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九十九探偵事務所の事件簿
作:山里 渓一


俺の所にその依頼が舞い込んだのは3日前の深夜だった。
決まった事務所を持たず携帯電話のみで探偵稼業をしているので勿論、営業時間なんて物は存在しない。
朝イチだろうが、深夜だろうが、遠慮は要らない。 その事は俺に依頼してくるような連中には周知のはずなのだが、あの日かかってきた依頼は妙だった。


「ーあの、夜分遅く失礼します。九十九探偵事務所さんでしょうか?」


夜分遅く…久しぶりに聞く響きだ。
俺の依頼人はそんな言葉は使わない。
強いて言えば彼らにすれば昼間の方が深夜なのだ。
ヤクザに風俗関係者、引きこもりのニート…
そんな連中を相手に商売をするには365日24時間営業を余儀無くされる。
探偵とは名ばかりの裏方のトラブルバスターとして、そっちの方面ではちょっとは売れた名前だ。

依頼料金は50万から、必要経費は別途請求。

依頼人が望む望まずに関わらず結果が出るまで調査は続ける。ダブルブッキングはしない。

妹を探して欲しい…依頼人は女性だった。

誰からこの番号を聞いたのか訪ねたら、知っている男の名前をあげた。


「九十九さんにお願いすれば絶対に大丈夫だと、御聞きしたものですから…」


本来、素人相手の仕事はしないのだが、簡単そうな仕事だった為、安請け合いしてしまった。


「わかりました。妹さんは探します。そのかわり結果がどうあれそのままの事実をお伝えしますよ」


依頼人は結果の意味を分かってない様子ではぁ、と返事した。


「それと、もうひとつ…
九十九、じゃなくてQと呼んで下さい。余り九十九と呼ばれないものですから」




依頼人の名前は北条泰子、捜索人は妹の晶子、19才、行方不明になったのは1週間前。警察には届けたのだが、携帯電話や財布を持って出たこと、行方不明になって3日後にコンビニATMで少額の現金を引き出している等、



事件性は薄いと言う事で家出人として処理されてしまったようだ。


「黙って居なくなる様な子ではないんです。特に親しい男友達も…」

「そんな事は関係ありませんよ、事件性が在ろうが無かろが依頼された事案は完遂しますから」


姉の泰子は宜しくお願い致します、と憔悴仕切った声で話した。


Qは晶子の携帯電話の番号と簡単な特徴を姉から聞き出し、何かあれば連絡します、と言って電話を切った






初日、Qは馴染みの情報屋の所に顔をだした。
情報屋の名前はニューロンと言った。
名前の由来は脳内伝達分質で渾名の通り、電波関係のスペシャリストで口癖は、今の携帯電話システムを構築したのは俺だ、だ。
いつも決まったインターネットカフェにいて、表も裏も関係なしに情報を売りさばいている。
ニューロンの前職の事は知らないが彼の情報の正確さがそれなりの技術がある事を物語っていた。

Qはニューロンに晶子の携帯電話番号を伝えると直ぐに現在位置、24時間の通話記録がわかった。


「これで調べる限り、24時間以内に通話した記録はないね。何歳だっけ、この子?若いんだろ?丸一日誰とも接触しないなんて、ちょっと妙だと思わないか?」

指紋だらけの汚い眼鏡を仕切りにいじりながらニューロンは自前のノートパソコンに向かったまま話している。

Qはニューロンとの長い付き合いの中で、こいつが人と面と向かって話ししている所を見たことがない。


「確かに妙ではあるな、でも最近の子は電話よりメールじゃないのか?」


背後からパソコン画面を覗き込みながらQは余り関心が無さそうな返事をした。
ニューロンはふん、と鼻を鳴らし眼鏡の位置を直す。

「これだから素人は駄目なんだ。いいか、携帯電話の記録ってのはな、何も通話だけじゃないんだ。メールにサイトへの接続、それと着信までわかるんだよ。もう少し時間をくれれば過去1ヶ月は調べられるぜ」


