Nineth ゲルダ・ネビリム
ある小さな村に一人の女の赤ん坊が産まれた。
不思議なことに、その赤ん坊の手には紅く綺麗な紋様が描かれた石が握られていたという。
そして、その赤ん坊はゲルダと名付けられた。
第二章 業の見返り
雪がちらほらと降る中、港からケテルブルクへと一人の女性が歩いていた。
その人こそ、ゲルダ・ネビリムである。
彼女はケテルブルクで先生をすることになっている。
元々彼女は勉強が好きで意図せずこの職に着いた訳だがこの職業は大好きだった。
子どもが好きだったのだ。今も新しい生徒たちへ思いをはせていた。
ケテルブルクへ着き、今まで使われていなかった小さな廃校に入る。そして、自分の職場を綺麗にしようと掃除を始めた。
少しして窓の外から視線を感じ、そちらを向くと銀髪の少年がゲルダを見ていた。
目が合うと少年は恥ずかしそうに逃げていく。初初しい少年の態度にゲルダは微笑み、また掃除を始める。
掃除が終わったのは昼過ぎであった。
暇になったゲルダはケテルブルクを観光しに出かけることに決め、マフラーとコートを着ると外へ出ていく。
光が反射し、キラキラと雪が煌めく幻想的な光景にゲルダは見いっていると遠くから子供たちの声が聞こえてきた。
自然と声がする方へ歩いていくと先程の銀髪の少年と金髪の少年と少女が楽しそうに遊んでいる。不意に金髪の少年がゲルダに気付くと近寄ってくる。
「あんたが新しくきた先生か?」
ゲルダは10歳程の年齢相応の言葉遣いでそう聞いた爽やかな金髪少年に不快感は持たなかった。
「初めまして、ゲルダ・ネビリムよ。音素学を教えることになってるわ」
「俺はピオニー。でも教えること少ないと思うぜ。なんてったって俺たちには辞書人間がついてるからな!」
ピオニーは胸をはってゲルダに誇る。ゲルダは、いぶかしげに先程の言葉を反芻する。
「辞書人間?」
「ジェ…ジェイドの事だよ」
ゲルダの呟きに答えたのは驚いたことに、銀髪の少年だった。
「ジェイド?」
何故だろう。彼らとジェイドと言う人を知っている気がする。
「天才譜術師、ジェイド・バルフォア。この町では有名なんだ。大人でも簡単には使えない譜術を軽々と使う才気、莫大な知識に容姿端麗、将来有望な少年って大人は期待してるが…どうかな」
ピオニーは嘲笑するように笑うと、悲しげに目を細めた。何故か様になっている。ゲルダはそんな大人びた少年に問いかける。
「どうして?」
「兄は死を理解できません」
金髪の少女はピオニー同様悲しげに話す。なぜ彼らはこんなに大人びているのだろう。例外の年齢相応の会話をする銀髪の少年がより幼く見える。
「あなたのお兄さんなの?」
「はい。……兄は化け物です」「ネフリー!そんな風に言うなよ」
ピオニーはネフリーと言うのだろう少女に声を荒げる。
「本当のことよ。先生、確かに兄は天才です!でも命をなんとも思っていないんです」
「ネフリーさん……」
「だから、先生!お願いです!兄に…兄に命の大切を教えてほしいんです!私、兄が怖い…」
ピオニーは泣き出してしまったネフリーを連れて家に帰っていった。
銀髪の少年はゲルダの隣に立つとすがる様な目で見る。
「僕たち、ジェイドのこと怖いけど好きなんだ。物知りだし、時々優しいから」
ゲルダはこの少年のぎこちないがはっきりとした思いやりを感じた。優しい子だ。
「あなたの名前は?」
「サフィール」
「ねえ、サフィール。なぜネフリーさんは初対面の私に相談したの?」
ゲルダがそう言ってサフィールに向くとサフィールはもじもじと話した。
「えっとね…あのね…ネビリム先生と初めてあった様な気がしなくて。なんて言うのかな…懐かしかったの。みんなそう言ってた。初めてあったのにね?」
ゲルダは驚いたが確かに懐かしさを感じていた自分に気付いた。
「私もよ。それに嬉しい。私もあなたたちの期待に応えないといけないわね」
そのジェイドと言う少年に会ってみよう。
ゲルダはサフィールにジェイドが何処にいるのか聞き、そこへ向かった。
町外れ、人があまり来ない森の中に不自然な雪の溶けた痕を見つけた。ジェイドと言う少年が使った譜術の痕に違いない。
サフィールの話によれば、ジェイドはよくここへ来ては譜術の練習相手に魔物を狩っていると言うことだった。勿論、無害な魔物も。
痕跡が新しいことから近くを散策すると、ピオニーとは違う金髪の少年がウルフと向き合い詠唱をしていた。
ウルフは直ぐ様、突進するが少年に届く前に詠唱が完成する。
『フレイムバースト』
少年がそう言葉をつむいだ瞬間、ウルフは炎の小爆発に呑まれ、フォニムに帰った。
少年は構えを解くとこちらを向く。
「誰です?」
こちらを向いた少年の顔には一片の感情もなく無表情だけがあった。
整った顔立ちをしている。きっとこの子が、ジェイドに違いないと考えたゲルダは姿を現す。
「私はゲルダ・ネビリム。ケテルブルクへ新しくやって来た先生よ」
「僕はジェイド・バルフォア。どうしてこんな所へ?」
普通なら誰も来ることのない様な場所にゲルダがいることが不審なのだろう。
ゲルダはサフィールに聞いてここまで来たことを話した。
ジェイドは一度、溜め息をつく。
「全く……」
溜め息をする姿を微笑ましく見ていたゲルダはジェイドの右手の怪我を見つけ『ヒール』をかけて治した。
するとジェイドはゲルダを驚愕し顔で見る。
「貴方は第七音素譜術師なんですか?!」
「え?ええ、そうよ」
ジェイドの驚きようにゲルダの方が驚いてしまう。
ジェイドはゲルダを熱心に観察する。第七音素譜術師は元々の素用がなければなれない。必然的にその数はごく少数となる。実際このケテルブルクにも巡回詠師か医師しかいない。極めて希少なのだ。ゲルダにしてみれば非常に居心地が悪い。
雪原が吹雪いてくるのをみて、ゲルダはジェイドにケテルブルクへ帰るように急かすのだった。
この出会いは必然なの、それとも二度目の偶然なのか。
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