第8色 迷った末の決意【会話】
中は、思っていたよりは綺麗だった。
あくまで思っていたより、だが。
柱は根元が腐っているのがあるし、扉は壊れていてちゃんと閉まらないし、屋根も穴があいている。
――しかし、そこから見える満月が何とも幻想的で、綺麗だった。
「今日、満月だったんだね」
いつの間にか、隣に澪が座っていた。
「ふふっ。まーちゃんが感傷に浸っているー」
「別にいいだろ。たまにはそんな気分にもなる」
「ふーん」
実際はそれどころではなく、月明かりに照らされた澪が、あまりにも綺麗に見えて、あまりにも美しく見えて……。
「どうかした? ぼーっとしちゃって」
「い、いや、別に、何でも無い」
「本当?」
「本当」
「本当かな?」
「本当だってば! ――そう言えば、温泉があるって言ってたぞ」
「本当に!? どこ!? どこに!?」
話を逸らす事に成功。
「慌てんなって。俺は知らないよ。錺が村長に聞いていたから」
「ざっくん! 温泉どこ!?」
早い……。さっきまで俺の隣にいたかと思ったら、今は錺の隣にいる。 相変わらず、温泉は好きなようだ。
「ああ、それでしたら案内しますよ」
「やった。ほら、ルミちゃん。行くよ」
「えっ、あ、はい」
「いってらしゃい」
俺は眠い……。かつて無い程に眠い。
そう言えば、瑠御礼さんって、職業『委員長』だけど、委員長っぽくないなぁ……。
ふぁー、……眠い。
「だーめ。まーちゃんも」
「俺は後でいい……」
「いいから、行く」
「はい……」
澪にはなぜか逆らえない。
手を引っ張られる。
――って、更衣所一つしか無いじゃねーか。
「俺らは後でいいから、澪と瑠御礼さんから入ってきて」
「はーい。――行こ、ルミちゃん」
「はい」
澪は更衣所の扉を閉める時に、お約束的な事を言った。
「覗かないでね!」
「覗くかっ!」
と、こちらもお約束的な返事を返す。
そして、錺と扉の前に座る。すると、声が聞こえてきた。
「わー、ルミちゃん。私より胸が大きいじゃない。ちょっとだけ揉ませてよ」
「だ、だ、駄目ですって。……あっ、ちょっと……どこ触って……ひゃう!」
…………。
……いや、俺も男だからね。
そりゃ、色々と想像してしまうわけで。
でも、これ以上聞き耳を立てているとますます変態扱いされそうなので、錺に話しかけた。
「はぁ……。錺、向こうに座らないか?」
「ええ、構いませんよ」
再度座った場所は、入り口の丁度正面にある石の上だった。
一応、見張りを頼まれているのでそんなに遠くには行けない。
「――それで、僕に何か話したい事でもあるのですか?」
何でもお見通しか……。
「ああ、実は――」
「覗きの相談ならやめておきましょう。――後が怖そうです」
「違うっ!」
「そんな事を言って、少しは見てみたいのでしょう?」
「ああ、ちょっとくらいは……って、違うっ! 頼むから、まともな話をさせてくれ」
「まーさんの本音も聞けた事ですし。――どうぞ」
だから、本音じゃ無いってのに。まったく……。――あれ、何か視線を感じるぞ。またまたそんな事言っちゃって、的な視線を……。
はぁ……。
「まぁ、いいや。それより――錺。前に、人はいないみたいな事言ってただろ。でも、ここには集落がある。って事は、かなりの人数がいるって事だ。どういう事だ? ここに住んでいる奴等全員が観察対象なわけ無いよな?」
「さすが、まーさん。なかなか鋭い事を……。確かに彼らは、観察対象ではありません。と言うより、人間ですらありませんから」
「何だって?」
「人間ではない、と言ったのです」
「そんな……馬鹿な……さっきの村長は……」
人だった。どこからどう見ても――人間だった。
「限りなく人に近い物体、とでも言いますかね。外見は人です。更には、自我まであります。しかし、人ではない。彼らは創られた存在。我々の様に、外から来たわけではないのです。つまり、彼らは――色によって創られた存在なのです。とは言っても、彼らには、心がありますからそんなに差はありません。ただ、創造主に差があるというだけで。何かと言えば、おそらくは――ただのサンプルでしょう。いえ、これもただの憶測になるのですが。つまり、人を創るためにデータを集めており、そして彼らは、それらの――試作なのかもしれません。最終的に本物の人を創るために」
「本物?」
「ええ、彼らは、いわば絵のような存在です。歳を取る事もなければ、髪が伸びたりする事もない。それに、彼らには過去の記憶という物が無い。成長の過程という物が無いのです。つまり、この世界に誕生してからの記憶ならあるでしょうが、それ以前の記憶は無いのです」
まだ未完というわけだ。
そして、完成させる為に。
完全なる人を創る為に。
俺等からデータを採る。
何の為に? 何の為に人を創る?
「さぁ、わかりません」
わかるわけがないか……。
人を創る理由なんて――わかりたくもない。
「上がったよー。気持ち良かったー。ね、ルミちゃん?」
「ええ、最高でしたよ」
錺と話し込んでいる内に、二人が帰ってきた。
なぜか二人とも浴衣だった。
「ああ、僕が村長に話して貸して貰ったのですよ」
ナイス判断! 錺!
俺は初めてお前を褒める!
少し濡れている髪。火照っているのか、少し紅潮している肌。
昼間の時とは違う色気があった。ていうか、セクシーすぎるぞ二人共!
浴衣パワー……恐るべし!
澪が俺の前にしゃがんでくる。
すると、石の上に座っている俺の方が視線が高くなって、視線を合わせるために視線を下げると、そこには――浴衣の陰でチラチラと見える胸の谷間があった。
「どうしたの、まーちゃん? 顔が赤いよ」
「な、な、な、なんでもござらん!」
思わず言葉使いがおかしくなってしまったが、何とか視線を外す事が出来た。
しかし、その先には――瑠御礼さんがいた。
澪と同じような格好をして。
という事は、そういう事で……。
「大丈夫ですか、まー君?」
うぉ! 澪より中身たっぷり!
それが止めとなり、俺は――
――ノックアウトした……。
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