Qは頼む、と言ってニューロンの胸ポケットに万札を数枚押し込んで、ニューロンと別れた。

ハイライトメンソールに火を付け、深々と紫煙を吸い込むとQは渋谷のスクランブル交差点を宇田川町方面へと歩きだした。

渋谷NHK会館までの緩い坂道をゆっくり時間をかけて歩いた。すれ違う人々は皆、他人には無関心で地べたに座りこむ若者達を然も障害物を避ける様に流れて行く。

Qは若者達を注意深く、そして然り気無く観察して歩いた。
余りじろじろと見ると、余計なトラブルを招き兼ねない。


『確かにニューロンの言ってた通りかもな…』


渋谷界隈の若者達は皆例外なく携帯電話をいじっている。
通話する者、メールする者はたまたゲームをしている者、友達と居ようが関係ないようだ。

Qから言わせれば確実にこの若者達の方が異常なのだが。







ニューロンから連絡が入ったのはQが渋谷界隈を一周して、駅前のコーヒースタンドに入ろうとした時だった。

「ちょっと来てくれないか?話したいことがある」


「携帯電話じゃ不味い事か?」


「あぁ…一応、この電話はデジタル暗号化してあるがあんたのは違う。用心に越したことはない」


「わかった。15分で行く、所で何か飲むか?」


Qは頼まれた抹茶と豆乳のオレを買うためにコーヒースタンドに行ったが、メニューを見てもそんな物は無かった。
仕方なしに何処かの高校生の様な格好の制服を着た店員に訪ねると、当店の裏メニューですよ、と心よく作ってくれた。

コーヒースタンドで時間を喰ってしまい、約束の時間には間に合わないのでQは普段は通らない裏道を使ってショートカットした。
古い民家の角を曲がれば正面にニューロンの居るインターネットカフェが見えるはずだ。

民家の角を曲がろうとして、Qはインターネットカフェの前に止まっている三台の黒塗りのSUVを見て曲がらず通りすぎた。
三台ともアメリカ製のでかい車でエクステリアはノーマルだが窓には真っ黒なフィルムが貼られていた。
その時、ニューロンから携帯電話に着信があった。


「ニューロンか?今、何処だ?」


「危なかったぜ、バイトのあんちゃんを買収して置いて助かった」


「何があった?」

「取り敢えず近くのファミレスに避難してる。これるか?」


「大丈夫なのか?あいつらまだインターネットカフェの前に居るぞ」


「多分、大丈夫だ。あいつらサーバーのIPアドレスから場所を割っただけで俺の事は知らないはずだ。架空名義だからな」


「少し様子を見てから、そちらに向かう」


電話を切るとQは110番に電話をいれ、店の前に違法駐車され困っている、とオペレーターに伝えた。
恐らく3分以内でパトカーが到着するだろう。

Qの読み通り、3分でパトカーが到着した。
一人の警官がSUVのナンバーを備え付けの端末機で素早く検索し、もう一人は店に入ろうとしたが、端末機を操作していた警官に呼び戻された。

その様子をQはコーヒースタンドで買って来たカフェラテを飲みながら、野次馬を装って眺めている。
警官達は二言、三言、会話を交わすと無線機に向かって何か言いながらその場を離れて行った。


『恐らくは赤坂…外交官ナンバーだろう』


野次馬達はパトカーが離れて行くと詰まらなそうに解散して行く。

Qはその流れに合わせてニューロンのいる、ファミレスへと向かった。







待ち合わせのファミレスに着くとニューロンはラザニアの最後の一口を口に運んでいた。

「狙われてるのに、暢気なもんだな」


Qは頼まれた抹茶と豆乳のオレの入ったコーヒースタンドの紙袋をニューロンの前に置き、対面に座った。

「ここに、来たらラザニアと決まってる。他のメニューは不味くて食えた物じゃない」


会話が聴こえたのかレジスターの所に居るマネージャーと思われる30代の店員が露骨に嫌な顔をした。

ニューロンはそれに構わずQの買って来た抹茶と豆乳のラテを飲みながら話し続ける。


「で、あいつらはなんだった?」


「最近、アメリカ大使館かCIAのサーバーにハッキングかけたか?」


ニューロンはニヤリと笑うと汚い眼鏡を外した。
余程、視力が弱いのか眼鏡を外した途端に眼を細め辺りを見渡す。眼鏡をかけて居る時はただのコンピュータオタクの風貌だが、外すと胡散臭いサラリーマンのようだ。
どちらのニューロンも素人からすれば余りお近づきになりたくないタイプだろう

