第6色 迷いの森にて【到着】
…………。
……あ、どうも。ぶん投げられた者です。
今、空を飛んでいるのですが、どうやら重力に逆らえきれなくなり、落ちかけています。と言うか、落ちてます。この高さから落ちたら確実に逝けるでしょう……。
――って、いやぁー!!
まだ何もしてないのにっ! 女の子と付き合った事も無いのにっ!
このまま死ぬなんて……。
十代で死ぬなんて……。
いやだぁー!!
誰か助けてーっ!
――誰かが助けてくれるわけもなく、落ちていく……。
木っ! 木にぶつかるっ!
バキッ! バキバキバキッ! ドンッ!
「きゃっ!」
「おっと」
「ふぁ!」
「……痛ぇー」
ぶ、無事だったー……。はぁー、よかったー。
どうやら木の枝が上手い具合にブレーキをかけてくれたようだ。
振り向いて木を見上げて見る。
でかっ! 俺、こんなに大きい木よりも更に上にいたの? 怖……。
よく生きてたなー、俺。
「ちょっと、まーちゃん! どこに行ってたのよ!? 皆、心配したんだから……」
「まったくです。ついて来てくださいって言ったじゃないですか?」
「でも、無事で何よりです。大した怪我も無さそうですし……」
懐かしい声。聞き覚えのある声。
澪達だった。
ほっ、と一息つき、安心している俺がいた。
「なに落ち着いた顔してるのよ! こっちは心配したんだからっ! 心配したんだから……」
澪は泣きながら、顔を俯けてしまう。
「悪かった……」
そう言い、立ち上がろうとしたが、上手く力が入らない。
あれ? どこか怪我したような感じはしないのだが……。
「あっ! まー君、怪我していますよ。肘」
そう言われ、肘を見てみる。
そこは、皮膚が裂け、赤い血が噴き出していた。
痛っ!
傷は、認識した途端に疼きだす。
「ああっ、じっとして下さい。――今、消毒しますから」
瑠御礼さんは、どこからか鞄を出してきた。どこから……。
「鞄がどこから出てきたかなんてツッコミ、不要ですから……」
怖かった……。
にっこりと笑う、その顔が怖かった……。
「まーさん。一体、どういう経緯で空から落ちてきたのですか?」
治療中に、錺が聞いてきた。
俺は、一部始終を伝えた。
胸を触った事は除いて。
「――なるほど。女とは気付かずに胸を触った、と。否、女と気付きつつも胸に触った、と」
えっ? なんで知ってるの? それにあれは事故ですよ。僕に責任は一切ない事故ですよ。そうですよね、皆さん?
「うわっ、最低……」
「ま、まー君……」
そんな非難がましい目はやめてくれ! 俺のせいじゃない! あのお姉さ……じゃなく、お兄さんが勝手に、弟……もとい、妹の胸に俺の手を……。
「ふっ。人の責任にするのですか? 最低ですね」
黙れ、眼鏡。お前だってそんな状況に陥れば、きっと……きっと……。
……柔らかったな……。
「何か最低なこと考えていません?」
「そんなわけないでありますよ」
「言葉遣い、おかしいですよ? ――冗談はこれぐらいにしておいて、よく生きて帰れましたね。あのクビキリキョウダイと対峙しておきながら」
「だから、なんだよそのクビキリキョウダイって?」
「この世界で有名な奴らですよ。クビキリキョウダイ――その名の通りに、彼らは首を切るのです。今までの彼らの目的は、誰かを殺す事以外の目的は無いと言われています。それ程に危ない奴らなんです。危険な兄妹なんです」
ゾクッ……。
今更になって恐怖が込み上げてくる。
岩をも砕く破壊力。
首筋に添えられたナイフ。
彼等の笑み。自然な笑み。今から人を殺そうという事と関係が無いような程、自然な……。
怖かった……。
――でも、それよりも、何よりも、あの黒。黒の存在感。
全てを凌駕するほどの存在感。
総てを支配するほどの圧倒的な恐怖。
その闇を見つめていると、全てが虚しく、全てが小さく、全てが無意味に思えてくる……。
