後編〜真の勇者誕生!
『さ〜あ、ご来場の皆様!今年もやってまいりました!お待ちかね、ミス東都大学コンテスト〜!!!』
『うおおおぉぉお!!!』
『例年通り、事前投票で選ばれました7名と、今年は一般から3名がエントリー!この3名はいずれも、東都大内にて本日スカウトした方々で〜す!皆様、お手元に投票用紙はお持ちですか〜!?一番気に入った女のコの名前を書いて、投票して下さいね〜!選ばれたミス東都からは、皆様にびっくりイベントがあるかもしれません!最後まで!楽しんでくれよ〜〜〜!!!イェア!』
『うおおおおおおぉぉぉ!!イェア〜〜!!』
『早速行くぞ━━━!皆、テンションあげて!トコトンついてきやがれ━━━━!!エントリーナンバー1番〜………』
(……仲田、ヒト変わっとるやん)
背後からの鬼気迫る光景と萌えオーラに、平次はダラダラ冷や汗を流す。
目の前では次々と女のコが、仲田を相手にプロフィールを話し、特技を披露していく。日舞、ダンス、暗記、ピアノ……そのたびに背後からの大歓声……
大本命とかいう椎名も、一際大きな歓声を浴びて登場した。お嬢様風の上品な服装に、アクセサリー。化粧はしっかりしているが派手ではなく、本当に守ってあげたいといった印象だ。一瞬平次と目があった様に思ったが気のせいだろうと、引き続きステージを見上げる。
(オレ、この雰囲気、最後まで耐えれるやろか………)
思わず青い空を見上げた。
『さ〜あ!いよいよ最後の一人となりました!エントリーナンバー10番、灰原哀ちゃんで〜〜〜す!!』
瞬間、会場がザワリと揺れた。
次いで、感嘆の溜め息、歓声、幾多ものフラッシュ音───
視線は、ステージ上に立つ、その華奢な姿に注がれていた。
大人になりきれていない、少女の姿。
整った、ミステリアスな顔立ち。抜ける様な白い肌。
柔らかな陽に映える、赤みがかった髪は背の半ばまでを流れている。
落ち着いた緋色のワンピースに、襟元に白いファーを巻き、細い足にぴったりとしたブーツは編み上げになっており、彼女の仕草にあわせてリボンがひらひらと揺れている。
きっと大人になったら壮絶な美人になると思われるその姿は、今は知的で儚く清楚な印象を与えた。
ステージの真ん中に立ち、真っ直ぐ前を見る。会場に溢れんばかりの観衆を相手に、全く怯む様子はない。
(うわぁ〜たまらん、持ってかえりたいわアレは…他の女らより断然可愛いんちゃうか〜)
ステージ上では、仲田と哀が淡々とプロフィールを話している。
(……そういや特技披露って何やるんや?まさか研究論文や開発した薬発表する訳にはいかんやろし、銃の腕披露する訳にもなぁ……他に何かあったか??知らんねんけど……)
『では哀ちゃん、特技って何かありますか〜?』
『特に……』
『そう言わないで!何かあるでしょ?(ボソリと小声で)良いよこの際、九々の暗唱でも…フォローするから!』
貴方、私を馬鹿にしてるの?という冷たい目線が仲田に注がれ、平次も苦笑いを漏らす。九々どころか、哀は円周率をエンドレスで暗唱できる。本当にどこまで憶えているのか謎だ。ただ、以前一度実践された時には、余りの眠気に3時間程でリタイアしてしまった。
『………そうね、じゃあ………』
哀は軽く首を傾げて、会場を一通り見渡す。
『怪盗キッドとお友達』
「「「『はあっ!??』」」」
『な〜んてね』
『もうびっくりしたよ哀ちゃん〜冗談やめて特技披露の話なんだけどね…』
「お呼びでしょうか姫君?」
突然広がる真紅の薔薇吹雪。刹那ステージが覆われ、晴れたその先には──────