「どっちも覚えがあるね。アメリカ大使館の方はインターネットのトップページにイラクで海兵隊にレイプされ殺された少女の顔写真を載せてやった。CIAの方は仕事で、ある工作員の経歴を抜き出した」
ニューロンは抹茶と豆乳のオレを飲みながらイタズラを自慢する子供の様に得意気に話す。

「そうか、それにしても三台で迎えに来るとはニューロンもビックネームになった物だな。ところで、何か解ったのか?」


ニューロンは胸ポケットから一枚のメモ用紙を取りだしQへ渡した。
そこには、電話番号と住所それと何と読むのか解らない神社の名前が走り書きしてあった。


「急いでそれだけメモして来た。もう、あのノートパソコンは使え無いな…多分今頃、中身を調べるのに奴等、必死だぜ」


ニューロンは愉しそうにゲラゲラと笑った。


「大丈夫なのか?色んな情報が入ってるんだろ?」


ニューロンは得意気に首から下がったネックレスを見せた。
ボールチェーンの先にプラスチック製のメモリースティックが何十個とぶら下がっていた。


「その辺は抜かりないさ、情報は全部この中だ。但しパソコンにもちょっとした仕掛けがしてあって、無理に中身を覗こうとすると強制的に洋ピンのAVが大音量で再生される。凄いぞ、太った婆さんのフィストファックだ」


あいつらの慌てた顔を想像してニューロンはまたゲラゲラと笑いだした。







二日目、Qは昨日ニューロンから渡されたメモ用紙に記された、住所を頼りに神社へと向かった。


「あの後な、その携帯電話の過去の履歴を調べたら、妙な事がわかった」

急に真面目な表情になったニューロンは真剣に話した

「過去1ヶ月間、その携帯電話はそこに書いてある住所から移動してない。それと履歴に関してはどうも削除された痕跡がある。もっとも携帯電話会社の利用履歴を消すのは出来なくもないが、相当腕の立つハッカーじゃなきゃ無理だ。何かのメカニカルトラブルじゃなきゃこいつは一筋縄では行きそうもないぜ」

ニューロンとの会話でQはこの事案の警戒レベルを1から5に上げた。

警戒レベル1は堅気からの依頼、風俗関係は3から、ヤクザ関係や玄人がらみは5、政治家、外交関係は6からだ。
レベル7以上は余程のつてが無ければ引き受けないし依頼料金も500から戴く勿論、殺しの依頼は受けないが自己防衛の為、少々物騒な物を持ち歩く羽目になる。ちなみに外国人とレベル5以上の依頼はキャシュで前払いだ。

もし、何らかの手違いで履歴が消えてしまったので無ければ、
依頼人そのものが嘘をついている事になる。

ただの悪戯で済ませるにはこの捜索人は妙な事が多すぎた。

無事に居ればそこで仕事は終了だし、悪戯とわかれば依頼人を探し出し規定料金の他に迷惑料金を貰うまでだ。

Qは愛車のアウディに乗り甲州街道を山梨方面に向かった。

Qの車は後ろのエンブレムを外してあるが、
アウディのS6で320馬力エンジンとフルタイム4WDの歴としたGTカーだ。
但しエクステリアは乗用車のA6と殆んど見分けが付かない上に、地味な外見なので例え尾行に使っても意識に残り難い。
いざとなればGTR並みの運動能力で危険を回避する事も可能だ。

Qの運転するS6は多摩川を渡り日野市内へと入りごみごみとした商店街を抜け小高い丘陵地へと進んだ。この辺りはまだ都市化が進んでおらず、狭い街道筋には所々に道祖神が建っている。

目指す神社は丘陵地を抜けた先、鬱蒼とした森の中に建っていた。
大きな欅の木のせいで危うく目印の鳥居を見過ごすところだった。
鳥居の脇に車を停め、車外に出ると、大きな深呼吸をした。
東京から然程離れていないのにこの大自然はなんだ?
Qは田舎暮らしを経験した事はないが、何となく安心する様な懐かしい様な不思議な感覚に陥った。


