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前書き

この物語は『アーサー王物語』と『白の古術士』を呼んでいないと、多分理解できない内容になっています。
もしかすると、それでも足りないかもしれませんが、その辺りはご愛嬌ということにしていただければ、幸いです。
ご愛嬌にできない人には、先に謝ります『ごめんなさい』。
(いい加減な作者で申し訳ないです)

グランノルス物語(番外編) マーリーン
作:kajita


グランノルス物語(番外編) マーリーン


世界とはただひとつではなく、数多の星々と同じ数ほど存在する。
通常世界と世界の間には、目では捉えることができず、触れることもできない壁によってさえぎられている。だが時に、この壁に亀裂が生じて、別の世界へと人や物が流されていくことがあった。
数ある世界の中では、この現象を発見した者たちがいて、やがて彼らは高度な科学技術や、精神的な業を用いることによって、世界を遮る壁に亀裂を生じさせる方法を生み出した。
彼らは『数多の世界』へと旅する方法を手にしたのだ。
そんな世界移動の技術をもつ者たちの中でも、もっとも早く見つけた世界に『銀界』や『仙界』と呼ばれる世界が存在する。
『銀界』に住まう一族たちは、その世界の名をとって『銀族』と呼ばれた。彼らは生まれながらの旅人であり、そして探求者であった。『銀族』は数多くの世界を旅して周り、多くの世界の人々から知識や技術、文化を学び取り、そしてまた自身のもつ情報などを、旅した世界の人々へと伝えた。
彼らは多くの知識を有し、それらの知識を融合していくことで、高度な技術を持つようになった。
だが、それはもはや伝説や神話で語られるほどに古い時代の話。
やがて、時が流れ去るに従い、『銀族』たちを直接に知る者たちはいなくなった。数多くの世界が存在し、多くの世界が世界移動の術を見つける時代となった今では、生きた銀族の話は、伝説や神話に分類されて語られるのみだ。
だが、銀族は存在していた証拠に、彼らが残した遺産が、『数多の世界』の中に、いろいろと残されている。
それらの技術は高度であるが、それゆえにまだ未熟な者たちが知るには危険な内容も数多く存在していた。
その遺産が悪用されないようにと、伝説の時代から銀族とかかわりをもつ世界の者たちは、彼らの遺産を見守ることを自らの使命のひとつと科した。
その1人が、『仙界』を故郷とするマーリーンという名の人物だった。
『仙界』に住まう人間は『仙人』と呼ばれる。5千年を超える時を生き続けることのできる種族だ。
マーリーンは数ある世界の中のひとつ、『詠唱界』と呼ばれる世界で、長らく銀族の遺産を見守ってきた。
ただの人間であれば、もはや寿命を迎えてしまうほどの期間にわたり、彼はギルガルスと呼ばれる丘に突き刺さる、銀族の遺産を見守り続けていた。
「お前を抜けるものが現れると良いの」
マーリーンは銀族の遺産にそう語りかけた。
遺産は何も語ることのできない剣だった。だが、その剣がかすかに振動をして、マーリーンに答えていた。
「ホホ、まあ気長に待つとするよ。ワシも、この世界の人間を知ることを面白く思うのでな」
剣にそう告げると、マーリーンは風となってその場から消え去った。
『仙界』のものがあつかう『仙術』を用いたのだ。
『詠唱界』には詠唱術と呼ばれる業が存在している。『詠唱界』にいる間に、いくらかの詠唱術をマーリーンは使えるようになっていたが、やはり基本は仙術を用いることにある。
やがて銀族の遺産を所有するものが現れるときまで、マーリーンは気長に、この世界の人間の営みを眺めていくことにした。
あるときは雲に乗り、空の上から人々の姿を見た。
大陸に、ロマーフと呼ばれる帝国が現れたときには、その各地を旅してみたこともある。
時に、権力者の酒席に現れて、幻をみせることでからかったりもした。
仙人とはいうが、やっていることは子供のいたずらとそう大差はない。ただ、それを仕掛ける相手が、その世界では並々ならぬ権力者であったりするわけだ。もっとも、世界を移動する術を持つマーリーンを、いまだに他の世界があることさえも知らない者たちが捕らえられるはずもない。
「シルフィード、あとはお前さんに任せるぞ」
詠唱界に住まう風の精霊にそう告げると、風の精霊は風を起こして、権力者たちの取り巻きの目に砂を吹き込んでしまった。
「ホホホ、知らぬ間にお前さんもワシに似てきおったの」
シルフィードのいたずらを笑い、マーリーンは仙術を用いて、その場から消えた。
後に残された酒席の場の人々は、忽然と消え去ったマーリーンに驚かされた。
それこそ、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしていた。

