トイレとこけしの昔話
私はぼんやりと昔話を思い出していた。
あれは私が小学生だった頃・・・
私の小学校にも学校の怪談があった。動く理科室の人体模型、勝手になりだすピアノ、そしてトイレの花子さん。
とりわけ私の小学校ではトイレの花子さんが話題の中心だった。
「花子さんを呼び出して花子さんに会えると願いを叶えてくれるだって・・・」
「でも私、失敗すると死んじゃうって聞いたよ?」
私もそんな話を聞くのが好きだったので、話に混じっては盛り上がっていた。
そんな中、事件が起きた。
事の始まりは、私の友達がトイレの中で姿を消した事だった。
友達がトイレで姿を消すちょっと前、私たち二人はトイレの花子さんを呼び出していた。
三回ノックをした後、わくわくとドキドキの入り混じった不思議な気持ちでトイレのドアを暫く見つめていた。
だが何も出てこなかった。
そして、しびれを切らした私の友達は、怯える私を置いて個室の中に入っていってしまった。
その瞬間、友達の小さな悲鳴が聞こえた。
私は急いでドアを開けたが、そこにいるはずの友達はすでにいなくなっていた。
私は驚いてその場から飛び出してしまった。
少し経って落ち着いた頃、誰かに助けを呼ばなきゃいけない気がしてきた。
急いで職員室へ走り、事情を説明した。
私の必死の声色に先生たちは耳を傾けてくれた。
私達の担任は一通り私の話を聞いたあと、首をかしげていた。
「そんな名前の女の子、うちのクラスに居た?」
何度説明しても理解してもらえなかった。
私は担任が呼び止める声を無視して職員室を飛び出していた。
その後、クラスメイト、私の両親、その友達の両親にも聞いたがみんな言うことは同じだった。
誰も私の友達のことを覚えていなかった。無駄だと悟った私は口を開く事をやめた。
そして私も友達を忘れる事にしようとした。
ショックで一週間ほど学校を休んだ私だったが、心配する親の顔を見るのが辛くて登校した。
学校では一週間前まであれだけ流行っていたトイレの花子さんではない、ある話で盛り上がっていた。
私の友達が消えたトイレに一週間前からこけしがあると言う。
誰が持ってきたのか、何のために置いたのか検討もつかない。
そして不思議がもう一つ。
そのこけしは先生たちには見えていないのだ。
なので、先生たちは生徒がいたずらであることないこと言っている、と片付けたようだったが、生徒の間ではその話題で持ちきりだった。
そしてその日の放課後。
その気味が悪いこけしをみんなで撤去しに行くことになった。
みんなが使うトイレだったし、みんな気分が良くなかったのだろう。
女子みんなでトイレに押しかけたが、いざ目の前にすると思っていたより気味が悪い。
暫くみんな手を出せずにいたが、女子のうちの一人がついに動き出した。
みんなが止める暇もなく、窓を開け、こけしを窓から投げ捨てた。
思いの外軽い音が聞こえた後、前方にいた人がのぞき込んだが、どこにもこけしは見当たらなかったようだ。
こけしを投げ捨てた少女は、世界を救った英雄のように褒め称えられていたが、
私は、我慢できずにトイレのドアを開けてしまって消えた私の友達と、我慢できずにこけしを投げつけた少女が重なって見え、妙な胸騒ぎがしていた。
次の日学校に行ってみると女子達が騒いでいた。
嫌な予感は当たるようだ。
やっぱりあのこけしを投げた少女が消えてしまっていた。
私の友達の時と同じように、先生も、その子の親もその子の事を覚えていなかった。
ただ、あの時トイレにいた女子達だけははっきりと覚えていたようだった。
そして、いつの間にかトイレのこけしは2つになっていた。
あまりに騒ぎが大きくなったので、先生たちはあの女子トイレを立入禁止にした。
それでもみんなは落ち着かなかった。
その日の放課後、家に帰った後、私は考えていた。
私の友達はどこに行ったんだろうか、なんで消えたのだろうか、なんでみんな忘れてしまったのだろうか。
考えてもわかるはずがなかった。
でも、ひとつだけ答えを知る方法があった。
トイレの花子さんに会う事だ。
会えば願いを叶えてくれるとクラスメイトも言っていた。
いきなりドアを開けてしまった友達も、こけしを投げ捨ててしまったの女子も、おそらく花子さんの逆鱗に触れてしまったのだろう。
だとすれば正しい手順を踏めば彼女たちを助けられる、あるいは何かがわかるかもしれない。
だが失敗したら・・・考えたくもなかった。
幸いまだ学校は開いているはず。
トイレは立入禁止にしたと言っても、鍵をかけたりしたわけじゃない。入ろうと思えば入れる。
「どうしよう・・・」
私の心の中で天秤が揺れていた。
・・・そこまで思い出したあと、私は昔話を思い出すことをやめた。
今更考えたって過去をやり直せるわけでもない。
トイレで友達を失った私は、ひとりぼっちになってしまった。
あの友達がいないなら、これからもひとりぼっちだろう。
あの日の放課後に違う決断をしていたなら、犠牲を受け入れる勇気があったなら、少なくともひとりぼっちではなかったのだろうか。
私は後悔し続ける。
今の私には助けを呼ぶ声も、縋り付く腕もない。
誰も来なくなったトイレで、私は後悔し続ける。
ありえないけどあるかもしれない
そんなことを書きたかった
確かめようもないよなクラーい話が大好物です
これもそんなふうに見られてるといいなー
ありえないなら妄想すればいいじゃない!