自殺未遂
僕はいつも学校の屋上で昼食を食べる。特に理由はない、しいて言うならなんとなく。
しばらく通っていたのだが、昼休みに僕以外の人が来ることはなかった。何故かは知らないし、知ろうとも思わないし、知りたいとも思わない。
だが、今日は先客が居たらしい。流石の僕もフェンスの向こう側に居ることには若干驚いたが。
「危ないですよー、助けましょうかー?」
「けっこうよ、なにせ今から自殺するんだから」
「そうですか」
今日のお弁当はなんだろう?
「ちょっと、そこは普通止めるとかするでしょ!」
「え、じゃあ、君、自殺ヨクナイヨ」
「何よその言い方は!もっと真面目にやりなさいよ。こっちは現実にうちひがれている美少女よ」
「自分で言ってると悲しくなりませんか?」
「・・・少し」
へー。
「まあ、僕も暇なんで自殺の理由でも話してくださいよ」
「何でアンタに」
「いいじゃないですか、どうせ死ぬつもりなんでしょう?少し生きる時間が増えるだけですよ」
「・・・・・」
「まあ、そんなに聞きたいわけでもないんで言わなくともいいんですけどね」
「・・・実は」
教えてくれるんだ。
「私は生まれた時からなんでも出来たのよ。運動、勉強、ゲーム、料理、美術、それこそなんでもね」
「それで?」
「それが原因でいじめられた」
ああ、ありそうな話だ。
「・・なんてこともなく、友達もいっぱいいるし、皆優しくしてくれるわ」
・・・・なにそのフェイント。
「それに、ほら、私って見てのとうり美人でしょ」
「また。まあ、客観的に見たらそうかもしれませんね」
「だから、男子にもモテた。私は何もしなくとも人より秀でていた」
「ええ、それで」
「つまらないのよ、簡単すぎて。私にとって人生なんてマ〇オでクリ〇ーを倒すのよりも簡単なのよ」
「またずいぶん具体的ですね」
「まあ、アンタからしたら贅沢な理由でしょうけど」
「さあ、どうでしょうね」
「はあ?」
「僕はそうなったことがないのでなんとも言えません」
「そういう問題?」
「ええ、僕は貴女ではないので貴女の気持ちを知ることなどできません。仮に貴女とまったく同じ環境にいたとしても、貴女と似たようなことは思うかもしれませんが、まったく同じことを思うことはないでしょう」
「そういうものなのかしらね」
「さあ」
「なにそれ」
「だから言ったでしょう、自分以外の人が何を考えているかなどわからないと。今のが正しいかどうかなどわかりませんよ」
「・・・意味わかんない」
「へえ、貴女にも難しいことがあるんですね」
「え、何のこと?」
「今、僕が言ったことが理解し難いと言ったじゃないですか」
「・・・・・・あ」
「マ〇オにもありますよね、簡単だと思っていたステージに隠しステージがあったり」
「・・・・・」
「貴女も探してみたらどうですか?その人生の隠しステージ」
「・・・カッコつけたつもり?」
「そうとってもらってもかまいませんよ」
「そう」
「では、これから物理の実験なので」
「・・・・・」
そのまま僕は屋上を去った。
この日、この学校で自殺した少女がいるという話を聞くことはなかった。
〓
次の日、僕はいつものように屋上に行った。
どうやら今日も先客が居るようだ。
「一日ぶりですね」
「そうね」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ねえ」
「はい?」
「見つかったわ」
「何がですか?」
「隠しステージ」
それはまたクイックリーな。
「見つけたのはいいのだけど、ずいぶん攻略が難しそうなのよ」
「どれくらいでしょうか?」
「そうね、片足だけでコントローラーを操作してク〇パを10体倒すくらいかしら」
「・・・どこから突っ込めばいいのかわかりません」
「別にしなくてもいいわよ」
「そうですか」
「ええ、本当に難しいのよ。なにせ」
「ん?」
「アンタの攻略なんだから」
最後の言葉は僕の耳には届かなかった。
だけど、もう一人で屋上に居ることはないということは、なんとなくわかった。