お魔じない
「なあ、知ってる?」
「わっ、何だよいきなり声潜めやがって。知ってるって何がだよ」
「いや、都市伝説なんだけど……」
「うわーまたオカルトかよ。お前本当そういうの好きだよな」
「まあまあとりあえず聞けって。今度のはガチっぽいから」
「ガチのガチ?」
「ガチのガチ」
「ガチガチだな」
「そうガチガチ。っていやいいから話聞けよって。実はな、とある呪文があるんだよ」
「呪文すか」
「そうそうそうそう。その呪文を誰かから聞くとな、すんげー事が起こるってーの」
「うわ中身薄っ! 具体的な話全部ぼかしてるじゃん」
「いやでもガチだから。俺その呪文知ってるから」
「え、マジで? じゃあ実際何か起こったん?」
「うん。×××××××っていう呪文なんだけど」
あ、どうもどうもこんにちは。すいませんねえ突然。初めましてってやつですよねぇ。本日はお日柄も良く、ってそういうのいらない? へへへへ。まあともかく自己紹介、わたくし○○○○と申します。名前知ってる? いややっぱり知らないだろうなあこのご時世だしなあ。なんて言うんですっけこういうの。ジェネレーションシップ? とかいうアレですよね。いやそもそもわたしの知名度も大したことないってことなんでしょうけどねえ。あ、すいません脱線、わたしこういう無駄な喋りが多くて。わたくし、生前はちょっとくらい名の知れた霊能者だったんですよ。あ、いきなり生前はとか言われても困りますよね。実はわたくし幽霊なんですよ。モノホンの。霊能者の幽霊なんで、言うなら幽霊能者って感じですかね。いや面白くはないの分かってるんですけど、そっちの方が分かりやすいじゃないですか。別にウケ狙ってるわけじゃないですよ? いや言い訳すると余計にアレなんですけど。へへへへ。でね、わたくしとあるお寺の生まれでして。お寺と言っても仏教さんとかそういう有名なのじゃなくて、知る人ぞ知るって感じのところ。そのマイナーっていうとこにも意味がありましてね。実はちょっとヤバい仕事を引き受けてたんですよね。だから有名になっちゃいけないの。殺し屋がウィキペディアに載ってたらおかしいでしょ?ゴルゴ13じゃないんだからねえ。あ、わたくし何十年か前の幽霊ですけど最近のこともちゃんと勉強してますから。わたしの生きてた時代にはあんなの無かったですからねえ。本当便利な時代になったもんですよねえ。便利な物も楽しいこともいっぱいあってねえ。今の子供たちは幸せですよ。あ、また脱線。ごめんなさい、へへへへ。で、そのヤバい仕事ってのがね、呪いなの。世の中どうしても憎くて、殺したくてたまらない人っていますよね。でも表立って復讐するのは難しいし、何かしてやろうと思っても出来ないことだってある。そこを引き受けてあげるのがうちの仕事なんです。殺したいほど憎まれる人なんて一部を除いてドの付く糞野郎と相場が決まってますからね。正当な復讐をしてあげる、いわば必要悪みたいな存在なんですよね。ま、こっちの仕事を受ける際には結構お金を貰うわけですが。別に守銭奴ってわけじゃないですよ? ある程度お金が無いとお客さんが納得しないんですよね。これだけお金を出したんだからしっかり口止めになるだろうという信頼感。安いとこいつうっかり口を滑らせるんじゃないかと思っちゃいますからね。金にガメついわけじゃないんですよ、ええ。へへへへ。それでお金は割と貰ってたんですけど、何分知名度が低いもんでそれじゃ生きていけないんですよね。だから表の仕事もあったんですよ。表とか言っちゃうとなんか秘密結社みたいでカッコイイですよね。まあともかく、表では普通のお祓いだとかをしてて、ちょっとテレビにも出させてもらったりして。それで結構景気よく順風満帆にやらせてもらってたんですがね。ほら、今でもあるじゃないですか、ゴシップってやつ。当時はオカルトがブームなんてものになっていたりしたんで反発する気持ちがあったんでしょうねえ。ある事ない事書かれちゃいまして。本当に汚いですよねあの人たち。最初はチヤホヤしておいて、面白半分で掌返しするんですからね。しかも一番許せないのが、わたしの霊能力がインチキだって言うんですよ。霊能力がインチキどころか幽霊なんていないなんていう論調でね。わたしなんて子供の頃から親や親族が仕事に関わっているのを見てきましたし、わたし自身もその仕事で食ってきてるわけですからねえ。これまでの自分を全部否定されたような気持ちになったもんですよ。しかも裏の仕事までこそこそと嗅ぎつけて、個人の公に言えない弱みに付け込んで法外な値段を請求する悪徳詐欺、なんてレッテルまで貼られちゃって。わたしらの世界にはそれなりのルールって物があるのにですよ。していることだって必要悪で、本人たちも納得ずくでわたし共に頼んできてるっていうのにですよ。本当に汚いですよねえ。それにしてもあれってすごいですよね。今までさんざ霊視してくれだとかお祓いしてくれだなんてすり寄ってきた人達が今度はインチキは死ねって態度でわたしらを見てくるんですからね。もう無言電話の嵐と怪文書の投函が止まないんですよね。結局面白半分ですよみんな。別にわたしが何の危害を加えたわけでもないのにそういうことをやっちゃうんですよね。幽霊なんかいないだろってみんな言うんですよ。わたしは本当にそれが許せなかった。わたしの事はいいが彼らの事は否定するんじゃない、と。そもそも現にここにいますからね。それにしたって霊感の無い人たちには見えないからまた面倒なんですが。いやはや話が長くてすいませんね、お話が好きなんでわたし。へへへへ。で、有り体に言えば自ら命を絶ったんですよ。首をきゅっと縛ってね、ええ。まあ、もちろん成仏なんか出来るわけないですよね。それでこの世に漂うことになったんですが。これはチャンスだと思ったんですよ。どうにかして幽霊たちの存在を現世に知らしめたいなと。それで恐らくあなたがさっき聞いていただいたあの呪文になるんですねえ。すいませんねお話が長くって。まあお話を聞かせたところで幻聴なんて言われるのがオチですから、それ以上の事をしようと。ちょっと周りの子達を集めまして、ああ周りの子っていうのは浮遊霊のことですよね。やっぱり未練があるということで集めまして。これを聞いて頂いた人の中に入れちゃうんですね。人格を乗っ取ってその人になりきれば、その人は幽霊を知ってることになるわけですよ。そりゃ当り前ですよね、元幽霊なんだから。そいでもってその中身の知人にまたこの話をしてもらいまして、まあいわばネズミ算式に増えていくってわけです。ですから恨みがあるとかそういうのではなくて、完全に選ばれるのは偶然ですよね。ま、あなたも運が悪かったということで。世の中色々ありますからね。わたしみたいな死ぬより辛いことを経験する場合もありますからねえ。そういった意味では幸せなんじゃないですかね。また言い訳してとか思ってますか? いやいや全然言い訳だなんて、思ったことを素直に伝えてるだけですよ。へへへへ。とりあえずあなたの体が無くなるまでちょっと眠ってもらうことになりますが、そういうことで。そういうわけで、ちょっっおっとあななたの意い識を乗っ取ら取らせてもいらららららいますねーーっえーーっーー。
「――ああ、これはガチだな」
「な? ガチだろ?」
読みにくくてすいません