1回5円の刺激
八丁堀駅の深いところで「1回5円の刺激」というお店があり「1回5円とはどんな商売だろう。」と思いながら入ってみた。
中にはサンバイザーをした老人とベッド1台があるだけだった。
老人は俺が出した料金を受け取りベッドに寝るように促した。
老人の求めるままに行動したが1秒もかからずに起こされた。
何をしたのか聞く暇もなく店を追い出された。
1回5円ともなればそんなものなのだろう。
特に期待はしてなかったが効果は翌日から出てきた。
俺は仲間と一緒にバンドを組んでいる。
1回5円の店に入った日もライブハウスで演奏をしたが、入った客は十数人程度で、大半に野次られた。
しかし今日はそれなりの人数が入っている。
きっと他の出演者目当ての客だろうが、自分たちの演奏は以外にも客に受けた。
その後は演奏をする度に客の受けもよくなり、客の人数も増え、レコード会社の契約にまで至った。
契約後すぐにツアーを行い、CDも出した。噂が噂を呼び、テレビに出演したり、フェスに出演したり、挙句の果てに、海外にまで自分たちの名前が知れ渡るようになった。
海外に進出し、石ころが地面を転がるように世界中を移動した。
毎日楽しく、夢のようだった。
ある日いつものように目を覚ますと、白い個室のベッドの上だった。
外から入ってきた看護師のような者と目を合わせると、物凄い形相で外へ駆け出した。
聞いた話によると俺は八丁堀駅で横たわっていて5年間ほど意識がなかったらしい。
やはりあれは夢だったようだ。
その後体調が悪くなることもなかった。
俺が意識不明になっている間にバンドは解散、メンバーとも連絡が取れなくなっていた。
とりあえず仕事に就こうと思い就職活動を始めるもどこにも雇ってもらえず。
住む家もなく食べるものもなく外を徘徊する毎日。
俺が生きる道を間違えたとしたら1回5円の店に入ってからだろう。
店の雰囲気を察して店に入っていなければこんなことにはならなかったかもしれない。
しかしあの店に入ってから楽しい経験もした。
人生を終えそうになっている今、不思議と満足感だけが残った。