「どっから来なすった、若いの?ここらの者じゃねーな?」

ビクリと振り向くと大欅の袂に一人の老婆が腰掛けていた。
紺色のモンペに薄汚れた前掛けを着け、足元は泥だらけの白い長靴を履いている
畑仕事の帰りだろうか、側に置いてあるプラスチック製の篭には鎌等の仕事道具が雑然と放り込まれていた

「都内からです、ドライブ次いでに寄ってみました」

「田舎だと、馬鹿にしに来たのか?東京者は随分ひまじゃな!」


どうもこの婆さんは東京にコンプレックスがあるようだ。
息子でも都内に出て帰って来ないのだろうか?


「いや、そんなつもりは無いですよ。いい所じゃないですか?所でこの神社は何と言う神社でしょう?」


なんじゃ?と老婆は意外そうな顔をした。


「そんなことも知らんと来たのかえ?これはなヒルコと読むんじゃ、東京ではエビス様と呼んでるのかの」





婆さんと別れたQは境内へと進む長い石段を登って行く。
長く険しい階段だが、木々の間を吹き抜ける風が心地良く、時折立ち止まっては木漏れ日を振り仰いだ。

ふと、ポケット中から一つの御守りを取り出した。
老婆が別れ際にくれた物だ
「何かの縁だ、これをやる」
断るQのポケットに老婆は半ば無理矢理押し込んだ。柿色茶巾にサンスクリット語の様な文字が一つ記されている。

ポケットの中に御守りを仕舞うと再び石段を登り始める。
最初は気にも留めなかったが時折、ガラスにヒビが入る様なピシピシと言う音が聴こえた。

辺りを見渡しても、相変わらずそよ風と木漏れ日以外にQの興味を引くものはなかった。

だが、確実に聴こえる、階段を一段昇る度に音は大きくなって行く。

ピシッ、ピシピシ、ビシッ
耳鳴りの様な音は遂には耳を塞がずには居られない程の大音量となってQを襲う
堪らずQは駆け足で階段を昇り切ると、境内へと足を踏み入れた。

踏み込んだ瞬間、遂にガラスが砕けた音がしたが酷い頭痛と吐き気の為、Qの耳には届かなかった。
足元から消えて行くようなフワリとした浮遊感に包まれると同時にQの意識は暗い水面へと沈んでいった。






Qは目を覚ますと、辺りを見渡した。
先程の酷い頭痛や耳鳴りは既に消えていて、障子を通して穏やかな光が降り注ぎ鳥の囀ずりが聴こえる。

Qが寝かされていた部屋は豪華な造りの和室で、恐らく縁側に出るであろう障子扉の手前に一体の鎧兜が飾ってある。

布団から起き出し、縁側に出ようと障子扉に手をかけた瞬間、飾りものだと思っていた鎧兜が素早い動きで刀を抜くと、ピタリとQの喉元に白刃を突き付けた。

商売柄、人の気配には敏感な方だ、今だってけして油断していた訳でわない。

ゴクリと喉を鳴らしながらQは刀へ視線を落とす。

真剣だ…それも飛びきりの大業物だ。


「膝丸…戻りなさい…」


急に後ろから声がしたので思わず振り向いた。

そこには、巫女の格好をした、晶子とおぼしき人物が立っている。

突然の晶子の出現を気を取られたQは斬られる事を覚悟したが、そんな事はおきなかった。
恐る恐る、鎧兜に目を移すとそこには何事も無かった様に一式の鎧兜が飾ってあった。


「一体…さっきのは…」


「式神です、刀の膝丸に宿してあるの」


「しき…?なんだって?」


「あなたは誰?あなたのせいで結界が壊れた」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ。一体何の話だ?俺は頼まれて、晶子と言う子を探してただけだ」