全てを呑み込むように……どこまでも暗く、果てが無い暗闇で……。
「――君。――ー君。まー君!」
「えっ、あっ、何?」
現実に引き戻される。
「どうしたんですか? ぼーっとしてしまって。まだどこか痛むのですか?」
瑠御礼さんが心配そうに聞いてくる。
「いえ、もう大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「そうですか……よかった……。でも、あんな高さから落ちてきて、怪我がこれだけで済むなんて奇跡ですね」
「まーちゃんは、頑丈さだけが取り柄だから」
「ええ、そうなんですよ……って、何かあまり嬉しくないな。褒められたのか貶されたのか……」
「どっちでもいいわ。――起てる?」
「ああ、大丈夫だよ。――さぁ、行こうぜ」
そう言うと、澪が腕に絡みついてくる。
「何だよ?」
「まーちゃん、またどっかにフラフラ行っちゃいそうだから、ちゃんと捕まえとかなきゃ」
「はぁ……。そうかよ……」
これまでの経験上、こういう時の澪は、どんなに断っても決して諦めない。断るだけ無駄。無駄な体力を使うだけだ。
「ふふーん」
鼻歌なんぞ歌いおって……。えらく機嫌がいいな……。
「うっ、ううー……」
「ひゃ! ひーん……」
「…………」
この状況は何だ?
嫌じゃないけどさ……。
「きゃ!」
「ひっ!」
「…………」
こ、これ以上力を込められると、む、胸が……。
状況説明。
森を歩きだしてから、数分後。
瑠御礼さんが腕にしがみついてきた。
澪は、ずっと俺の腕にしがみついている。
要するに今は、両手に花状態なわけで……。
たまに、物音がすると、二人とも抱きついてきて、その時に、柔らかい感触が……。
すげー……。雷茲とは違って、二人ともかなり大きい……。
って、なんか俺、変態街道爆進中、って感じになっていないか?
やばい……。それだけは、何とか回避を……。
「あのー……、二人とも。そろそろ離れて……」
「駄目。まーちゃんはすぐどこかに行くんだから……」
「……はう! す、す、すいません! 今、離れ……ひゃう!」
瑠御礼さんが、更に強くしがみついてきた。
「鳥ですよ、瑠御礼さん」
「そ、そうですか……。ほっ……」
「澪も、そんなにビビらなくても……」
「誰もビビってなんかはいないわ! 変な事言わ……きゃ!」
澪も更にしがみついてきた。
「風だよ、澪」
「し、し、し、知ってるわよ!」
はぁ……。仕方が無い……。
「錺……」
「何ですか、まーさん? 次は右ですよ」
駄目だこいつは……。助けにならない……。
もしかして、出口までこのまま? 本気で?
まじでー! これでは、俺のピュアハートは持ち堪えられない!
羨ましいとか思っている男子諸君。この状況、結構厳しいよ? 下手したらこれから先、ずーっと嫌われ続けるんだぞ。そんな状況で楽しめるわけないだろっ!
「おや、出口のようですね」
まじで!? 助かった! 近くでよかった! ずっとあのままだったら、暴走していたかもしれない……。
「もう二度と来たくない……」
「こ、怖かったです……」
そう言いながら、腕から離れていく二人。
腕から好ましい感触が消える。
……おしい……いや、おしくない! うん、おしくない。……うん……おしくは……ない……と、思う。……うん。
「とにかく、これで終わりですね。お疲れ様でした。アクシデントもありましたが、楽しかったですよ」
と、錺。
「まー君に会えたのでそれだけでもよかったです。それでは……また」
と、瑠御礼さん。
「私は何も言わないよ。いつでも会えるから……ね?」
と、澪。
「そうだな。……まぁ、楽しかったよ」
と、俺。
この森を抜ければ帰れる。
お別れだ。
「それじゃあ、行こうか」
そして四人は、森の外へと歩き出す――。
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