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夏霞
作:高音永奈



暑い夏。
今年は特に暑いと思う。





「あー、あちー」
回る扇風機の前に座り団扇を仰いでかなりの風を受けながらも、雨見遥あまみはるかは一人暑さにうなだれていた。
暑さを倍増させるような肩につきかかった黒い髪が、風になびく。
一番暑い時間帯に兄とのくだらない口喧嘩をし、クーラーの部屋に居る事すらままならなくなってしまった。
「あのクソ兄貴……」
兄への不満を口々に言いながら、遥は飲み物欲しさに部屋を後にしようとする。

バコッ。

遥の手がドアノブに届く前に、ドアが開いた。見事に扉は遥の額に直撃する。
「ってー」
「兄に対して、酷い扱いだな」
「…………何」
先程の口喧嘩を思いだし、機嫌が一気に悪くなる。それを見越していたのか遥の兄、春日かすがは笑いを堪えて遥を見据えた。
「客だぞ」
「この暑いのに?」
「……母さんがインターフォン越しに出たら、未来だったみたいだ」
遥から深い溜め息が漏れた。くされ縁のあいつには、遥の都合なんて関係ないのだ。

階段を駆け降りて、玄関で立っている沖田未来おきたみらいの焦茶色の髪が目に入る。手には長く太い丈夫そうな棒、首にはタオル。
足元には――スイカ。

「未来、何それ」
「あっ、遥! これからイベントやるから! レッツエンジョイ!!」
「やだよ。この暑いのに」
未来を相手にするのが嫌な遥は、階段を再び上がって行く。スイカと棒は玄関に放置したまま、未来は遥を追って階段を駆け上がる。
「ちょっとはーるーかぁー、いいじゃん! って、あーっ、かっちゃん!!」
「久々だな、未来」
遥の部屋の前に立って遥を部屋に入れまいと腕を掴んでいた春日と、楽しそうに未来は話し出した。
「兄貴に一緒にやってもらえば?」
春日の腕を意地でも振りほどき、遥は体が解放された気分になる。
「えー、遥じゃなきゃ意味ないのに」
未来の言葉なんか聞こえなかったふりをして、さっきまでの空間に戻る。飲み物を取りにいったはずなのに、忘れていた。暑苦しいこの空間に、正直水分は欠かせないのだが。
「遥ー」
「入ってくるな、暑くなる」
鍵をかけない遥も悪いのだが、生憎この部屋の鍵は外からも開けられるようになっているため、かける事事態が無意味なのだ。再び扇風機の前に座った遥は、一人暑さと戦っていた。
「遥ー」
「あー、しつこいよ、未来。兄貴にやってもらえって」
遥が右手であっちに行け、という仕草を起こす。
「かっちゃん、もう下に行っちゃった」
「そう、じゃあいい加減帰れ。しつこい奴は嫌われるぞ」
「えー……」
体が重くなったかと思うと、後ろに感じる体温。
気付けば、未来により両脇を引っ張られ、立たされていた。
「遥に断る権利なんてないの、小さい頃から分かってるはずでしょ? いくら断ったって、遥は僕に付き合うしかないんだよ?」
遥から腕を放し、未来は微笑む。それは遥に対して無敵な心を持った、未来の余裕。遥は決して未来には敵わない。
「それは、今までの話。だけど、お前が暴走すると周りが迷惑だからな」
「分かってるんだったら、遥が付き合うしかないっしょ?」
ここまで言われて、遥が断れる訳がなかった。



