第3色 迷える子羊【説明】
「――それで、カードってそんなに重要なのですか?」
「カードが無いと、元の世界に戻れませんよ? あのカードは証明書のようなものです。まぁ、いわゆるパスポートですね」
「なるほど。パスポートですか。ていうか、元の世界ってどういう事ですか?」
やっぱりここは……。薄々気付いていたけど。
「ええ。ここは、あなたがいた世界とは、少し違っていて……その……なんて言えばいいかな……。――錺さん、説明してもらってもいいですか?」
瑠御礼さんは、錺に助けを求めた。
困った顔も可愛い……。
「――ええ、いいですよ」
よく似合う微笑みを浮かべ、俺の方を向き、「まず、元の世界についてですが――」と、話し始めた。
「――元の世界。元々貴方がいた世界の事ですが。その世界を創ったのは、誰だと思いますか? 神? 最初から存在している? 中には、自分が創造主だ、という人もいますが、大抵の場合は嘘でしょうね。――と、こんな風にいろんな説がありますが、神が創った、という説が一般的でしょうね。だから、元の世界というのは、神が創った物、と決めます。決定します。決め付けます。ではこの世界、つまり今、我々が今いるこの世界を創ったのは、創造したのは、一体誰でしょうか? 神? 最初から? 否、この世界を創った者がいるのです。この世界の創造主。
それは、
色
です。
この世界は、色が創った物なのです」
色が世界を創った?
どういう事だ? ますます頭が混乱しそうだ……。
「……色、っていう人がいるのか?」
「違います。まさしく色なんです。colorと言えば分りますか? C、O、L、O、R、です」
「…………。……理解は……し難いが、創った目的は?」
「わかりません」
「じゃあ、俺等の存在意義は?」
なぜここにいる?
どうしてここにいる?
どうやってここにいる?
「わかりません。それでも答えが欲しいのなら――選ばれた、としか言いようがありませんね。実際、ここに来れるようになってから、様々な事をしてきました。宝探し、探索、目的地への到達。と、実に様々な事をしてきました。それでもよくわかりません。なぜここにいるのか。どうしてここにいるのか。解答の糸口すら見えてきません。推測することは可能ですが」
「その推測とやらを出来れば聞かせて欲しいね」
「推測というよりは憶測ですけどね。それでもいいのであれば、聞かせてあげましょう」
ふぅー、と錺は一息吐き、言葉を繋げた。
「今から話す事は、決して事実ではなく、真実でもありませんので、本気にしないでください。そこはお願いします。ただの憶測です。僕の拙い脳が導き出した、一つの仮定です。可能性です。可能性が1%にも満たない、可能性です。否、不可能性とでもいいますか。とにかく、それを理解しておいてください。――それでは、そろそろ本題に入りましょうか。あまり焦らしても意味がありませんからね。――彼ら、つまり色達がこの世界を創った理由、目的は、おそらく――観察です。我々を観察しているのだと思います。ところで、この世界のルールはご存じですか? そうですか。まだですか。では、そこから説明しましょう。まず、この世界に来るには、呼ばれなければいけません。こちら側から一方的に行くことは出来ません。――貴方の場合は、かなりの例外だと思いますが。とりあえず、この世界に来ます。そして、こちら側で何をするかというと、目的を達成するのです。所謂、依頼のような物があるのです。それは、ドアを通るときに聞こえてきたり、カードに書かれていたりするのですが。ああ、カードに書かれているのは、自分以外見えませんよ。そして、それを達成すると、元の世界に帰る事が出来るのです。これがこの世界でする事です。この辺りで閑話休題。これらの事から、彼らの目的というのは、観察する事、という結論が出ます。つまり、我々が何か目的を達成しようとしているところを観察しているのだと、思います。問題に対してどうするか? 問題と関係を持ってどうなるか? そういう事を観察しているのだと思います。勿論、まだわからない事もあります。彼らが何を観たいのか? 観察してその結果、何をするのか? など、まだまだわからない問題はありますが、彼らが今現在したい事は、観察、だとこの錺左廈は推測します。否、憶測ですか」
……よくわからん!
正直なところ、「はぁ、そうですか」と、しか言えない。全くもって、次元の違う話を聞かされた気分だ。――って、ここは俺がいた場所とは違うのか……。
……………………。
……いいだろう。俺は自分で言うのもなんだが、なかなか心の広い人間だ。
――受け入れてやる。納得してやる。
さっさと帰りたいからな。……妹、大丈夫かな……。
……あっ。
「おい、錺。こっちの世界には人がいるのか? 俺等以外にいるのか?」
家族やクラスの奴等とか、いるのか?