そんなマーリーンであるが、あるときに気づいた。
ギルガルスの丘の剣が抜かれていることに。
「ほう、まさかお前さんを抜くものが現れるとはな、面白いものじゃな」
驚くと言うよりは、これから起こるであろう出来事に興味津々といった様子のマーリーン。
兎にも角にも、彼には一応『銀族の遺産』の行く末を見守る責務が存在した。責務とはいうが、そんなに深刻には考えていない。
とりあえず、マーリーンはそのまま剣を抜いた男の所へと向かうことにした。

そこで出会ったのが、頼りない風貌をした青年アーサーだった。
初めてアーサーの姿を見たとき、マーリーンは内心で噴出しそうになった。
「まさか、銀族の遺産をこのような青年が手に入れるとはな」
こんな頼りない青年が、なぜギルンが留守の丘の剣を抜くことができたのだろうか。『銀族の遺産』であるギルガルスの丘の剣、エクスカリバーと呼ばれる剣には、意思が存在している。
その意思が、アーサーを選んだのだろうが、その選んだ人間の頼りなさが、このときのマーリーンにはおかしくて仕方がなかった。
もっとも、マーリーンがアーサーのことを内心でおかしく思っているのに対して、アーサーの方も、マーリーンを胡散臭そうな表情で見ている。
そこでマーリーンは手のひらに炎の精霊イフリストを呼び寄せて火を起こした。
その様子に驚くアーサー。
「おい、熱くないのか?」
「フフ、安心なさい。これが世に有名な詠唱術というものじゃ」
マーリーンはそう言って、炎に息を吹きかけた。
息に吹かれた炎は盛んに燃え上がり、数多くの火を周囲に飛び散った。
「うわっ、危ない」
炎は部屋全体に広がり、今にも燃え上がりそうになる。
―――コツン
だが、マーリーンが杖をついた瞬間、広がっていた炎たちは急に勢いを弱めて消えてしまった。
その光景に、ぽかんとするアーサー。
ますます面白い表情をすると、マーリーンは愉快な思いになる。しかし、表面はあくまでも丁寧な表情を崩さなかった。
「以後お見知りおきを、グランノルスの王アーサー」
そう言い、マーリーンはアーサーの前に一礼した。

それから、年月は早く流れた。
マーリーンの種族である『仙人』は、5千年以上の寿命を持つことから、別名『長命種』とも呼ばれている。
そんな彼にとって見れば、10年や20年の時の流れは、それほどに長いものでもない。せいぜい、普通の人間で言うところの、1月、2月ぐらいの長さでしかない。
しかし、その間にアーサーは、頼りない青年から、頼りない中年になり、そしてあまり頼りのありそうではない老人へとなった。
はじめはただの貧乏旅人と称していたアーサーであるが、知らない間に彼の周囲にはマーリーンをはじめとして多くの仲間が集まっていた。
グステン、ギリアム、フード、バンカー、ディル、ハンス。
そして、そこに従っていく多くの者たち。
アーサーの魅力が彼らを惹きつけている。
皆一様に、アーサーを頼りなく思っていて、この人には自分がいてやらないといけないと、勝手に思っているのだ。
とはいえ、各言うマーリーン自身も、実はアーサーの頼りなさを見ながら、自分が付いていないと危ないなと、思っていたりする。
それは、アーサー自体の魅力でもあったが、同時にそれこそがアーサーが手にする『銀族の遺産』エクスカリバーの能力でもある。
銀族は『真銀』と呼ばれる道具を作り出した。それは、星を作り出すシステムであり、命を作り出すシステムである。
有形の世界のさまざまなないようを司り、それと同時に無形の心にまで影響を及ぼす能力を持っている。
銀族はその『真銀』を12の機能に分けることで『12の銀』と呼ばれる道具を作り、さらにそれを12の機能に分割することによって、『144の銀』と呼ばれる道具を生み出した。
エクスカリバーはその『144の銀』のひとつで、人の心を集める能力を持った道具だった。
とはいえ、誰にでも扱えるものではない。エクスカリバー自体にも意思があり、常に使用者を選ぶ能力が存在した。
「ホホ、面白い方よの」
銀族の遺産が選んだアーサーと過ごすことは、マーリーンにとって愉快なことであった。
5千年の長いときに中を生きてきた彼であるが、こういう経験はそうめったにない。
とはいえ、長いときを経てもなかなか歳を経ないマーリーンに対して、詠唱界の人間の寿命はあまりにも短すぎる。マーリーンの傍で、アーサーたちは見る見るうちに年を経て、老いていった。

