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色世界
作:伊玖夜紗望



第7色  迷った末の決意【事前】


 ――――…………。
 ――あれ? 森を抜けたのにそのまま?
「おかしいですね。帰れない……」
「……錺、どういう事だ? 帰れるんじゃなかったのか?」
「ええ。そのはずだったのですが……」
 錺自身にも何が起こったのかわからないみたいだ。
「目的は達していますし……他の可能性は……」
 錺は、またもや一人の世界へと旅立って行ってしまった……。
 こいつは、頼りになるのかならないのか……。
 はぁ……。
「どういう事なんですか?」
「さぁ、俺にはさっぱり……。こっちの世界には今日来たばっかりですから……」
「そ、そうでしたね。――でも、どうしましょう? 日も暮れてきましたし……」
 気が付けば、もう夕日が沈みかけていた。
 森に入った時には、日はまだまだ高かったのに……。
「あっ!」
 突然、澪が声を上げた。
「ど、どうしたんだよ?」
「皆、カードを見て!」
 一斉にカードを見てみる。
 俺のは何ら変化が無い。
「おい、何も変わって……」
「目的が……」
「えっ?」
「目的が変わっています。今まではこんな事は無かった……なのに……」
 どういう事だ?
「今までは目的は一つだけだったのです。それが今回は……」
 違う目的が出てきた……。
 また新たな依頼が出てきた。
「なんて書いてるんだ?」
「真実を観ろ」
「は?」
「真実を観ろ、と、僕のには書いてあります」
 錺は言う。意図がわからないという風に。
「瑠御礼さんは?」
「覚醒せよ、と書いてあります」
「覚醒?」
「さぁ? 何の事だか……」
「――澪は?」
「えっ? ああ……うん……」
 言い難そうに、澪は呟く。
「存在理由を……真実の存在理由を……思い出せ、って。――ねぇ、これって何? どういう事? 真実も何も、私の存在って……。ねぇーっ! どういう事!? どういう……」
 かなり動揺しているようだ。余裕が感じられない。何をそんなに……。
「これってさ……」
 澪が、吐きだすように、苦しそうに言葉を発する。
「これってさ……皆と……ここで……お別れって事? ずっと一緒だったのに……ここで……」
 澪は、ずっとその事を思っていたのだ。だから、あんなに悲しそうな顔をしていたのか……。
 どうして、俺はその事に気付いてやれなかったのだろう……。
 まったく、俺は何年澪の幼馴染をやっているんだ。澪がそういう人間だってことは知っていたはずなのに……。
 自分が嫌いになる。こういう時にこそ俺が……。
 嫌な沈黙が続く……。
 その沈黙を破ったのは、錺だった。
「その点は大丈夫でしょう。皆さんの目的がいまいち明確に書かれておりません。故に、ここは今しばらく、行動を共にした方がいいでしょう」
「そうですね。今一人にされても困りますし」
「まだ……一緒にいて……」
「当たり前でしょう? そんな事、心配しなくてもいいですよ」
「み……皆ぁ……」
 澪が涙を流す。
 止まらずに、流れ続ける……。
「……俺もいるから」
 澪に話しかける。
「俺もいるから。目的は変わらずに、澪と行動を共に、だし。俺はずっといるよ」
「あ、ありがとう……まーちゃん」
「もう泣くなよ?」
「うんっ!」
 澪は泣き止み、元気よく返事をした。
 その様子に思わず、笑みがこぼれてしまう。
 しかし、澪が泣き止んだとはいえ――。
「これからどうする? もう遅いし……。野宿か?」
「野宿!? ふざけるのはやめてください、まーさん! まったく……野宿だなんて……」
 うおっ! びっくりした!
 ほんのちょっとした意見のつもりだったのに、ここまで反対されるとは……。
 しかも、女性である澪や瑠御礼さんから反対されるのならまだしも、男である錺から反対されるとは……。
「とにかく、どこか人が住んでいる所を探しましょう。日が暮れるまでに」
「ああ、わかったよ」
 もしかして――怖いのか? 幽霊の存在とか信じてるのか?
 でも、森の中では平然としていたよな……。
 うーん、わからん。
 そんな事より今は、人が住んでいる場所探さなければ……。
 しかし、周りには何も無かった。
 草原が広がっていて、遠くには山が見える。
 人がいるような気配は無い。
 だからと言って、森を今更引き返す事は出来ないだろう。
 澪と瑠御礼さんの猛反対がある事は、容易に予想できる。
「あのー……」
 瑠御礼さんが服を引っ張ってくる。
「どうかしましたか?」
「あれ……」
 そう言い、瑠御礼さんは山の麓を指さす。
 そこには、灯りがいくつか見えていた。
「あれって、人が住んでいる場所じゃないですか?」
 確かにそうだろう。あれは人工的な明かりだ。
「それでは、澪さん達を呼んできますね」

