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FRIENDS〜フタリノカタチ〜
作:天千代



Scene 1 いつかのメリークリスマス


三年前、冬。

ゆっくりと十二月の明かりが灯り始め、慌ただしく踊る街を誰もが好きになる。

そんな街中を眺めながら、仕事を定時で切り上げていた僕は渋滞に捕まったタクシーの中にいた。

「お客さん、すみませんねぇ。この時間いつもこの道渋滞なんですよね。」

すまなそうにタクシーの運転手が、フロントミラー越しに僕を見た。
僕と同じくらいの歳だろうか?
若い感じの運転手だった。
時計を見ながら僕は運転手になんとかならないかとお願いしてみた。
運転手は少し顔をしかめながら言葉を返して来た。

「だから、ちょっと前の交差点右折しますか?って聞いたじゃないですか。だいたい…。」

話、というか愚痴が長くなりそうな運転手。
店はもうすぐというところでの渋滞だった。
時間がなかった。とりあえずもったいないけど、店に間に合いそうになくなるのは避けたかった。

しょうがないと自分に言い聞かせてここで降りることにした。

「まいど。」

釣りはいらないと告げるとニコニコする運転手を尻目に、僕は肌寒い舗道で一息ついた。
そのまま店へ向かい走り始めた。

5分は走っただろうか?だんだん吐き出す息の量が多くなっていく。
確かこの角を曲がったところにあったはず。
彼女とこの間通った道だから間違いない。

記憶を辿って店の前に着いた時にはもう全身がクタクタだった。
さすがにくたびれて店の前で息をついていた。
その時、店主らしき小父さんがシャッターを閉めるために外に出てきた。
小父さんと目が合う。

「えっと、お客さんかな…?今日はもう店閉めるんだけど、欲しいのでもあるのかい?」

少し困っていた小父さんに無理を承知でお願いした。
店頭に飾ってあるアンティークな椅子が欲しい、と。
小父さんは少しうーんと考えていたが、にっこり笑って口を開いた。

「わかったよ。でも、現品限りだけどいいかな?」

大丈夫です、と言おうとしたが息があがっていたせいで、自分でも何を言っているのか解らない言葉を発していたみたいだ。

「ははは。まず、ちょっと落ち着いたらどうだい?まってなさい、今水もってきてあげるから。」

息が切れて一杯一杯な僕。
小父さんが笑いながら店の奥へ消えていった。
でも良かった、何とか間に合った、と僕は一安心していた。

「ほら、お水どうぞ。」

小父さんが水を持ってきてくれた。
僕はお礼をして、自分を落ち着かせていた。
一息ついて僕は忙しいのにすみません、と切りだした。
ニコニコしながら小父さんはエプロンの紐を締め直して僕に答えた。

「大丈夫だよ。えっと、ショーウインドーに飾ってる椅子だったよね?」

首を縦にふると小父さんも頷いた。
小父さんと会話が続いたが、適当に相槌をうっていた。

「そうか。いいねぇ、僕にもそんな時期があったなぁ。今じゃすっかり昔だけどね。」

少し照れながら彼女にプレゼントをあげることを話す僕に、
小父さんが冷やかしをいれながら慣れた手つきで椅子を持って帰れるようにしてくれた。
椅子の代金を支払うと、小父さんが見送りのために外まで見送りについてきてくれた。

「ちょっと重いよ?大丈夫?」

小父さんが心配そうに僕を見る。
電車で帰るから大丈夫、と話すと小父さんは微笑んでくれた。

「そうかい、気をつけてね。じゃあ、素敵なクリスマスを。」

メリークリスマス、と挨拶を交わして僕は駅へ向かった。
ちょっと重い荷物だが、それほど苦にはならなかった。
電車の椅子に座り揺られながら荷物抱えている僕。
いろんなこと考えていた。
幸せなんだな、
って。

目的の駅に着くと彼女に今帰るね、と電話で連絡。
鼻歌でクリスマスソングを歌いながら、
線路沿いに続く道を家へ到着。
まあ、家といっても彼女の家へ、なのだが。
彼女のアパートへ到着すると、家のドアをあけて荷物を降ろし、ただいまと部屋に入る。

「おかえり。ご機嫌じゃない?いいことあったのー?」

キッチンの方から彼女の声が聞こえた。
もう夕食の時間だった。
僕は早速買ってきた椅子を用意する。
彼女にリビングにこれないか?と呼びかけた。

僕の問い掛けに彼女が答える。

「ん?まって。今、火止めるから。」

彼女はエプロンを外しながらリビングへ入ってきた。

「なーに?どうしたの?」

僕は誇らしげにプレゼントの椅子を彼女に見せた。

彼女は椅子を無言で見つめる。
不安になる僕。
だが、彼女は僕に笑顔を見せてくれた。

「欲しかった椅子じゃない。高かったでしょ、これ?」

彼女に心配されたが、プレゼントは気持ちが大事だろ?って僕は笑いながら言葉を返す。

「…そだね、ありがと。」

彼女は笑顔のまま、そっと目を閉じた。
僕も目を閉じ、彼女を抱き寄せて唇を重ねあう。
静かな部屋に響くのは、ボリュームを下げたTVの音だけ。
ちょっとの時間だけだったが、静かに目を開けて二人は微笑む。

