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若造

 

「……す、すいません……」


 少しの時間だったが霊峰(マアラ)大平原(タバサ)に挟まれたユダは落ち着いたのか、恐る恐る申し訳なさそうに身を捩り謝ると、形の良い眉を少し崩したマアラが首を横に振る。


「何言ってるの、謝らなくちゃならないのは私だよ? ……ホントごめんなさい……」


 そう謝ったマアラが、もぞもぞと胸元で動くユダをもう一度抱き締めていると、対面のタバサは少年の艶のある黒髪にゆっくりと繰り返し指を通し笑いかける。


「ユダ……落ち着いた?」


「……もう大丈夫です」


「ん……」


 短くやり取りをしたユダとタバサ。


 はにかみ笑う姿は、一般的には野性的で見方によっては粗野にも見えてしまうタバサだったが、ユダの目にはそう写らなかった。


「……ちょっとタバサ……なんかユダ君と通じ合ってない?」


 そんな二人を半目で睨むマアラ。

 しかしタバサはどこ吹く風。


「ユダかわいい」


 からかう様に言うとマアラの頬が風船の様に膨み、そこから女二人のじゃれあいが始まった。



 そして散々言い合い、すっきりしたマアラは腰に手をあて息を吐く。



「もうっ、タバサのせいでユダに変な女って思われちゃったじゃない」


 どう考えても自分(マアラ)のせいだと思ったログ爺とタバサは苦笑い。


「マ、マクスさん変じゃないですよ?」


 それに慌てたユダがフォローを入れると、マアラの顔がだらしなく崩れログ爺の耳元へすり寄り懇願する。


「ロズベルグ様……くださいっ」


「……ダメに決まっておろう……犯罪じゃぞ」


「あ、愛があれば大丈夫!」


「……今さっき知り合ったばかりでよく知らん相手に何が愛じゃ……」


「……これから……いや、今から全部聞いて来ます!!」


 無駄に洗練された動きでユダ捕獲に向かうマアラを、ログ爺は呆れ顔で見送ると、陽炎の様にユダの前に立った彼女は、機関銃も顔負けの勢いで自分の生い立ちや好きなもの嫌いなもの等、個人情報(パーソナル・データ)を次々に並べ立てていく。


「……で私の集落に、たまたま遠征の物資補給で寄ったデイジィチェーン(ロズベルグさまたち)と出会って、紆余曲折を経て今に至るって感じかなぁ……ってユダ君どうした?」


「……デイジィチェーン……デイジィチェーン……」


 ぶつぶつと呟くユダの焦点が妖しく揺れるているのだが、自分の事で頭がいっぱい(おはなばたけ)なマアラは少年の変化に一瞬だけ間を開けたが、直ぐさま話を進めていく。


「あ、タバサも一緒(デイジィチェーン)だし、もちろんロズベルグ様もね。まぁロズベルグ様の場合は()がつくけどねー。ちなみに|副団長《ナンバー

 ツー》だったんだ……よ……」


 と、そこまで言ったところでマアラは少年の変化に気付く。爛々と瞳孔を開いた瞳でマアラを見つめるユダ。


「……ログ爺が第六州(イースト・エンド)で最強と言われるクラン出身……しかも副団長……」


 マアラを見ているが見ていないユダ。

 そんなユダの反応から、またしても【やらかした(・ ・ ・ ・ ・)】事に気付いたマアラは、顔をひきつらせる。


「……もしかしてロズベルグ様から聞いてなかった……の?」


 片手で顔を覆い天を仰ぐログ爺を凝視したままユダは、マアラの問に無言で頷く。そして普段は柔和な瞳を鋭く変化させた黒曜の双眸を、少年は怒りと共にログ爺へぶつける。


「……なんでっ……あの時、遠征(いっしょ)に行ってくれなかったんですかっ!?」


 強面の風貌とは裏腹に、いつも優しく頭を撫でてくれた熟練の探索者(シーカー)戦闘屋(バウンサー)達。


「……弱肉強食の世界だ……だから万全の準備挑んで……それでも還って来れないならしょうがないよ……でもっでもさあ……あなたが一緒に行ってればっ……皆死ななくてもすんだんじゃないのかよっ!?」


 本当の兄や姉の様に接し、家族の温もりを教えてくれた見習い発掘者(サルベイジャー)達。


「なあっ? 黙ってないでなんか言えよ」


 ミカエラの兄(ハビエル)が命を落とした遠征(ツアー)を思い出し、鬼のように目を吊り上げたユダは身体を震わせ、すがるようにぶつけられた少年の言葉を義足の老人はただ受け止める。



 大人三人。

 少年一人。





 絞り出される嗚咽は、外で賑わう声と混ざり散っていった。





 *





 ますます外は賑わい、それに比例するように指示を飛ばす村長の声が大きく響く。



 あれから嗚咽の中、大人達は立ち尽くしていたが、前触れもなくユダがゆらりと動いた。おぼつかない足取りでゆっくりと出口へ向かい、ふらつくユダの足は床に並べられた遺物(レリック)を弱々しく蹴散らす。


 その憔悴した背中にかける言葉が見つけられず、マアラとタバサの手が宙を掻き表情は苦しそうに歪む。


 だがログ爺は二人と違った。


「なぁーにが【弱肉強食の世界】じゃ。わかったような口をききおって、片腹痛いわ」


 無表情で淡々とログ爺が語ると少年の足がピタリと止まる。


「……なんですか?」


 瞳孔の開ききった目で睨み付けてくるユダへ、ログ爺はあからさまな嘲笑を浮かべる。


「ワシがいれば死ななくてもすんだ?  はっ、合成貴種(キメラ)に襲われながらも大量の遺物と、何よりも八人の見習い(わかもの)を帰還させた……奴等を冒涜するなよ?」


 嘲笑が一転、ログ爺から怒気が爆発的に吹き荒れた。白く退色した髪は逆立ち、犬歯を剥き出す。強烈な怒気は少年に幻視を見せ、ログ爺から立ち上る白色の【何か】がユダの足を一歩……二歩……と下がらせていく。


 そしてテントハウスの壁に少年の背が接すると、ユダを庇うようにマアラがログ爺の前に出る。


「ロズベルグ様……ちょっとヤリ過ぎ。大人気無(おとなげ)ないです」


 マアラは咎める様に眉をひそめると、壁際で硬直しているユダの腕を抱えた。


「確かに君が言う通りロズベルグ様が同行していれば遠征者に死者は出なかったかもしれない……でもその代わりに集落(スプリングバンク)が壊滅していたと私は思う」


 諭す様なマアラの言葉に暗い感情に支配されていたユダの思考が、ある方向に傾いた。


「うん。そう、ロズベルグ様はね、遠征でごっそり抜けた集落の戦力をたった一人で埋めていたんだよ。ね、そーですよね?」


 マアラは問い掛けに気まずそうな顔で頷くログ爺を軽く一睨みし続ける。


「あ、念のためだけどロズベルグ様が怒ったのは、【ワシは集落を守っておったんじゃー】って事じゃなくて、【役目を全うした仲間】を軽くみた君にだからね?」


 そう言ったマアラはおねーさんぶった顔で片目を瞑り笑うが、横からタバサのツッコミが入る。


「そもそもマアラの軽口が発端」


 野性味溢れる笑顔できっちりオチをつけタバサが満足そうに相棒(マアラ)の肩を叩くのであった。

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