 ――しばらく歩いて行くと、灯りの正体が見えてきた。
 家が、二十くらい建っている。
 村というよりは、集落に近いかもしれない。
「誰かいますかー!?」
 声が響く。
 辺りには何も無い。
 人が住んでいないように、生物が存在していないかのように、何の音も聞こえてこない。
 ただ、自分の声だけが辺りに響く……。
「……おい、誰もいないんじゃないのか?」
「しかし、灯りが点いていますから……いるとは思うのですが」
 その時、奥で影が動いた。
「あなた方は一体、誰ですかな?」
 そこには、初老の老人がいた。
 髪の毛はすべてが白くなってしまっているが、背筋が伸びており、肌も健康的に黒く日焼けしているので、若く見えるが、それは見た目だけの話で、雰囲気はえらく年老いて見える。すべてを諦めたかのような目をしている。
「あのー……」
「帰ってくれ」
「はい?」
「帰れ、と言ったんだ。さっさとこの村から出て行ってくれ」
「ちょっと待ってください」
「待つことなど何も無い。話は済んだ。さぁ、帰ってくれ」
「一晩だけでも構いませんので、寝泊まりできる場所を貸してください」
「貴様らに貸せる――」
「まーちゃん! ざっくん!」
 澪と瑠御礼さんが走ってくる。
「駄目だったよ。誰もいない。……この人は?」
「ああ、この人は――」
 老人は、澪を凝視していた。まばたきを忘れてしまうほどに。そして、ハッと気付いたように、話し始めた。
「――……ああ、儂は、この村の村長だ。それとさっきの話だが、小屋が一つだけ空いていたのを思い出した。そこを使えばいい」
「あ、ありがとうございます……」
 口ではお礼を言うが、内心では、この態度の変わりように、いささか疑念を感じる。
 怪しい……。まさか! この村長、女子高生萌えなのか!?
 だからさっきまで、穴があくほど見つめていたのか。
 この変態野郎っ!
「どうしたの、まーちゃん? 顔、真っ赤だよ?」
「早く来い、お前ら。こっちだ」
「ほら、村長さん呼んでるよ? 早く行こ」
「ああ、しかし今の俺は、人を信用出来ないかもしれない……」
「なにバカな事を言ってるの? 早く行くよ」
 手を引っ張られる。
 ああ、駄目なんだ……。
 奴はお前を狙っている。
 逃げないと。
 奴は年下ロリ嗜好だ。
 まぁ、俺はどっちかって言うと、年上……じゃなく……。
 …………。
 ……俺、何を考えているんだ?
「着いた。ここだ」
 目の前にあるのは、朽ちる一歩手前ってぐらいのボロ小屋だった。
 ……えっ? これ、人が過ごせるのか? たった一晩とはいえ、大丈夫か?
 いやいや、せっかく貸して貰えるのだ。文句など言ってはいけない。
「かなり朽ちかけているが我慢してくれ。ここしか空いてるのが無いんだ。元々は馬小屋でな。広さは問題ないと思うが。あと、ここに寝袋があるから、これを使え」
 馬小屋かよっ!? いやいや、文句は言ってはいけない……うん……。でもなー、ちょっとくらいは……。
「何だ? 文句でもあるのか? あるなら……」
「いえいえ、滅相も御座いません」
 俺は慌てて否定する。俺の内心を見抜いているのか、いないのかはわからないが、村長は、
「ふん。じゃあな」
 と言い、どこかに去っていった。
「ふいー。やっと休めるよー。疲れたー」
 澪は、早速小屋の中に入り込む。
「さすがに疲れましたねー。私もくたくたですぅー」
 そう言い、次に瑠御礼さんが入っていく。……ん?
「僕も這い入りますか。……あれ、どうかしましたか?」
「いや……。誰かがこっちを見ていたような……。気のせいか……」
「村の人じゃないですか? きっと僕らのような存在が珍しいのでしょう」
 いや、あの視線はそんなモノじゃない。
 何かと言われれば正確に答えられるわけじゃないが、あれには、負の感情が込められていた気がする。
 憎、恨、怒、忌、呪、滅、殺、怨……。
 それらが込められている気がして、背筋が寒くなるような、凍えるような視線だった。
 嫌な予感がする……。
       
 












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