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作者: 蘭椀

初めて気持ちに任せて作りました。

拙劣な文ですがよろしくお願いします

 「準備はいいか?」

 佐藤の声に、鈴木、山田、そして私が頷いた。

 午後九時三十分。闇に沈んだ校門前。鈴虫の音が人の声より大きくなったころ、他の生徒がいなくなったことを確認した佐藤達は作戦前の最後の確認をしている。 

 「チャンスは一度きり。失敗すれば......」

 「全員、地獄行きでしょう?」

 「今更俺たちも逃げないよ。__男だからね」

 鈴木と山田が佐藤と目を合わせ三人でもう一度深く頷く。前を見据えるた彼らの中には誰も逃げ出す者などいない。それを再確認するかのようだった。

 「やるべきことは分かってるな?誰にも見つからず、ターゲットを確保する。」

 「30分以内に作戦完了でしょ?楽勝じゃない?」

 佐藤の言葉に山田が反応をする。口元は笑っていた。

 余裕の笑みか、緊張を隠すためか。あるいはそれ以外の理由か。なんにせよ、その表情が佐藤たちに安心感を与えたのは事実のようだった。ゲラゲラと笑いあい、校舎三階に目を移す。目標物は、おそらくあの階のどこかだ。

 「どうやら全員、心の準備は良いみたいですね」

 鈴木の声がした。

 「そのようだ」

 フフッとした佐藤の声をキッカケに、その場は束の間の静けさを得た。

 そして

 「よし」

 その時が来た。

 「行くぞ!」

 「「応!!」」

 佐藤の合図をキッカケに、三人は走り出し、校舎の影に消えていく。

 携帯の録画機能をオンにした私は、遅れて後を追いかける。これから起こる、ある人間にとっての悲劇。そしてまたある人間にとっての喜劇。これから始まるエンターテイメントに、私は緩む口を抑えることができなかった。 


 私達が今侵入したのは、私立南茂内小学校。割と昔からある学校で、何を隠そう私たちはここの卒業生である。当時、佐藤は強気なクラスのリーダー。鈴木はガリ勉の読書好き。山田は少しこじらせてしまった普通の男子だった。それぞれ全く性格の違う彼らの仲がなぜ良いのかは正直私も最近まで知らなかった。しかしこの前聞いてしまった話によると、どうやら年下の斉藤という女の子に全員が一目惚れをしたらしい。彼女の情報共有のため話をしていたら仲も良くなってしまったというわけだ。実に気持ち悪い。こんなことになってしまった彼女に同情せざるをえない。

 話が逸れてしまったので元に戻すが、卒業生である佐藤達は当然学校内のことは良く知っている。校舎の見回りの人間の存在やその行動時間など、危険な障害になりうるものの研究は既に済んでいた。そして今、彼らの障害になるものはこの校舎に誰もいなかった。

 「順調だねぇ」

 一階の階段を上り終えたところで、山田が嬉しそうに呟いた。

 窓から月の光が入り込んでいる。今日は満月で、足元が見えない暗さではないのも順調に事が進む要因のような気がした。

「まぁ計画は綿密に組み立てましたからね。ただ進むだけでもおそらくアクシデントの類は起きないでしょう」

 「それでも、最低限の注意は必要だがな」

 二人の会話を聞きつつ、佐藤が二階の廊下から三階に異常がないか確認をしている。やがて暗闇の中に何もいないことを確認すると、右手を挙げそれを前に倒した。GOサインである。ここまでと同じように、三人は壁に背を向けゆっくりと歩みを進めていく。一つ、二つと慎重に階段を上がっている彼らの表情は、暗闇に隠れてはいるがおそらく嬉々としているのだろう。物事を達成しようとしている充実感をこの場にいる者全員が感じていた。

 「とうとう三階だねぇ」

 「最後の直線だ。気を引き締めろ。」

 佐藤の声で、目標が近いことが分かった。こちらの目標もあと少しということか。

 「行きましょう」

 緊張した声で鈴木が言う。なにかを押し殺したような__そんな声だった。

 コツ。コツ。と小さな足音が三階に響く。

 「ここか......」

 無事に目標までたどり着いた。一度立ち止まり、合掌。そうして、三人は同時に中へと入っていった。

 4-2と書かれたクラス。

 「ここかぁ......」

 後に続く私は中に入らない。しかしカメラにはしっかりと教室内を見ていてもらう。 

 一分ほど、時間が経過し、いよいよ「作戦」は佳境を迎えたようだ。

 prp...

何か、液体の滴るような音が聞こえた。それは次第に大きくなっていく。

 prprp...

「は...」

 それは風船のように徐々に姿を大きくしていき......


「はあああああああああぁぁあああぁぁあああっぁぁぁあああぁああああああぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんん////!!!!!!」


 膨らみに耐えきれず爆発した。


 「prprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprprpr」

 「斉藤ちゃんん”ん”ん”ん”ん”!!!!!!!!!!!!!!!!」

 「たまりません。たまりません。たまりませんたまりませんたまりませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!////////」ぷおおおおおおおおおおおお


 教室内は地獄そのものだった。

 佐藤がリコーダーを舐め回し、山田が机の上で踊り狂い、鈴木がオルガンに頬ずりをしている。それも、全力で。

 美しい満月に照らされながら踊り狂う彼らの姿を形容できる言葉を私が持ち合わせていないことがとても悔やまれた。

 「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 阿鼻叫喚の空間。地獄絵図。誰もいない校舎に、その声はこだました。

 

 校舎から北にまっすぐ、帰路へと入る。

 腕の時計を見ると、すでに十一時を越えていた。あの三人はどうなっただろうか。暗い夜道の中、教室のことを思い出す。

 「ふふっ」

 思わず笑う。自分の計画が上手くいった。その事実に喜びを感じたのだ。

 三人は綿密に作戦を建てたつもりだったかもしれない。よく調べ、よく考え、よく作られた計画だったかもしれない。

 しかし、彼らは何というか馬鹿だった。計画を建てることから始まり、事ここに至るまで失態を繰り返し続けた。

 彼らは、一度たりとも小声を使っていなかった。作戦はダダ漏れな上、校舎前でも五メートル後ろで隠れている私にまで聞こえる声で会議をしていたことに、彼らは最後まで気づくことは無かった。ゲラゲラ笑いだした時にはこっちが我慢の限界を感じたくらいだ。よって追跡は少し気を付ければ問題なく行うことができたし、その上での彼らの行動はしっかりカメラに収めることができた。

 そんなこととはつゆ知らず、彼らは自分たちの計画は問題なく終わったと思っていることだろう。達成感を、感じていることだろう。今宵の幕は下りた。そう思っていることだろう。

 ..............

 甘いよ。 

 私はズボンのポケットに手を伸ばし、携帯を取り出した。

 「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 動画ファイルを確認し、匿名掲示板へ貼り付ける。明日には、第二幕が始まることだろう。

 直後、着信音が鳴り響いた。

 番号をを確認し、電話へ出る。

 「お姉ちゃんだよ。うん。うん。終わったよ。心配しないでいいから。じゃあね」

 電話を閉じる。

 あの地獄の事は言わないでおこう。そう考えながら、空を見上げた。

 南で月の光と赤い光が上下で混ざり合うのが見える。

 「ふふふっ」

 二幕の序章を背に、私は闇の中へかけていった。

 


 

 


 

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