女はふぅ、と息を吐くと、

「晶子は私、誰に頼まれたの?」


「君のお姉さんだ、君が突然居なくなったんで心配してる」


「私に姉は居ません」


「じゃあ…あれは誰だ…」


「これは、何処で?」


そう言って晶子は懐から柿色茶巾の御守りを取り出した。


「ここの神社の御守りじゃないのかい?下の鳥居の所で近所の婆さんがくれた」

「あなた、本当に何も知らないで、ここに来たの?」

「あぁ、知らない。君の携帯電話の現在位置を調べてここに来たんだ」

「私は携帯電話なんて持って居ません。あなた、完全にハメられたのね」


「どういう意味だ?」


「いいわ、説明してあげる。この神社を見つける事が出来た時点で才能があるみたいだから」







Qと晶子は社殿の奥の間にいた。中央に置かれた青銅製と思われる古い鏡は真ん中からヒビが入っている。

「どこから説明すればいいかしら」


鏡の前に正座した、晶子からは先程と違い荘厳な雰囲気が漂っている。


「あなた、白道衆と黒道衆は知ってる?」


「いや、何の事だかサッパリわからん」


「そう、じゃあ説明するわ、かつて日本には陰陽道と言う奇術を使う集団がいたの。阿部清明と芦屋道満、この辺りは聞いた事があるんじゃない?陰陽道とは、今でこそ風水なんて言われてるけどそうじゃないの。妖術や錬金術を駆使して大地に眠る龍脈の力をコントロールする事、それが陰陽道の最終到達点よ。高みを目指した阿部と芦屋の二人は遂に龍脈をコントロールする事を可能にするある物を造り出した、それがこの賢者の石と呼ばれいる物」

晶子はおもむろに着物の前を開けると首から下がった蒼く輝く勾玉を見せた。
形こそ普通の勾玉だが色と輝きは見たことも無い鉱石だった。ターコイズとサファイアを足した様な物と表現したら良いのだろか?但し輝き方が違う、明らかに鉱石自体がうっすらと発光している様だ。


「余り、視ない方が良いわ。」


そう、言って着物を閉め、続けても、良いかしら?と晶子は居住まいを正した。
Qは頼む、と頷いた。


「賢者の石の使い道で二人の意見は別れた。阿部は龍脈を抑え日本を安泰にする事、芦屋は龍脈の力を使い日本を我が物にする事だった。阿部の子孫が白道衆、芦屋の子孫が黒道衆よ。何百年にも及ぶ争いで遂に白道衆が勝った。しかし黒道衆が完全に消えた訳でわ無い、そこで白道衆の先祖達は日本中に神社を建立し、黒道衆の眼を欺いた。実際龍脈をコントロール出来る場所に建つ神社は極少数よ…
龍脈は独特の波長を持っている為、結界を何重にも張って外から感知出来ないはずだった。あなたのお陰で壊れちゃたけど」


「それは、つまり…」


「そう、あなたは黒道衆の手先にされたのよ。元々あなたには才能が有ったみたいね。ここに来る途中、沢山の道祖神に気が付いたかしら?」


「あぁ…確かにあったな」


「あれも、一種の結界なの徐々に人間の視聴感覚に働きかけて能力の無い人間はここに近ずけず、能力があっても邪な心の者は鳥居から先には入れない。その点あなたは打ってつけの人物だったのよ」


「じゃあ、下で会った婆さんは黒道衆なのか…?」


「おそらくね。あなたに渡した物は御守り何かじゃないわ。あれは、結界を壊す為の呪符よ。このところ、黒道衆の動きが大きくなって来たから警戒はしてたのだけど」


「それは、すまない…」


「あなたが謝った所でもうどうしようもないわ…」


二人の間に重苦しい空気が流れた。
Qはその空気に耐えられず話題を替えた。


「今まで、黒道衆は何処に潜んでたんだい?」


「あなたの直ぐ側よ。彼等は錬金術を使って科学、製薬、鉄鋼、そして軍需産業などの分野に深く根をはってるわ。最近の研究で賢者の石は日本の龍脈のみ為らず世界中のレイラインと呼ばれる一種の龍脈までコントロール出来る事に気が付いたの。今や、賢者の石は世界中の軍需産業や野望を持った政治家たちが狙っているわ。その急先鋒がアメリカよ」


