100万回生きたいぬ
100万回生きたねこには まけない。
100万年も しなないであろう いぬが いました。
100万回も しなず, 100万回も 生きられるそうなのです。
あるとき, いぬは 王さまの いぬでした。
いぬは,王さまが だいすきでした。
王さまは せんそうが じょうずで, いつも せんそうをしていました。
そして, いぬを りっぱな かごに いれて, せんそうに つれていきました。
いぬは 王さまのために, へいたいの せんとうを はしっていました。
ある日, いぬは とんできた やに あたってしまいました。
しかし, いぬは よゆうをもって いいました。
「おれは, 100万回も いきられるんだぜ。 こんなの いたくもかゆくもないよ!」
王さまは 舌うちをして, へいたいに いぬを はこばせました。
「まってくれ。 おれは, 100万回も・・・・・・。」
しかし, その声が へいたいに とどくことは ありませんでした。
へいたいは, いぬのことばを りかいできないからです。
そのうち, 声も ろくに出せなく なってしまいました。
へいたいは, とくに なんのかんじょうも もたず, いぬを つちのなかに うめました。
そして, ここからが いぬにとっての じごくのはじまりでした。
いぬは, 100万の いのちを もっています。
ですが, やにうたれた からだが もとにもどるわけではありません。
どこかの ねことはちがって, どこかへと うまれかわるわけでもありません。
いぬは毎日, からだじゅうのいたみで もんぜつしていました。
つちのなかにいる ちいさいいきものが からだを くいちぎるたびに,
声にもならない うなり声を あげるのです。
1日に 1つずつ, いぬの いのちは きえていきました。
しかし, そのけいさんだと ぜんぶの いのちが きえるのに 2000年 いじょうは かかります。
いぬは, 「おれは, 100万回も・・・・・・。」 といったことを こうかいしました。
ずっと, ずっと, こうかいしつづけました。
そして, それから 2000年あとの ずっとずっとあとのこと。
王さまの 国は, せんそうに よって ほろびました。
世界じゅうの ひとは せんそうで しんでしまっていたのです。
つちのなかにいた いぬは そのことを知りませんでしたが,
ふと 王さまが いつも いいきかせていた こもりうた を おもいだしました。
春 望 <杜 甫>
國破れて 山河在り
城春にして 草木深し
時に感じて 花にも涙を濺ぎ
別れを恨んで 鳥にも心を驚かす
峰火 三月に連なり
家書 萬金に抵る
白頭掻いて 更に短かし
渾べて簪に 勝えざらんと欲す
いぬは, じぶんの いのちが そうながくないことを さとりました。
そしてある日, いぬは, しずかに うごかなく なっていきました。
あれほど しにたかったはずなのに, いざ そのときがくると むねから なにかが こみあげます。
いぬは, はじめて なきました。 夜になって, 朝になって,
また 夜になって, 朝になって, いぬは 100万回もなきました。
朝になって, 夜になって, ある日の お昼に, いぬはなきやみました。
いぬは, つちの なかで,しずかに うごかなくなりました。
いぬは もう, けっして 生きかえりませんでした。