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秋祭り
作:与謝間 エマ


トコトントントン
トトトトトントン・・・トト・・・トントン

調子のはずれた音が聞こえてくる。

トントン・・・トコトコ・・トトン

どこの子どもだろう。
拍子感のない、懐かしい響き。
今年も祭りがあるのだと、少しうれしくなる。

そういえば久しぶりだ。
この数年、仕事で遅くなることが多かったから帰る頃には終わっていたのだろう。
祭りのことなどほとんど忘れかかっていた。

豊穣祭と言っても小さなこの村では太鼓とすすき提灯が出るぐらいで、華やかな夜店もない。
みんなで提灯の後をついて歩いて、村のやはり小さなお宮さんにお参りするだけのものだ。
それでも子どもの頃、私はあの音を聞くとなんだかワクワクして、この日だけはいつもなかなかしない宿題も早くに終わらせて、大人たちの後を付いて行った。
お宮さんに着くとすすき提灯でのパフォーマンスが始まる。大人数人で提灯を回転させたり、狭い境内を一周したり・・・。
じゅんくんのお父さんが上手だったっけ。
今は誰が回しているのだろう。

トコトコトトン・・・カカカ・・・

昼の間、祭り用の太鼓は子ども達の恰好のおもちゃだ。
家の前の道の突き当たった所に提灯と一緒に置かれていて、私もそれでよく遊んだ。
1年に一度しか出されないなんだか貴重な物のように思えて、決して乱暴に扱うこともなく、大人のまねをして叩いてみたりしていた。

トトトトン・・・

聞いているうち、久しぶりに見たくなってきた。少し気恥かしいけれど、行ってみようか。
早くも夕方の雰囲気の外を眺めて決心する。
夕ご飯を早めに食べていそいそと出かける準備、部屋着からジーパンに着替えていると母が「誰かと遊びに行くの」と訊いてきた。
「ちょっとね」私はごまかすように慌てて靴を履いて家を出た。

提灯の所まで、まだそれでも少し躊躇しながらゆっくりと近づいて行くと、幾つかの人影が灯に映し出されていた。
私の記憶の中のそれよりも気のせいか少なく思える。
気のせいだけじゃない。そう、この村も例外なく過疎化、高齢化が進んでいるんだ。
急に寂しさが胸に湧いてきた。
傍まで行くと誰かが頭を下げたのがわかった。私も軽く会釈する。
皆の顔が見えてきたが代替わりしていて、知っている者は2軒隣りのおじさんだけだった。
私が名乗ると、あぁあそこの娘さんか、と納得したように安堵感が広がった。
「さ、そろそろ行きましょうか」
今年のリーダーであろう40代に届くか届かないくらいの男性の声で「せいのっ」と提灯と太鼓がそれぞれ抱えられる。人数が少ないせいで心なしか重そうに思えた。
「あの、私も・・・」
恐る恐る言い出すと
「いや、ええよ。なんぼ歳やいうてもまだまだ女のもんには負けへん」
笑いながら、もう定年は越しているであろうおじさんに断られてしまった。

トトントントン
トトンカカッ

テンポ感のよいリズムが太鼓から繰り出される。
私達は提灯の歩みに合わせてゆっくりと村を歩いた。
普段よりもかなり遅い歩き方なので随分遠くに感じる。
途中他の垣内グループの提灯と合流してやっと村の神社に着いた。
そこには他の三つの垣内が先に着いて待っていて、私達が来たのを合図に提灯を回し始める。

「そーれ、そーれ」
トトトントトトン!

掛け声と太鼓に合わせて男達が回転の速さと派手さを競う。

「そーれ!」
トトトントトトントトトントトトン・・・

何回転も続ける鮮やかさに見ている者達が歓声を上げる。
まるでその雰囲気に飲まれるように釘付けとなっていた私はその回し手を見て息を呑んだ。
中学時代の日に焼けた笑顔がよみがえる。
汗のにじんだ、男らしく歯を食いしばって頑張る顔と重なっていく。
今から思えばなんて幼い、かわいい恋だったのだろう。
どんな理由でけんかしてそのまま離れてしまったのかすぐには思い出せないほど、自分勝手で、そして子どもだった。
だけどそれは、子どもでいられた最後の、大切な時間だったのだと今はわかる。
「あの兄ちゃん、毎年やりよるなぁ」
順番を待っている提灯持ち役がこぼした。
「毎年って、いつからですか?」
「んー、せやな、もう高校生くらいの時からやから大分やな。同い年か?」
うなずくと「そっか、若いもんはええな」とわかったようなわからないような言葉を残して、順番が来たのか輪の中へと戻っていった。
見るとあの提灯は出番を終えて皆が汗を拭いていた。

彼は、私がもうとっくに捨ててしまったものを、まだ持っていたんだ。
そう思うとなぜだかうらやましく見えた。

そうしているうちに私の視線に気付いたのか、彼がこっちに向かって手を振り出した。私が躊躇しているとじれたのかこちらに走って来た。
「よ、元気にしてた?」
近くで見るとあの頃の面影が懐かしさを連れてくる。
「うん・・・。そっちこそ元気そうで、よかった」
案外普通に返せたことに少しほっとする。
「どう、オレ結構頑張ってたやろ」
回す手振りに、変わってないなと気持ちがほころんだ。
「わりとかっこよかった」
「わりとはよけいや」
照れ隠しにつっけんどんに言ってから、今度の土曜日の夜ミニ同窓会するけれど来るかと誘われた。私も久しぶりにみんなに会いたいしなんとか空ける、と約束すると彼は「じゃ、また」とあっさり戻っていった。
なんだ、それを言いに来ただけか。
少し落胆気味の私がいた。


次の年も私はそこにいた。
でも、彼はそこにはいなかった。

と言うとなんだか彼に気の毒な言い方になってしまうけれど、転勤になってしまったのだ。
始めて回し手になったあの日から一度も休んだことがなかったのに、と彼をかなり落ち込ませた。
知らない所へ行く不安よりも祭りの方が気掛かりなのかと思わず笑った私に、真剣な顔をして彼は言った。
「オレの心の宝物やから」

その秋の祭りの日、オレの代わりに行って来て、と彼は私に無理やり休みを取らせ、そして私は祭りの映像をホームシック気味の彼に送った。


明日、行けるかな。
カレンダーを見ながら私はつぶやく。
「無理すんなよ。また来年こいつと一緒に三人で行ったらええやん」
と私の大きなお腹をなでながら彼が言った。
「宝物じゃなかったん?」
私がそう言うと、覚えてたのかと少し驚いた顔をする。そして「もうひとつ増えたから」とあさっての方向を向いて答えた。

トコトントントン・・・

今年もまたあの太鼓の音が聞こえてくる。





















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