「「「『か…怪盗キッド!!??』」」」
風にたなびく白いマント、シルクハット、上げた顔にはモノクル。口元にはいつものシニカルな笑み。
伝説に名を残す名怪盗、正式名称『怪盗1412号』、“月下の奇術師”こと怪盗キッドがその姿を現していた。
最近は以前ほど人前には現れず、盗みもするがそれは決まって悪人からであり、逆に警察に協力して凶悪犯罪を解決する事もある。謎だらけの鮮やかなる怪盗に、ますます熱狂的なファンは増えている。
事実、会場はどよめきと黄色い歓声に溢れんばかり。
「キッド!?あんクソボケ何を…!」
哀に駆け寄ろうとした平次だが、後ろから観衆に押されて身動きがとれない。
ステージ上では、呆然とする仲田をよそに、キッドが跪き、哀の手に口付けを落とす。観客達の悲鳴が更に大きくなる。
『あ…あの、本物?』
マイクを向ける仲田に、(勇者だ仲田!)と観客一同。
『ええ、勿論です。月夜の晩ではありませんが、愛しの姫君のお呼びとあらば、何処にでも参上致します』
『ま…まさか!彼氏なんですか━━━!?』
仲田の叫びに、会場が騒然となる。天下の東都大のミスコンとあって、相当な数のマスコミもいたのだが、スクープ!とばかりにフラッシュをたき、出版社やテレビ局に連絡している。皆一様に脳裏に浮かぶのは(キッド初の私生活暴露!恋人宣言!?)だったりする。
『いいえ、私はとるにたらない憐れな怪盗…何年も一途に愛を囁いているのですが、なかなか私に応えて下さいません』
言いながら手元からポンポンと真紅の薔薇が飛び出てくる。それはやがて花束の大きさになり、何処から出したのか大きく柔らかなレースで薔薇をくるみ、リボンを結わえ、哀に恭しく差し出す。
『私の、たった一人の姫君に…』
キャ━━━━━━━!!!!
もはや収拾がつかない。キッドは『ではまた月夜の晩に』と哀の頬に口付けを落とし、薔薇の煙幕と共にステージから消えた。
太陽は早、西に傾きつつある中、東都大のメインキャンパスは引き続き濃い熱気に包まれていた。男女問わず、興奮気味に周囲と語り合う姿がいたるところで見られる。噂が噂を呼び、白い怪盗を見逃した人達も集まってきて、とんでもない状況になっている。
『え━━━、かつてない盛り上がりを見せた、東都大学祭メインイベント・ミスコ〜〜ン!皆様大変長らくお待たせしました!集計結果発表で〜す!!』
どよめき、拍手に口笛、沸き起こる歓声。仲田君素敵〜と便乗声援まで飛び交い、ありがとう!と応えて手を振る余裕の司会者。本当に過去例をみない盛り上がりだ。
『栄えある、本年度ミス東都の栄誉を掴んだのは━━━━エントリーナンバー10番!灰原哀ちゃ━━━ん!!!』
割れんばかりの拍手歓声。
舞台上では、本命と言われていた椎名が微笑みながら拍手を送っている。
目を見開き驚く哀の頭上にティアラが置かれ、緋色のマントにトロフィーが渡される。仲田から受け取った花束と、キッドから受け取った薔薇の花束の両方を抱えた哀が、柔らかく微笑んだ。
『では、本年度ミス東都からのびっくりイベント!!このステージからミス東都を、お姫様抱っこして退場だあぁぁぁあ!』
『おおおぉぉぉぉ!』
『その勇者は、ミス東都ご指名の者ただ一人!さぁ哀ちゃん!ご指名ドゾ━━━!!』
会場が固唾を呑む。誰だ?俺か?いやオレだよ!こっち見て!もしやまたキッドが出て来るんじゃあない!?様々な憶測をよぶ。
コショコショコショ…
哀が仲田の耳元で囁く。その状況ですら、男性観客からブーイングが起こる。
