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色世界
作:伊玖夜紗望



第2色  迷える子羊【仲間】


「そういえば、話し戻すけど、その仲間ってのは何人いるんだ?」
「二人だよ。えっと、『歩く辞書』のざっくんでしょ。『委員長』のルミちゃん」
 歩く辞書に委員長。
 肩書きとして委員長はまだいいとして、歩く辞書って……いじめられてそうだ……。
「肩書きじゃないんだよ、まーちゃん。職業がそうなんだよ」
 それなら余計におかしい事になる。委員長はまだいいとして、歩く辞書って……職業か?
「ざっくんは凄いんだよ。知らない事は無いんだから。過去の事から――未来の事まで。ありとあらゆるすべての事柄、事象を知っているんだよ」
 未来の事まで知っているなら、それは最早、辞書ではなく、超能力者だろう。そんな未来の事まで書いてある辞書があるのならば、是非とも一冊手に入れたいものだ……。

「残念ながら、僕は超能力者ではありません。どこにも販売されていない、一冊の本です」
 背後から声がした。
 振り向くとそこには、スラリと背が高く、眼鏡がよく似合っている、男の俺から見ても格好いいと思える、青年がいた。
「それに、未来の事知っているのではなく、現在ある情報から予想しているだけですよ。――他人に僕の事を話すのなら言葉には気を付けて欲しいですね。葵月さん?」
 トゲを含んだ言い方で、澪の事を睨みつける。
 対する澪は、特に悪びれる様子もなく、「ごめんね、ざっくん」と、謝っていた。
 その様子に、やれやれと、首を振っている眼鏡野郎。
 なんか、微笑ましいというか……疎外感を感じる……。
「あっ、そうだ。まーちゃんを紹介するね」
「されなくても知ってますよ。貴方がまーちゃんさんでしたか」
 『ちゃん』か『さん』どっちかにしろ。なんか、マー・チャンさんみたいな事になってるじゃねーか。俺は生粋の日本人だ。ていうか、なんで俺の事を知ってるんだ? ストーカー?
「そうですか。では、僕はまーさんと、呼ばしていただきます。僕は、錺左廈かざりざかといいます。葵月さんからは、ざっくんと呼ばれていますが……。職業は『歩く辞書』改め『走る辞書』です。以後、よろしくお願いします」
 なんだ!? 走る辞書って!?
 歩く辞書は聞いた事がある。物知りって事だろ。しかし、走っているのは聞いた事が無い。意味不明だ。そもそも、辞書には走る必要は無いだろう?
 いろんな疑問が俺の頭を過ってる最中に、澪が嬉しそうに錺に話しかけた。
「ざっくん、ランク上がったんだ! いいなー。羨ましいよ」
「しかし、このネーミングセンスはどうかと思いますよ。ところで――まーさんの職業は何ですか?」
「俺はまだカードを持っていない。だから知らん」
「カードが無い? それではどうやってここに……否、どうしてここに来れたのですか?」
「わからんよ、俺には。それを『歩く辞書』たるお前に聞こうと思っていたんだから。ああ、今は走っているのか。……とにかく、俺は知らないし、わからない。ドアを潜ってきただけだからな」
「どういう事だ? そもそもカードが無ければドアは開かない……。一体どうして? 待てよ……こうすると……否……しかし……でも……」
「ざっくんにもわからない事だったかな?」
「…………」
 返事は無い……ただの考える人のようだ……。
「おーい」
「…………」
 返事は無い……ただの考える人のようだ……。
「…………。はぁー、まただよ。ざっくん、ちょっとでもわからない事があればすぐにこうなっちゃうんだ。ほっといたら元に戻ってるけど……」
 下を向いてぶつぶつと呪詛を唱えているようなその様子は、ある一種の不気味さがあった。ていうか、なんか目がイっちゃてますよ!
「……ふふふ……くっくっく……ふふふ……」
 錺が突然笑い出した。
 怖っ!
 一体何なんだ、こいつ? そんなに深く悩む事なのか? 当の本人は全く気にしていないぞ。
 ……なんか信用できない。一人の世界に入ったらと思ったら、突然笑い出す奴なんて誰も信用できないだろうけど。なんか胡散臭い……。なんとなくだけど。眼鏡か、眼鏡が胡散臭いのか?
「それにしても、瑠御礼さん遅いですね。何かあったのでしょうか?」
 錺は、普通に自分の世界から戻ってきた。そしてそれとほぼ同時に、校舎から走ってくる人影が現れた。

「ごめんなさーい! 待たせちゃいました。――あれ、こちらの方は?」
 …………。
 はっ! 一瞬、反応が遅れてしまった。思わず、見蕩れてしまった。
 ――だって、可愛いんだもん。
 ……やばい。マジで可愛い……。
 くりっとした丸い、大きな瞳に……無理だ……言葉では言い表せれない……。
 何なんだこの方は?
 同じ人類なのか? ……いや、違う。違うに決まっている。
 彼女は天使だ。
 天使そのものだ!
「あのー……」
 何の反応を見せない俺を、心配そうに見つめてくる。
 その視線だけで倒れそう……。倒れてもいい……。
 まさに、死線!
 ……すみません……。
「彼は私の幼馴染の、まーちゃんです。よろしくしてあげてね」
 澪が俺の代わりに紹介してくれた。
「あなたがまー……」
 突然言葉を詰まらせ、何かを考え始めた。考えている事はなんとなくわかる。
「なにで呼んでくれても構いませんよ」
 特にあなたになら。
 なんて言わないけど。
「そうですか。それでは……私は、まー君にします。どうも初めまして。『委員長』の瑠御礼尓圖るみれにとです。――あなたがまー君だったのですか? 驚きです」
「……そんなに俺は有名なのですか? そこの錺左廈も知ってるみたいな言い方してましたし。そんな自覚無いですけど……」
「いえいえ。澪さんがずっとあなたの事をはな……」
「?」
 言葉が途絶えたのには訳がある。何事にも原因というものはあるのだ。
 この場合は、澪が後ろから口を塞いだから、である。
「もういいでしょ、ルミちゃん。早く行きましょう。今日は急がなきゃ」
「そういえば、今日は迷いの森でしたね。あそこは僕でも迷いますからね。時間がかかりそうです」
「それもあるのだけれど、もう一つあるの。まーちゃんのカードを探して欲しいの。多分、ゴミ山にあると思う」
「………………」
 瑠御礼さんは、俺のカードが無いという事に、驚き、言葉を出せなかったみたいだ。
 これで三者三様の驚き方を見せてもらった事になる。

 ――絶叫。
 ――崩壊。
 ――硬直。

 うーん……面白い。
「…………。カードが……無いって、本当……ですか?」
 恐る恐るという感じに、彼女は尋ねてきた。
「ええ。本当ですよ。しかし、カードってそんなに大事な物なのですか? そうとは思えないのですが?」
「まーちゃん、敬語だね。よくわかったね。ルミちゃんが年上だって。私はわかんなかったかな。凄いね、まーちゃん」
「あ、当たり前だろ!?」
 なっ、なにー!?
 この容姿で年上だとっ!?
 妹と同じくらいだと思っていた……。――ちなみに妹は十三歳。
 あと敬語なのは、彼女の雰囲気が軽々しく話しかけてはいけないような、なんというか。つまり、あまりにも神々しい(特に外見)のだ。
 敬うべき存在なのだ!
 神様、ありがとう!
「なにしてるの?」
「いや、別に。生命の神秘について考えていただけだ」
 澪は特に思う事もなく、「ふーん」と、言っただけだった。












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