面を、チェーンが右後ろ斜め。そして真後ろをナイフの男が固めてメイドの動きを封じる。

どの男の顔も人をいたぶる悦びに歪み、そして醜い笑いを張り付かせていた。

不穏な空気がまた高まってくる。


三人が一斉に仕掛けた。

わずかにナイフの動きの方が早いと見たメイドが左へと飛んだ時、そこへ木刀が待っていたように振り下ろされ、それをかわす少しの動きの間に、彼女の右手にチェーンが絡みついた。

かろうじて後ろのナイフを蹴り上げてかわす。


左を開けておいたのも、三人の攻撃のズレもすべて罠だった。

鉄でできたチェーンはどういう仕組みなのか、メイドの腕に絡み付いて離れない。


「ちょっと! 服汚したツケ、高いわよ」

動きを封じられてもなお、メイドは不敵にそう叫ぶ。

囲む男たちはニヤニヤと笑っているだけだ。

誰も口をきかないところが、かえって隙がないことを感じさせて不気味だ。


「兄ちゃん、これヤバいって!」

階段で木刀に襲われた男を介抱しながら下を見ていた玲が、隣のシンの腕を引いてそういった。

出てゆこうか迷っていたシンが、もはやこれまでと足を踏み出した時、また三人が動いた。


チェーンが強く引かれ、腰を落として耐えたところへナイフと木刀が斬りかかる。

どちらかが動きのとれない彼女に当たると、玲は目をつぶった。


その刹那、メイドの左手が二度光った。


斬りかかる寸前でナイフと木刀の動きが止まり、フリーズしたような一秒の間の後、二人がどっとその場に崩れ落ちる。

気絶した二人の顔のそばには、細長く光る短刀のような物が落ちていた。


「兄貴の小柄術だっ。初めて見た・・・・・・・・」

唖然としてシンがつぶやいた。









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