『ハ〜イ!ご指名!我が大学きっての有名人の一人!東都大4年、服部平次君!!君が勇者ダ━━━!!』
地鳴りのような歓声悲鳴ブーイングの嵐の中、周りから揉みくちゃにされ小突き回されつつ、平次はステージに飛び乗る。
哀は目の前で可愛らしく小首を傾げる。本人無意識の仕草に、平次は何も言えずにこっそり溜め息を吐く。
「……運んでくれる?」
「…当たり前やろ?いちいち確認するコトかいな」
よっこらせ、と羽根の様な身体を抱き上げる。
『ミス東都!彼を勇者に選んだ理由は!?』
マイクを向けられ、哀は少し考えて…
『いつも抱いてもらってるから』
────雲一つない青空の中、学生達の歓声悲鳴絶叫が響き渡った────
「あ〜も〜なんやこの騒ぎ…多分コレ今晩のトップニュースちゃうんか?」
あれから平次と哀はあらためて学内を散策しているのだが、注目されること注目されること。行く先々で『あ』やら『近くで見るともっと可愛い〜』とか『ロリコン』(!?)やら『付き合って下さい』(寝言は寝て言えドアホ)とか………平次の両手には、屋台の店番の野郎共から哀への、下心と愛のこもった捧げモノ(ヤキソバやらたこ焼きやらクレープやら)がぶら下がっている。
「……大体、最後のセリフってなんやねん……明日からめっちゃ大騒ぎやねんけど……」
「あら、本当の事じゃあない?出会ってから何度、頭を撫でられ抱き上げられ添い寝され………」
「もーエエ。オレが悪かった。謝る。明日からの荊の道も耐えたるわ」
男や服部平次。人の噂も45日…あれ?75日?どっちゃでもえぇわ100日以内やろ。直ぐや直ぐ。
遠い目で空を眺める。
「…しかしなんやねんアレ、キッドと打ち合わせとったんかいな」
「そんな訳ないじゃない」
「その割にはなんや、計ったようなタイミングやったでアレは」
哀の台詞と共に登場したキッド。まるで哀を見守っていたかの様な…
「………なんだか、あの場に、彼がいる様な気がしたの」
まただ。
平次の脳裏に、あの怒涛の日々が蘇る。工藤の傍に寄り添う哀───それを見守っていたキッド。
いつもそうだ。哀とキッドと工藤───彼らにしか分かち合えない何かがあるのか───
平次は少し、取り残された気分になる。
最後に哀が頼るのは、自分ではなく、工藤やキッドなのかと。
「服部君?」
無言になった平次の袖を、哀はくいくいと引っ張った。
少し躊躇い、そっと口を開く。
「今日は、楽しかったわ?呼んでくれて、一緒に歩いてくれて、ありがとう」
(─────アカン、泣きそうや)
心の中にあった何かが取り除かれて暖かくなった様な気がする。理屈じゃない、これから何度も、何度も何度も同じ事で悩んでも、たったこれだけで────彼女のほんの一言だけで自分はきっと大丈夫だ。
「───どういたしましてやな。けどな、今日は一日まだ終わってへん、なんやかんやで全然回れてへんし。工藤にも会いにいかなオレ殺されるわ。後夜祭もあるし一緒に参加していったらエエ。なんたって『ミス東都』や!夜遅なっても帰りは、この紳士で勇者なオレが家まで送ったるから。安心して任せぇな」
「ええ、ありがと」
───でも、家隣りじゃないの。送るんじゃあなく、二人一緒に帰るのよね?
哀は軽やかにクスクス笑う。
両手の塞がった平次のかわりに、きゅっと平次の袖を握る。
隣で柔らかく微笑んで、そっと見上げてくる。
平次は優しく笑って哀の仕草に応えると、ゆっくりと歩き出した。
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