そしてある日の夜、マーリーンはアーサーに告げた。
「国王陛下に申し上げたいことがございます」
「また改まった態度をとってどうしたのだ」
マーリーンの態度に、不思議がるアーサー。
「そろそろ私は陛下の元を離れようかと思っております」
「・・・」
そう言葉を発したとき、アーサーは驚いた表情をしていた。
無理もないだろう。かれこれ出会ってから20年にはなろうかとしている。突然の別れを告げられれば、誰だってそうなるはずだ。
「・・・すまないがマーリーン。今なんと言った?」
「ですから、陛下の元を去るべき時期が来たのです」
「突然だな」
「はい」
「そういえば、マーリーンが私の元に現れたときも突然のことだった」
そう言って、しばらくのあいだ黙り込むアーサー。
初めてであったときには、孫のような青年だったのに、今ではもうアーサーの髪も白く染まり始めている。
マーリーンにとっては、それほど長くないときだったとはいえ、アーサーには、一生涯の中の多くの時間が過ぎているのだ。
「懐かしいですな。出会った頃はまだ年端の行かぬただの青年でしたが、今では7人の子供を持つ親であり、立派な君主になられている」
「マーリーン、私はまだまだ至らぬ男だ。これからも、以前と変わらぬように支えてはくれぬのか」
「残念ですが、それはできませぬ」
マーリーンが去ることに、アーサーは残念がったが、マーリーンもそろそろこの場を後にしなければならなかった。
いつまでも、アーサーたちにはかかわってもいられない。
マーリーには銀族の遺産を見守る責務がある。無論、アーサーの下を去っても、その傍で銀族の遺産の行く末は見届ける。
ただ、あまりにもマーリーンはこの世界の人間ではない。すでに多くの影響を与えているが、これ以上この世界に『仙人』である自分が影響を与えるのもいいことではないのだ。
公の舞台にでるのは、そろそろひきどきなのだ。
別れる最後に、アーサーはマーリーンが不老不死なのではないかと聞いてきたが、マーリーンはそれは否定した。
「ホホホ、どのようなものにでも、死はやがて訪れます。私とてそれは変わりませぬ」
そういい、マーリーンは仙術を用いて、風となってその場を後にした。

それからさらに10年の歳月が流れた。
アーサーが老衰した。
彼は、ひとつの王朝をグランデルク島に打ち立てたが、晩年は息子の反乱にあい、自身がそれを鎮圧しなければならないという悲惨な立場に立たされた。
女子はいたが、跡を継ぐものがなく結局アーサーの一代でその王朝は滅び去ってしまった。
アーサーが死去したその日、マーリーンは静かに彼の傍を訪れた。
「逝かれましたか」
アーサーの死に顔を見て、マーリーンは一礼した。
それから、近くにあるエクスカリバーへと視線を向ける。
「お前さんが選んだ男も死んだ。そろそろワシらも行こうではないか」
マーリーンのその言葉に、エクスカリバーは拒否の意思を表した。
拒否と言うよりも、感傷といった方がいいかもしれない。
エクスカリバーは自らが選んだ主が死去したことに、感傷を持っているのだ。銀族が作り出した道具は、まるで人間のような意志を持っている。もっとも、そうでなければ人を惹きつけるような力を生み出すこととてできるはずがないのだ。
しばらくのあいだ、エクスカリバーはアーサーの死を悼んでいたが、やがてそれを拭い去った。
「では、ワシらも行くか」
エクスカリバーの意思を確認して、マーリーンは杖の先で地面を叩いた。

長いときを経て見守り続けた銀族の遺産エクスカリバーを手に持ち、マーリーンは『詠唱界』と呼ばれる世界から旅立った。
これから、別の世界へと向かう。
このエクスカリバーという剣を携えて・・・


あとがき


ども、筆者のkajitaです。
『グランノルス物語(番外編) マーリーン』をお届けいたしました。
えー、この物語はおまけです。
しかも、もともと『アーサー王物語』の存在自体が、『白の古術士』から派生する形で生まれた内容です。そのため、今回の内容は、実は『白の古術士』の内容を知らないと、半分は理解できないという内容になっています。
(まだ『白の古術士』を呼んだことがない人は、呼んでみてね〜。・・・コメディーだけど)
しかも、実際には『白の古術士』では、まだ『詠唱界』と呼ばれる世界は一度も書いたことがありません・・・

「これ、本当に公開して良かったのかな?
 まだ時期が早すぎるのでは!」

そんなことを心のうちで考えつつも、とりあえず『アーサー王物語』の本編で、散々マーリーンに謎の老人的な役割を当てえてしまっていたので、それの正体を書かなきゃならないと思い、このような話を展開いたしました。

というわけで、今回はこの辺りでお別れを。













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