Qは思い当たる節が有ると晶子にインターネットカフェでの一件を話した。


「その時点で俺達は踊らされていたのか…」


「そうね。インターネットカフェに来たのわあなた達を捕まえる為じゃないわ。お友達にそれ以上調べさせない為ね」


「確かにタイミングが良すぎた…ニューロンだってプロだ、もう少し時間をかければ携帯電話の情報が捏造された物だと気付いただろう」


「と言う事は、この件で動いているのはアメリカ政府絡みね…厄介だわ」


その時、遠くの方からパタパタとヘリコプターの音が聴こえきた。
徐々に近づくその音にQの顔は蒼白になった。

独特のジェットタービン音は米軍の最新攻撃ヘリコプターAH-1Wスーパーコブラだ。


「まずい!米軍のヘリだ。ここに、白道衆の仲間はいるのか?」


「居ません。ただ、式神を使えるので何とかなるでしょう。あなたは逃げて!」

晶子は懐から数枚の和紙を取り出すと、呪文を唱え、手で宙に印を書く。
すると、和紙は己の意思で動く様に晶子の手元から飛び出して行った。


「無理だ、そんな物じゃヘリの攻撃は防げない!あいつらの目的はその石だ、石さえあれば何時でもこの場所は取り返せる。今は逃げた方がいい!」


「でも…どうやって…」


「いいから!ついて来い!」

Qは晶子の手を取ると、社殿から飛び出した。


「ちょっと、まって!膝丸よ、来い!」


晶子の呼び掛けで、社殿の中から一振の日本刀が飛び出して晶子の手に収まった
その時、ヘリは肉眼でも通常のヘリコプターでわ無いのが確認出来る程近づいていた。

Qと晶子は石段を駆け降りると、鳥居の脇に停められたS6に乗り込んだ。


「シートベルトを締めろ!」

Qは叫びながらギアをファーストに叩き込み、四輪をスピンさせながら車を発進させた。





Qの運転するS6は猛スピードで農道を駆け抜けて行く。
ギアをサードに入れる頃には、320kmのフルスケールメーターの針は150kmを指していた。

ドン、ドンと言う花火の様な音に晶子が後ろを振り向くと、神社のある丘からいくつもの火柱が上がっているのが見えた。


「大通りに出るぞ、しっかり掴まってろ!」


S6はスピードを落とさず農道から市街地へと入った

「もう少し、ゆっくり走れないの!」


一般車を抜かす度にQはギア、クラッチ、アクセル、ハンドルをリズミカルにそして正確に操った。


「無理な相談だ、後ろ見てみろ!」


晶子が車の荷重移動に逆らいながら後ろを見るといつの間にか真っ黒なSUVが3台、着かず離れずの距離で晶子達を追いかけて来た

「あれって…さっき言ってた…」


「そうだ。俺をハメた張本人達だ」


その時、カン、と空き缶を蹴飛ばす様な音が、トランクリッドの辺りから聴こえた。


「あの馬鹿ども!市街地でブッ放すんじゃねー!」


Qは一般市民を巻き込ま無い為に敢えて大通りを外れ農村地帯へ向かった。


「何処へ向かってるの?」


「一般市民を巻き込みたくない。ヘリが来たら一堪りもないが、その前にあいつらを片付ける!悪いが後ろへ移動してくれ。リヤシートのひじ掛けを下ろすとトランクが入ってる。それを取って欲しい」


わかった、と言って晶子がリヤシートへ移動した。
民家の疎らな辺りに来るとSUVは何とかQ達の前に出ようと仕掛けて来た。


「これで良いの?」


後ろからジュラルミンケースを晶子が寄越す。


「頭下げて、そこにいろ」


Qは器用に片手でケースを開けると中から大型拳銃並みの大きさしかないサブマシンガンを取りだし、グリップの下にマガジンを入れた。


「拳銃!?なんでそんな物を持って…」


晶子が頭を上げようとした時、アウディのリヤガラスが真っ白になった。


「きゃあ!」


晶子は慌ててリヤシートに身を伏せる。


「一応、防弾フィルムは貼ってある。まぁ、長くは持たないけど…」


背後に迫るSUVのサンルーフから身を乗り出した男が、1m位のパイプの様な物を用意しているのが、サイドミラーに映った。


「くそっ!ロケットランチャーだ!仕掛けるぞ、しっかり掴まってろ!」


「そんな小さいので、あの車を壊せるの?」


Qはニヤリ、と笑うと、


「MP7だ。まぁ見てな」

H&KのMP7は5.7mmの特殊小口径弾を使用するサブマシンガンで、コンパクトでアサルトライフルに負けない性能を目指し開発された銃だ。
その貫通力は200mの距離でケブラー製の防弾ヘルメットを貫通する。
また、特殊な形状の弾丸は回転時に尻を振る様な飛び方をするため、人体等の軟体分質にヒットした場合、45口径並のストッピングパワーを発揮する。