「僕の事は錺ですか。いいですね。変に凝ってなく、ストレートで。実に良い呼び方です。嬉しいですね」
「名前の呼び方なんてどうでもいい。早く答えろ! いるのか、いないのか、どっちなんだ!?」
「そんなに怒鳴らなくてもいいですよ。ただその質問は少し難しいのです。いる、と言えばいる。いない、と言えばいない。そういう類の問題なのです。言える事は、貴方が想像したような人々はいませんよ」
いない?
いないのか?
それじゃあ、誰がいるんだ?
一体、誰が?
「うーん……そうですね。果たして、彼らを人と呼んで良いものか、悪いものか……。どちらでもいいのでしょうが、僕はそういう事は気にしてしまう人間なもので。――まぁ、まだ会った事はありませんが、我々以外にもいるかもしれませんね。否、確実にいるでしょうね。観察対象が」
俺等以外にも似たような境遇の奴がいる……。
当たり前だ。こんな小人数だけからデータを取っても、意味が無い。いや、価値が無い、と言った方がいいか。なんせ世界には、六十億もの人間がいるからな。
「六十六億人ですよ。六億人の差は大きいです。とは言っても、これも大まかな数字ではありますが、正確な数字ではありません。戸籍に登録されていない子供達などがいますからね。――一体、これからどうなってしまうのでしょうか? これからも、戸籍の無い、居場所の無い、子供達が増えていくのでしょうか。そういう子供達は社会に出ても、満足な待遇を受けることができず、差別を受け、それらから来る反社会精神によって、犯罪を犯す者も出て来るのではないのでしょうか。……一体、これから先、世界はどうなるのでしょうか?」
知るかっ!
そんな話してねぇ!
……いや、大変な問題だとは思うよ。だけど、今は考えてる暇が無い、と思うんですけど。
「ああ、そうですね。すみません。――ところで、貴方の目的は何ですか?」
「……知らない。わからない。何も……」
「……そうですか。それは困りましたね。もしかすると、貴方は――帰れないかもしれませんね。……いわば、貴方は、不法侵入に近い形でこの世界に来たのですから」
思った以上にやばい状況みたいだ。ここにきて、帰れない可能性が出てきた。
「……とにかく、カードを手に入れましょう。そうすれば、何かがわかるかもしれません……」
――というわけで、俺達一同は、ゴミ山に行く事となった。
――場面は変わり、ここは、迷いの森の入口である。
「さて、それでは行きますか」
と、先頭にいる、錺が言った。
「……不気味……ね……」
「こ……怖い……です……」
その後ろには、女の子同士、腕を組みながら、逃げ腰で、澪と瑠御礼さんがいた。
「はぁー」
そして更にその後ろ。俺がいた。気怠そうに、何度も溜め息を吐きながら、後をついていく。
ポケットを探る。カードを取り出す。見る。
「はぁー……」
自然と溜め息が出る。
――カードはあった。というより、カードしかなかった。
あのゴミ山にあったはずのゴミは、すべて消え、代わりにカードだらけになっていた。
見る所すべて、カード、カード、カード、カードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカードカード……。
カードはすべて無地で真っ白だった。
それらの中から一枚取り出すと、ほかのカードは弾け割れ、景色は、また元のゴミ山へと戻っていった。そして、カードに文字が浮かび上がってきた。そこに浮かび上がってきた文字は、名前と職業と目的だった。
目的は、澪と行動を共に、だった。
意図はよくわからないが、反対する理由も無く、むしろ願ったりなわけで。とりあえずは従うつもりだ。
……あとは、あまり思い出したくない。
名前はいいとして、職業が最悪だ。『走る辞書』より悪い……。あとは、何とか理解してくれ……。頼むから、俺をあんまりいじめないでくれ……。
それだけではあんまりなので、みんなのリアクションを紹介。
「あはははは。何、この職業? あはははははは。まーちゃん、おもしろーい。これ『ひ……あははははははは」
と、澪。
「いえいえ……ぷっ……これはこれで……くっ……かわいい……と……思い……ます……よ……」
と、瑠御礼さん。
「ふっ。まぁ、よかったじゃないですか。カードも見つかって。この職業も……ふふっ。希少だと思いますよ」
と、錺。
――爆笑。
――笑いを堪える。
――鼻で笑う。
みんなに笑われた……そんな俺の職業は――言いたくない。というか、認めたくない。言わなきゃ駄目? 絶対に? ……よし。わかった。覚悟を決めよう……――『羊』である。
……………………。
羊って……。 |