「晩御飯、食べよっか。」

彼女自慢の手料理を堪能し、いつものようにどうでもいいような話で盛り上がる。
ずっとこんな日が続いたらいいな。なんて、少ししみじみしてしまった。
しばらくすると、彼女がケーキとワイン、グラス一式を持ってきた。

「クリスマスケーキ、食べる?ワインも一緒よ。」

僕は笑顔でうなずく。

「じゃあ、今二人分にわけるね。」

彼女がケーキを小皿に取り分けてくれた。
僕はワインの栓をあけてそれぞれのグラスに注いだ。

「じゃあ乾杯、だね。」

ちょっとまって、と僕は部屋の照明を落とし、用意した蝋燭に火を灯した。

綺麗なオレンジの光りが二人を優しく包む。
優しい光だった。

彼女がつぶやいた。

「綺麗…。いい感じだね。」

彼女が僕に微笑みかける。
そうだね、と僕も彼女に微笑みを返した。

「じゃあ、メリークリスマス。」

二人でメリークリスマスと言葉を交わし、ワイングラスを重ね合わせる。
小さく重なるグラスの音が、なんだか素敵に、それでいて切なく聞こえた。

「ねぇ?」

彼女が僕の手を取った。

「踊ろっか?」

いいよ。と僕も彼女の手をとる。
二人が出逢った頃よく踊っていたダンス。
二人とも酔っていてステップはおぼつかなかった。
しばらく踊ると、疲れた僕はソファーに腰掛ける。

部屋を染める蝋燭の火をずっと見ていた。
彼女を見つめながら、思わず僕は口に出した。



離れることはないよ、
ずっと。



彼女はじっと僕の目を見て、笑顔でうなずいてくれた。
二人にとって幸せな夜、でも僕は。



何故だか解らないけど、
泣いてしまった。



いつまでも手を繋いでいられるような気がしていた。
何かもが煌めいて、がむしゃらに夢を追い掛けた。

喜びも、悲しみも全部分かち合う日が来ること。
思って微笑みあっている、色褪せたいつかのメリークリスマス。

君がいなくなることを始めて怖いと思った。
人を愛するということに気がついたいつかのメリークリスマス。



それから、数年後。
また、クリスマスが近くなり街が賑わいを見せている。
僕は信号街の交差点で白い息を眺めながら、幸せだった日々をなんとなく思い返していた。

彼女とは二年前に別れた。
今は『いいお友達』。
なんとも都合のいい言葉だ。
別れた直後はお互い忙しいけど、時々は電話で会話はしていた。

お互いが嫌いになったわけじゃない。
ただ、お互いが恋人としてやっていくには少し出逢ったのが、恋人として付き合うのが早かったというのが二人で出した結論だった。

簡単に言えば、それぞれにやりたいことが見つかり、
追い掛けたい夢が強くなってしまった。

彼女はアパレル業界のバイヤーとしての自分の地位の確立のため。
僕は、ミュージシャンとして華やかな舞台に立つ夢。
そのためにはいろんな勉強が必要で、二人が恋人でいるにはいろいろと障害がおきてしまい、このままだとお互いが傷ついて駄目になると、
彼女が切り出したことだ。
それにも僕は納得した。

…というのは建前で、多分、お互いに自分のやりたいことに逃げ道を作りたくなかったんだなと思う。
本気でやりたいことが見つかった、そういうことになるのだろうか?

僕は、今も彼女を好きだ。
だけどその『すき』な気持ちは、LIKEともLOVEとも言えない。
彼女もきっと同じくらいだと思う。

でも互いに好きでいるのは同じ。
別に恋人というカタチじゃなくてもいい、
友達というカタチでもやっていけるんじゃないかって、彼女は前々から思っていたらしい。

お互い同意のもとで、別れようということになった。
今までありがとう、と最後に交わしたKISS。
なぜか今までで一番暖かいKISSに感じた。

彼女の温もりを感じながら僕は思った。
あの時のクリスマスに流した涙はきっと、こんな日がいつか来るのが怖かったからだ、と。

KISSのあと、僕も彼女も微笑んだ。
涙が出ることはなかった。
今までで一番つらい失恋だったはずなのに、不思議な気持ちになった恋の終わりだった。

信号が青になる頃、ふと我に帰って苦笑いした。



そんな立ち止まってる僕の側を誰かが足早に通り過ぎる。
荷物を抱え、幸せそうな顔で。



そんな知らない誰かが幸せになるように願いながら、僕は寂しく家路を急いだ。

友達になってしまった『彼女』に、久しぶりに電話してみようと思って。

心なしか、懐かしい気分になった。



…わかってる。
完全に僕の罪なんだ。
罪が、始まって繰り返す。












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