Qは直線道路に出るといきなりハンドルを切り、サイドブレーキを引くとギアをバックに入れた。
S6はクルリ、と方向を変えてSUVに鼻先を向けた
いきなりの曲芸技にSUVが慌てて距離を置こうとした瞬間、Qはフロントガラス越しに手前の二台に向けフルオートで撃った。

MP7から撃ち出された小口径弾は、秒速850mの速さでSUVのフロントガラスを突き破り、車内のあらゆる物を破壊する。

運転手を撃たれた二台のSUVは後続の車も巻き込んで派手にクラッシュした。






車を停め、QはMP7を片手にクラッシュしたSUVに近付いた。
一台一台中を覗き込み生存者が居るか確かめて回る。一番破損の少ない一台の前にかがみ、逆さまになった車内を覗き込むと、はじめまして、貴女がお姉さんかな?と言って中から中年の女性を引きずり出した。


「見覚えあるかい?」


Qは瀕死の女性を引きずりながら晶子に話しかけた。

血だらけの顔で最初は首を捻っていた晶子は、右眉の所にある特徴的な黒子を見付けて絶句した。


「先生…高校の時の担任の先生だわ…」


その時、瀕死のはずの女の手から深緑色の金属がゴトリ、落ちた。


「やばい!グレネードだ」


Qは咄嗟に晶子を突き飛ばしたが、眩い光と轟音、そして灼熱の炎に包まれ彼の意識は暗い闇へと散霧していった。






「ねぇ…起きて、起きてよお願い…」


晶子はQの身体を抱いて泣いていた。
Qの体半分は焼け焦げ、ザックリ、と口を開けた右胸の傷からは鮮血が溢れる。

「私は…あなたの名前も知らないのよ…教えてよ…」

晶子の涙が頬を伝い、胸元を濡らす。
その涙の雫を受けて、賢者の石が僅かに発熱した様な気がした。

「そうだ!昔、爺に聴いた事がある…賢者の石を体内に取り込んだ場合、波長が合う人間ならば上手く融合して不老不死になれるはずだわ」


晶子は首から賢者の石をむしり取ると、Qの右胸に開いた大きな傷口に石を押し込んだ。
一瞬だけ石は輝いたがQが眼を開ける事は無かった。

「間に合わなかったの?起きてよ!ねぇ、起きて!」

晶子は必死にQの胸を叩いた。


「名前位、教えなさいよ!」

晶子はQの胸に顔を埋め、声を上げて泣いた。


「九十九…てんだ…みんなは、Qって呼んでる…」


晶子は、ハッと顔をあげるとQは笑っていた。


「女の子にそこまで名前を訊かれるのも悪くない」


晶子は涙を堪えながら、微笑んだ。


「バカ…」






半年後




Qは古い青銅製の鏡の前で歯を磨いていた。


「Q!何度言ったらわかるの?それを、そんな事に使わないで」


「だって、丁度いい所に置いて在るからさ…」


「だから、あなたは…」


その時、携帯電話が鳴ったQが取ろうしたら横取りされた。


「はい、九十九探偵事務所です。はい、はい…分かりました。すぐ伺います」


「Q、仕事よ。鹿島神宮の要石が持ち上がり始めたらしいわ」


「レベル10か…また、タダ働きかい…?」


「そんな事言ってると夕御飯作ってあげないよ!」


「わかったよ、じゃあ晶子は要石、調べて置いてくれ…向こうに着いたら電話するから」


「気を付けてね、Q…」


「あぁ、わかってる。行くぞ、膝丸!」


・・・・終わり!


御愛読ありがとうございました。読者の評判が良ければシリーズ化したいと思ってます。批判、応援どちらでも構いませんメッセージを戴けたら幸いです。













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