* * *



「ここ、」
「ん?」
「学校じゃんか」
一番暑い時間帯を過ぎた頃。それでも、涼しいとは言えない。太陽の下に連れ出されたかと思えば、いつも通っている学校の校庭だった。
「この暑いのに、よくもまぁ……」
「はい、これ持って」
スイカと棒を軽々と持って来ていた未来はスイカをビニールの上に置き、棒だけを遥に手渡した。
「何これ」
「棒」
「見りゃ分かる」
「……物分かりが悪いなぁ、遥は。スイカがあるんだから、スイカ割りに決まってるでしょ」
本日二度目になる、深い遥の溜め息。未来は考えている事が、少し遅れているというかなんというか。
「だからって、学校でやる事じゃないだろ」
「学校だから楽しいんじゃない」
ほらほら、と未来が首にかけていたタオルを遥の目へと当てて、頭の後ろできつく結んだ。
「綺麗に割ってねー」
「だったら自分でやれば?」
「いやー」
笑い声が聞こえてくる。
それが、何だか心地好く感じる。校庭を回わっている風が、暑さの中で頬をかすめる。
「言ってくれなきゃ、位置分かんないんだけど」
「そっかー、じゃあ右?」
「じゃあってなんだ? 何で疑問系なんだ!?」
前が全く見えない遥は、未来を頼りにするしかないというのに。
「外すぞ」
棒から手を放し、タオルに手がかかる。
「分かった、分かったから。続きやろ」
「優柔不断にも程があるな」
未来の静止の言葉に素直に手探りで棒を拾い、遥はそのまま進み始めた。
「右ー、そのまま真っ直ぐ。――――ストップ」
「ここでいいのか?」
「うん、そのまま下ろしてー」
棒を下ろせば、先端辺りに当たった感触。棒を投げ捨て急いでタオルを取れば、見事に割れたスイカ。
「遥、下手ー」
「とか言いつつ食べてるじゃん」
まばらに割れたスイカの欠片を拾い、既に未来は美味しそうに食べ始めていた。
「遥も食べよ」
「ん」
未来よりも少し小さな欠片を手に取って口をつけると、甘さが口の中に広がった。水分を求めていた遥に、甘さと同時に水分も吸収された。

「甘い」
「でしょ」

そう言って、未来はまた笑った。ああ、そういえば。未来の笑顔を見て、いつも何かを感じてる。

「遥と一緒だから、」
「え?」
「楽しいよ」

一つ目のスイカを食べ終り、未来は次のスイカへと手を伸ばす。先程の倍くらいあるにも関わらず、躊躇ためらいもなしに未来はかぶりついた。

「俺も」

安心感が湧いている。未来の笑顔を見ると。それがきっといつも感じているものの正体。

「日が沈むねー」
「もうそんな時間か」

未来が指差した方を見れば、赤く染まる空。真っ赤な夕焼け。

「遥があんな抵抗するから、こんな時間になっちゃったんだよ」
「久々だなー、未来とこんな時間に一緒にいるのはー」
「遥、今話反らしたでしょー」

目線を合わせない遥が気に食わないのか、スイカを放り出して未来は遥へと飛び付く。
「おい、未来!?」
「話反らした罰ー」
「……重いから」

分かったよー、と小さく文句を呟いたかと思えば、遥の隣へと立って。

「明日もやろっかー?」
「断る」
「何でさー」
「暑いから」
無言で未来の手が先に動いた。頭を抱えこみ遥は未来に向かって言う。
「何で叩くんだよ!」
「暑いのは、夏なんだから当たり前」
「……そうだけどさ」
「じゃ、明日はプールでも行こっかー」






それもいいか、と思った遥の負け。






夕日色に染まった空を見ながら、明日も君の笑顔が隣にあれば良いと思った。








私生活の方が忙しく小説を書きたくても書けなかった高音です。

えーと、どうだったでしょうか? 暫く此方から離れていたので、リハビリ小説とも取れるものです。小さなネタだったものを、ここまでするには今の高音には大変でした(汗)無事に書き終えるのか不安でしたが、なんとか書き終えました。

高音にとって初めての作品二人なので、なんだかんだ言いつつ思い入れが大きかったりします。

これからまたこちらの方に戻ってこれそうなので、取り合えず連載完結を頑張ります。

こんな奴ですが、よろしかったら評価、感想お願いします!















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